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点呼の終わり

 三階の点呼が終わり、休憩し、四階の点呼が終わった。

 結局、職員は順番にフロアを回っていたらしく、三階と四階でほとんどの職員と出会ってしまった。

 ただ、黒坪と湖浜には出会わなかった。

 四人は、和森を先頭にして階段を下りていく。

 沓沢のスマフォにメッセージが入った音がした。

 堂島はその音が気になって、自分のスマフォのメッセージアプリを見た。 

「!」

 和森が堂島の様子を察して、声をかけてきた。

「何かありましたか?」

「いえ、大したことでは」

 堂島は沓沢、北上、丸山、梁巣のグループに梁巣がいれたメッセージを読んだ。

『丸山さんが消えた』

 丸山は体を縛っていたはずだ。消えたと言うのはどういうことなのか。

 梁巣のどじっぷりに、堂島は頭を押さえた。

 まずい、と堂島は思った。

 黒坪がずっといないのは、丸山に何かする為だったのかもしれない。

 堂島は焦った。

「沓沢さん、点呼は無事終わりましたし、ちょっと心配なこともあるんで、車に早く戻りましょう」

「そうか? じゃあ、そうするか」

 沓沢はそう言った。

 一階に着くと、和森が事務室を開けた。

「このまま終わりで構いませんか?」

 堂島は気になって、事務所を覗き見た。

 黒坪も湖浜もいない。

 やっぱり、丸山さんが危ない。

 沓沢が堂島の顔色を伺う。

「終わりで構わない。捜査協力に感謝いたします」

「いえ、いつでもとは言いませんが、なんでも言ってください協力は惜しみませんよ」

 和森は笑いながら、出て行こうとする三人を少し追ってくる。

 建物の入り口から、湖浜が入ってくる。

「点呼は終わりましたか」

「ええ、和森さんのスムーズな案内で」

 堂島は質問した。

「湖浜さんは何しに外へ行かれたんですか?」

「事務仕事ばかりだと体が固まってしまうので、体を動かすのと、黒坪を探し…… いえ、なんでもありません」

 湖浜は内履きに履き替え、和森と並んで頭を下げた。

 沓沢と堂島は、その二人を無視し、逃げるように建物を出ていく。

 北上だけが残って、和森と湖浜に頭を下げた。

「本日は本当にありがとうございました」

 そして慌てて二人を追いかけるように北上も建物の外に出た。

 いない。沓沢と堂島がいなくなっている。

 北上は焦った。

 必死に周りを探すも、見当たらない。

「丸山さん!」

 堂島の声だった。

 北上の後ろ、建物の方からだ。

 左に進み、建物へ回り込んだ。

「黒坪。その女性に何をした」

 沓沢の先には丸山が倒れていて、堂島が彼女に問いかけている。

 その先には黒坪が立っていた。

「この女がフラフラ入ってくるから『俺としたいのか?』って。そう言ったんだ。けど、ただそれだけだ。俺が何もしねぇうちに、こいつ勝手に倒れやがった」

「丸山さん!」

 彼女の体を縛っていた紐は無くなっている。

 沓沢は丸山の着衣に乱れがないことから、黒坪の証言を信じることにした。

「起きて、起きてよ丸山さん」

 北上は走って堂島のところにいく。

「何か見える?」

「いえ、何も見えません。丸山さんに憑いていた霊は消えてしまっているようです」

 北上も手伝って、二人で丸山を引き起こす。

「警察は謝罪しねぇのか」

「……申し訳ない」

「お前らのことは、署長に言っとくからな」

 黒坪は左手で自らの短い髪をなん度も撫で上げた。

「……」

 丸山を堂島と北上が肩で支えて、引きずるようにして歩いた。

 インターロックを抜けて、警備室で退出時間を書き込んだ。

「その女性の方……」

「そうだ、おかしいな、ここを通らないと中に入れないですよね?」

 警備員は驚いたような顔をしている。

「ええ。事務室側から連絡が来て、一人追加で通すようにと」

「事務所側って?」

「聞き覚えのない声でしたが、発信番号は事務室でしたので」

 堂島が言った。

「この女性、体を縛られてたはずです」

「そうなんですよ、おかしいなと思って、私がその紐を」

「……」

 丸山に肩を貸している北上と堂島は、顔を見合わせた。

「まずかったですか?」

 沓沢が言った。

「監視カメラを見せろ」

 強引に警備室に入っていく沓沢。

 慌てて北上が警備員に警察手帳を見せて、警察だと告げる。

 堂島と北上は車に丸山を寝かせて来てから、警備室に戻った。

 映像の中では何度も何度も『丸山がインターロックの通路から出ていく』が、その後どうしているのかは、一切映っていない。

 警備員は再生画面を見て、現状のモニター画面と見比べているようだった。

 堂島は気になって訊ねた。

「何かカメラに異常でも?」

「画角が変わったのかなって。取り付け金具の様子によってはカメラが垂れてくるんだよね。確かもう少し建物側まで見えたはずなんだけど」

 沓沢は諦めたように言う。

「現時点で映ってないものはどうしようもない」

 堂島は警備員から聞いたことから、直近の映像を確認しようという。

「最近、故意に画角を変えたものがいないか、ざっと見ましょうよ」

 早回しで映像を見ていく。画角が変わっていれば映っている風景が変わる。早回し再生でもすぐわかるはずだ。

「あった」

 再生を止める。確かにこの時点からカメラに建物が映らなくなっている。

 ゆっくり時間を戻していくと、画角が変わる直前、黒いものがカメラに向かって来ている。

 沓沢が言う。

「なんだこれは?」

 北上が答える。

「少なくとも人じゃないですね」

「堂島くんの意見は?」

 沓沢に訊かれると、堂島は首を横に振った。

「霊ではないです。霊的なものは感じますが」

 後ろで見ていた警備員が言った。

「カラスですね」

 そう言って、映像のフレームを進めたり戻したりする。

「どうもカメラ設置しているところに何かあるらしくて、このカメラだけじゃなくアチコチのカメラの角度が下向きになっちゃうことがあって」

「……そういう情報は先に言ってくれ」

 沓沢は立ち上がって、警備室を出ていく。

 北上は警備員に謝罪した。

 堂島は言う。

「カメラの角度が変わった時は、どうやって直しているんで巣か?」

「業者を呼ぶだけだけど」

「警備室からですか?」

「いや、施設の人に報告しないといけないし、お金は施設の人から出てるから」

 警備員は建物の方を、ぼんやり見る。

「施設の人も、カメラの画角は知っているんですね?」

「向こうでも見れるからね」

「よくわかりました。本当にありがとうございます」




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