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拘束

 堂島は街頭演説の会場内で待っていた。

 彼の顔を知っている警察官に見つからないよう、可能な限り頭を下げていた。

 追っていた白い上着の男の行動は、見逃さないようにしていた。

 スマフォを見たり、会場の映像を撮ったり、バッグの中を確認したり、落ち着かない様子だった。

 しばらくはスマフォを見たり、映像を撮ったり、バッグの中を見ることを繰り返していた。

 正面に候補者や、応援演説に来ている党首がスタンバイすると、男は何か決意するような厳しい表情になり、スマフォの画面をゆっくり操作していた。

 そして、そのままスマフォの画面を見つめると、今度はバッグからライターを取り出した。

 バッグから導線のようなものが飛び出している。

 男は導線に火を点けた。

「おい、お前、何してる!」

 キャップを被った漁師が、男を抑える。

 同時に、導線が出ているバッグを人のいない方へ蹴り出した。

「逃げろ!」

 燃えていく導線の音に、会場の人々が一斉に逃げ出した。

 その瞬間、堂島はまるで決めていたかのように、党首のいる方向へ走り出した。

 候補者と党首は、私服警官に導かれて駐車場へ走っている。

 堂島は、追いかけながら、叫んだ。

「ダメだ! その車に近づくな!」

 普段、運動をしない堂島は必死に党首たちの前に出る。

 党首は、立ち止まった。

 警官が党首を追い抜く形で前に出てくる。

 堂島は手を開いて止めた。

「会場の騒ぎは、こっちに誘導する罠だ!」

「退け!」

 私服警官が堂島に触れるか触れないか、という瞬間、彼は黒いワンボックスを振り返り、そのまま自分のバックパックに体を隠すような体勢をとった。

「伏せて!」

 警官は反応できなかったが、党首と候補者はその声に驚いて、その場に伏せた。

 次の瞬間。

 大きな炸裂音がして、黒いワンボックスが揺れた。

 何かの破片が堂島たちの方に飛んでいた。

 堂島が振り返ると、警官は肩を抑えて倒れている。

「大丈夫ですか?」

 警官は黒いワンボックスを見つめている。

「車から離れて!」

 堂島が車を見ると、爆発があった車の下部だけでなく、車のあちこちから煙が出ている。

 駐車場の端へ逃げると『ドン』と音がして、一部のパーツが壊れ、車が燃え出した。

 会場側から遅れて私服警官が走って来た。

「お前か!」

 堂島は何も話せないままに、押し倒され、後ろ手に手錠をかけられた。

「……」

 党首や候補者は、警察の判断に口を出さなかった。

 党首に付き添っていた私服警官も『堂島(そいつ)に助けられた』とは言わない。

 やがてパトカーが何台もやってくると、堂島はそのままパトカーに乗せられた。

 漁師が捉えた白い上着の男も現行犯で捕まり、別のパトカーで署に移送された。

 二時間後、堂島は市の警察署で取り調べを受けていた。

「なぜ車に爆弾があるのを知っていた?」

「……」

 霊視だと答えても信じないだろう。堂島は考えていた。

「お前が仕掛けたからじゃないのか?」

「やってません」

「じゃあ、なぜ、車に近づくなと」

 堂島が追っていた男は、爆竹で脅かしただけで、本当の爆弾犯ではないと思われていた。

 実際は追っていた男が全て仕組んだ作戦だと堂島は考えていた。

 まず車側にWiーFi起動式の時限爆弾を仕掛けておく。

 会場に戻った彼は頃合いをみて、起動し、会場側で爆竹を使った『爆弾騒ぎ』を起こして、党首や候補者を会場から車に向かわせる。

 走行中、あるいは、車に近づいたあたりで仕掛けた時限爆弾が爆発する。

 それが今回の事件に関する、堂島の見立てだった。

「答えろ」

「あの、僕のことは、警視庁の一課『北上(きたがみ)宗介(そうすけ)』さんに聞いてみてはどうでしょう?」

「刑事と知り合いだとでも言うのか」

 堂島は頷いた。

 彼の正面にいた警官が、目配せをすると警官の一人が取り調べ室を出ていった。

「あのネルシャツ、『警視庁の北上』と知り合いだ、とか言ってますけど」

「そんなことで一々警視庁に電話するバカがどこにいる」

 堂島を調べている市警、県警の連中は、同時に逮捕している白い上着の男も拘束しており、どちらか、または共犯の可能性を視野に入れていた。

 白でも黒でも、現時点で堂島の拘束を解くことはできない。

 マスコミが市の警察署の周りを囲むようにカメラを構えており、発表を待っている間勝手に報道を始めていた。

 この漁港の事件の様子は、国営放送のカメラで録画されており、全国のニュースとして流された。

 その映像には、赤黒ネルシャツの男の動きがはっきりと映っていた。

 報道はその男が事件に関与したのではないか、として報道している。

 警視庁でその映像を見ているものがいた。

 沓沢(くつざわ)亮二(りょうじ)である。

 沓沢は、テレビを見ながら、そのまま北上に電話をかけた。

「北上か? 例のネルシャツ堂島くん、漁港で捕まっているっぽいな」

『沓沢さん、いきなりなんですか? 漁港って? 堂島って、あの犯人当てが趣味の?』

「なんでもいいからxx市警に行ってこい」

 北上は突然指示されたことに戸惑いながら、別の事件の映像確認作業を一旦止め、市警に向かう為に駐車場へ向かった。

 車に乗り込むと、助手席に沓沢が入ってきた。

「沓沢さん、漁港の事件ってなんすか」

「爆弾テロだよ。ネルシャツくんがまた犯人を引き当てた」

「けど、テロなら一課が出張(でば)るのはまずいんじゃ?」

「ネルシャツくんの発言は、知らない人が聞いたら何もかも疑わしいだろうからな。マスコミ発表で間違った事を報道されないようにしないと」

 車を走らせ、二人は堂島が拘束されている市の警察署へ向かった。

 到着すると二人は県警・市警の連中に、堂島の能力(ちから)を説明して回った。

 説明しても、信じられないと言うものばかりだったが、二人が経験したことは事実であり疑いようのない現実だった。

 そしてマスコミ発表の前には、白い上着の男の単独犯行であると言う見解が固まり、堂島の事件への関与は完全否定された。

 しかしながら、堂島はその日一晩、市の警察署に缶詰になり、翌日の夕方無実と判断され開放されたのだった。




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