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署内にいるモノ

 沓沢、北上、堂島の三人は、容疑者が死んだ現場となったトイレへと、流れ込んでくる人々に逆らうように廊下の端を進んでいた。

「何が見えた」

「はっきりと答えられる内容にまとめさせてください」

 堂島がそう言った時、彼を見ている人物に気づいた。

「和森!」

 沓沢と、北上もその男に気づいた。

 オールバックにした髪、鼻と耳のピアス。真っ黒いスーツの上下。

「なぜここにいる」

「抗議に来たんですよ。あなたたちの強引な捜査に。まだ事件性を見極める段階なのに、まるで事件性があるような前提で『捜査』している」

 和森の姿を見ていると、堂島は霊が見えた。

「!」

 さっき自殺した容疑者と同じ霊が、和森についている。

 和森が与えた? 容疑者である和田と直接会うことが出来ないはずだが、何か媒介があるのか? いや、ここまで近ければ霊を放てば届くのかも知れない。

 堂島は和森を凝視する。

「そのネルシャツの男は、本当に失礼だな」

「そうよ、和森様をジロジロ見ないでよ」

「馬場くん…… まさか君が連れてきた?」

 北上は呆れたような声で、そう言った。

「部外者をこんなところまで」

 制服の馬場は堂島を指差す。

「北上さんだって、そのネルシャツを」

「彼は捜査協力者だ」

 堂島は『僕』のことを『ネルシャツ』と呼ぶは、指を差すはで『そっちも十分失礼だ』と言い返してやりたかった。

「和森さんは署長に抗議するためにいらしたんですから。それに私もついていましたし」

 和森は笑った。

「何か騒ぎがあったみたいですが」

「お前には関係ない」

 と沓沢が切り捨てるように言い放つ。

 すると馬場が言い返した。

「いや、倒れたのが芦田さん殺人事件の容疑者なんだから、和森さんにだって関係あるでしょ」

「馬場くん!」

 北上が馬場の腕を取って、現場から離れるように連れて行く。

 沓沢、堂島、和森もその動きに合わせて移動した。

「馬場くん、後で話を聞きたい」

 馬場と北上のやりとりを見て、堂島は馬場の様子がおかしいと思い馬場の方を見つめた。

 そして馬場を見つめていると、背後に和森が立った。

 それは、まるで堂島が見ているものを確かめるようだった。

 堂島が背後の気配に気づいて、振り返ると、和森が小さな声で言った。

「やっぱり、君だけが『目利き』で、君が一番危険だ」

 和森は堂島の背中の、心臓があるあたりに触れた。

 堂島の体に、電気が走るような衝撃があった。

「!」

 あたりの景色が急に暗くなった。

 物理的には暗くなっていない。堂島の感覚に捉えられる景色が暗くなっていた。

 スイッチが切れたように堂島は膝をつき、床に崩れ落ちる。

「おい、和森、彼に何をした!」

「な、何もしていませんよ。彼が勝手に倒れたんです」

「救急、こっちも見てくれ!」

 一気に混乱が増していき、署内は大騒ぎになっていた。


 堂島は病院で目覚めた。

 体に特に異常はなく、貧血ではないか診断された。

 そのことがわかると、和森も拘束を解かれた。

 堂島、丸山、梁巣の三人は、夕方には解放され、北上のワンボックスで民泊のあるアパートに送ってもらった。

 車を降りると、沓沢に声を掛けられる。

 堂島は否定する。

「大丈夫です、立って歩けますから」

「明日の点呼だが、体調が悪ければ、無理してこなくても」

 堂島は真剣な顔で答える。

「行きます。霊的に細工されても、何もわからないでしょう?」

 丸山と堂島は手を振って、北上が運転するワゴン車を見送った。

 部屋に入ると、丸山が言った。

「堂島くんが先にお風呂入って。先に寝た方がいいわ」

「ええ、確かに疲れました」

 堂島が着替えを用意して風呂に入る。

 風呂といっても、ユニットバスで湯を貯めてつかることはしない。

 シャワーで洗い流すだけだ。

 髪を洗って、体を流していると、丸山が入ってきた。

「体洗ってあげようか?」

 堂島はこの旅で丸山のことを意識していた。

 だが、何も進展はないはずだと考えていた状況から、急に進んだことに疑念を抱いた。

「いや、大丈夫です」

「……そう。じゃあ、体を流しながらでいいから聞かせて」

 堂島は風呂側とトイレ側を隔てているカーテン越しに、丸山を意識した。

 暖かい湯を浴び、気持ちが緩んでいて、はっきりと見えない。

「今日、堂島くん、あの木に何を見たの?」

 堂島は、警戒した。

「丸山さん?」

「何? 見たものを教えて欲しい」

「今日の丸山さん、おかしいですよ」

 急に黙ってしまう。

 カーテンを少しめくり、直接丸山の顔を見る。

「丸山さん?」

 丸山の目が反応していない。流石にカーテンをめくってくれば、気がつくだろう。

 目は開けているのに、堂島の姿が見えてないのか。

 堂島はこめかみに指を当て、精神を集中させる。

 何かがついている。ついているのは違いないのだが……

 疲れなのか、堂島は霊視が出来ないまま、カーテンを閉め、霊視をやめてしまった。

 僕が答えなくても、言葉をかけてこない。

 丸山さんに霊をつけた奴は、何か回答を引き出そうとしている訳ではないのかも知れない。

 というか、いったいいつ、誰が、丸山さんに霊をつけたのか。

 堂島は体を洗い終え、タオルで体を拭いた。

 カーテンを勢いよく開けると、丸山はまだそこにいた。

 堂島は慌てて下半身をタオルで隠した。

「丸山さん、ご自分の布団に帰ってください」

 状況を把握できない様子のまま、丸山は無言で風呂場を出ていく。

「普通なら男の裸を見たら『キャッ』とかいうのだろうか」

 堂島は一人そう言って服を着替えた。

 風呂場を出ると、丸山がいなかった。

 もしや、と思ってブルーシートの自分の側に行くと、そこに丸山が寝ていた。

 寝転がっているだけで、目は開いていた。

「うーん、困ったな」

 さっき言った『自分の布団に帰って』という言葉を誤解したのだろう。

 堂島は除霊できる人間が必要だと考えた。

 ブルーシートの本来は丸山側の部屋で、堂島は電話をかけた。

『どうしたの(とおる)くん』

「除霊が必要なんだ。玲香ちゃん、こっちまで来てくれないかな」

『例の山の中よね。案件はないからすぐ準備します。ただ私は車がないから県の中央駅(セントラルステーション)に行くので、迎えにきてくださいな』

「来たら電話してよ。梁巣さんもいるし、迎えに行く」

 堂島は通話を切った。

 自分の布団に丸山が寝ているため、堂島は丸山の布団に入り、灯りを消した。

 丸山の布団は『大人の女性』の匂いがした。




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