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部屋の仕切り

 民泊に着くと、丸山は部屋の中央に物干し用の縄を張った。

 そして、ブルーシートの穴をその物干し用の縄に通すと、部屋に仕切りを作った。

「そっちが堂島くんのスペース、こっちが私のスペース」

 堂島のスペースは窓際で何もない。

 丸山側のスペースは、台所や風呂場に行き来しやすい。

「おトイレ行く時は?」

「そりゃ通っていいわよ」

「丸山さんが寝てても?」

 丸山は自らの襟に触れた。

「通る時、わざわざ私を見ないでよ?」

「それは当然です」

「仕方ないわよね。水飲んだり、おトイレするのは」

 丸山はホームセンターで買ってきたものをバラして、渡してきた。

「これが堂島くんの歯ブラシとコップ」

 堂島は受け取ると、言った。

「明日の朝なんですけど」

「朝から見張るんでしょ」

「早めに行きましょう。今日が何も無かったんで、なんか気になるんです」

 堂島は気になることを話した。

「今更ですけど、馬場さん『黒坪』のこと知ってましたよね」

「そうね。知ってる風だった」

 それは堂島がこう言った時だった。


『山の中腹にある障がい者施設、あそこに危険な人物がいて』

黒坪(くろつぼ)のことね』

『そうです。霊視した限り、かなり危険な状態です』

 馬場は諦めた感じで、ため息をついた。

『じゃあ、何、この殺人のことを言いに来たのは?』


「すぐ、別の話題を振られちゃったけど」

 堂島は顎に指を置いた。

「今日、黒坪がしたフード配達員への暴力も、なんかうやむやになってました」

「そんな感じね」

「この田舎で、黒坪がやりたい放題なのはなんでなんですか?」

 丸山は理由を作り出すように天井に目線を上げてから、

「ほら、映画なんかであるじゃない? 警察署長の息子とか、大きな会社社長の息子で、簡単な犯罪を見逃されちゃうやつ」

 と言った。

「そういうの、納得いくんですか?」

 丸山は首を横にふる。

「けど、実際にそういうことがあるから、映画なんかでも描かれる、そう思わない?」

「いやです」

 ただ、そう考えると馬場のため息の意味がわかる。

 この管内で彼は、どうしようもない人物なのだ。

「……そう言ってもね。そうだ、私はこれからお風呂入るから、おトイレ行くなら先に行ってよ」

 堂島は首を横に振って、お風呂場の方へ、手を差し伸べた。

「どうぞ」

「ブルーシートの向こう側に行ってよ。着替えたりするし」

 堂島は割り当てられた方へ移動した。

 なんとなく、ブルーシートの方を見るが、ブルーシートの先にいる丸山の動きは何も分からない。

 見えてしまったら見えてしまったで気まずい。

 堂島は横になって、窓の方を向いた。

 ブルーシートの向こう、お風呂場の方からシャワーの音が聞こえてくる。

 彼は勝手に、丸山の裸を想像してしまう。

 その時、スマフォのメッセージアプリ『LINK』が着信した。

 開いてみると、馬場からだった。

和田(わだ)康二(こうじ)を任意で引っ張った』

 堂島はそんな警察の情報を民間人に流していいのかと思ったが、これも北上が話をしてくれたおかげなのだろうと考えた。

 和田はなぜ施設の職員を殺したのだろう。

 確か殺された職員は…… 堂島はスマフォのメモを見返した。

 被害者は芦田(あしだ)真奈美(まなみ)という障がい者施設の職員だ。

 和田は施設に入所していたこともあるというから、その時に何かあったのだろう。

 調べが進むにつれて、そういった事情なども、馬場が教えてくれるかもしれない。

 堂島は仰向けに寝返ると、今度は黒坪のことを思い出した。

 施設で乱暴してきたように、いきなり他人の髪の毛を掴んで引き倒してくるような人物。

 そして、警察からは『アンタッチャブル』な存在だ。

 おそらく朝、僕が被害を受けたと言って警察を呼んでも、雨の中殴られた配達員と同じような扱いになったに違いない。

 だから黒坪を捕まえるには彼を『アンタッチャブル』としている者が、庇おうとしても庇えないほど明確で、重大な犯罪を犯した時しかない。

 堂島は改めて決意を新たにした。

「お風呂、空いたわよ」

 という丸山の声がした。

 堂島は着替えを準備して、ブルーシートを開いた。

「!」

 丸山は長い髪をアップにしてタオルで巻き、体もバスタオル一枚巻きつけているだけだった。

「なんか言ってから開けてよ」

「す、すみません」

 堂島は慌てて自分の領域に戻る。

「戻れって、ことじゃなくて、声かけてね、ってこと」

「あ、開けます」

「どうぞ」

 ガッツリ丸山の様子を見てから、堂島は目を逸らした。

 そして部屋の端をぐるっと回って、お風呂場に入った。

 ユニットバスは、あちこちお湯がかかって濡れていた。

 堂島は丸山が『粗雑』だからだ、と考えた。

 ここで脱がなければならないのか。

 扉のフックにバッグを引っ掛け、その中に脱いだ服を入れればいい。

 堂島は服を脱いで体を洗い始めた。

 するとノックの音がする。

 気づいていなかった堂島は,丸山の声でシャワーを止めた。

「なんですか?」

「おトイレ」

 堂島は『いや,先にしておけよ』と言いかけ,言葉を飲み込む。

「どうぞ」

 風呂側のカーテンをしっかりチェックすると,いきなりドアが開いて丸山が入ってきた。

「ちょっと,見ないでよ」

「見ませんよ」

 音を聞かれたくないというが、そういうのは大丈夫なのだろうか?

 堂島はじっと待っていた。

「シャワー」

「は?」

「シャワーで流しててよ。聞こえちゃうじゃない」

 なんだ、やっぱり気になるのか、と思いつつ堂島はシャワーを開けて、体を洗い始めた。

 洗うところは洗い終わって、堂島はバスタオルを取ろうとカーテンを開いた時だった。

「えっ、まだいるんですか?」

「見たでしょ?」

「『見たでしょ』じゃないですよ。どれくらい経ってると思ってるんですか」

 カーテンが部屋の明かりの手前側にあるため、トイレ側の様子はカーテンに映らない。

「時間がかかるのよ、仕方ないでしょ」

「じゃあ、一旦、上がってくださいよ。僕も体を拭きたいです」

 丸山がトイレを出ると、堂島は急いで体を拭いた。

 風呂場を出ると、ブルーシートで区切った窓側へ逃げ込むように走った。

「おトイレどうぞ」

 丸山が風呂場に入る音がした。

 堂島は今日一日が終わったと思って布団に入った。 

 疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。

 翌朝。

 目が覚めると、肩のあたりに丸山が立っていた。

「堂島くん、目覚ましセットしてないでしょ? 支度してるのかと思って見てみれば、この有様」

 口調が怒っている。だが、堂島は起き抜けで何も反応できない。確か、開ける前には声をかけるという話ではなかったか。

「もう七時よ。すぐ準備して」




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