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帰郷  作者: 坂本梧朗
5/7

その5

Nは学生時代真一が好きになった女子学生だった。同じ文学部で同期だった。真一と同じくある革新政党の指導下にある青年組織に加わって活動していた。真一がNを知ったのはその組織を通してだった。真一はその頃かなり熱心な活動家だった。


真一の友人に0という男がいた。Oも文学部で同期だった。文芸創作に関心を持っていて、真一らと一緒に同人誌をやっていた。ちょっとハミ出した感じの男で、授業にもあまり出てこず、よく下駄ばきで構内を歩きまわっていた。内部にある種のうっ屈した情念を感じさせる男だったが、それ故の純粋さもあり、真一は0のそんな所に引かれて親しくしていた。この0も同人誌活動を通じて真一達の組識に接近し、やがてその一員となった。0をオルグしたのは真一だった。0はなかなか組織活動に慣れなかったが、真一は関係上その世話役の様な形になっていた。二人の仲はよかった。


真一とNと0はその組織の同じ文学部班だった。0は班に人るとすぐNを好きになった様だ。真一はその頃Nと知り合って一年程になっていたが、よく頑張るしっかりした活動家というほかには何とも思っていなかった。Nは目立たない地味な人柄だった。だが肉体的暴力に常に曝されている厳しい学園民主化闘争の中で、規律的活動を粘り強く続けていた。その頃まで活動を続けていた班の女性メンバーは、真一の同期ではN一人だった。真一がNを意識する様になったのは、 0の加入から半年程後である。

 

 真一がNを好きになった時、 0と真一の関係は一変してしまった。真一が班の友入にNに対する気持をうち明けた数日後の深夜、下宿で寝ていた真一は訪ねてきた0に起こされた。明かりをつけて、眩しげに眺める真一に、0は少し顔をそむけ勝ちにしながらも、真一が初めて経験する露骨な敵意を漂わせて、「自分とNとの間には既に約束ができている。Nを好きだそうだかやめた方がよい」という内容の事を言った。真一は0の態度に対する驚きと怒りで何も言う事ができなかった。その夜真一は遂に眠れなかった。0の言った事は後でうそとわかったが、これがNを中にした真一とOの確執の始まりだった。


Oの態度は次の日から一変した。今までそれと気づかぬ程だったNへの態度はなりふり構わぬものに変わった。同時に真一には悉く対立してくる様になった。それは当然班の活動にも影響した。Oはそれを顧慮しなかった、又はできなかった。0の活動の実質は結局 Nを追い回す事になっていた。Nが参加する行動であれは、0も参加した。Nがいる所にOはいようとした。0が組織に留まっている最大の理由はそこにNがいるからと言えた。 一方真一に対しては、班の会議などにおいてもあからさまな感情的対立を示した。


真一は0と対立したくはなかった。今まで気が合っていた友達だ ったし、同じ組職の仲間だった。それに対立しなければならない根拠も見出せなかった。恋愛は当事者二人の間の問題、つまり要はNの気持の問題であって真一と0とが対立する必要はないはずだった。だが現実には真一に対する0の敵意に容赦はなかった。そんな0に真一も反発を覚えないわけにはいかなかった。真一と0のかつての友情は紙くずの如く捨てられてしまった。


十数人の班員全部が真一とOの確執を知るのに大して時間はかからなかった。真一は恥を意識した。そして班の皆の前で、班の活動の中に、私的な対立を持ちこんでくるOに激しい怒りと嫌悪を感じた。しかしそれを抑えようと骨を折った。こんな事で目分が動じたり、班が影響を受けたりする事に、真一は自尊心を傷つけられる様な嫌悪を感じた。班員の殆どは無関心だった。又は無関心であろうとしていた。真一はそんな彼等に内心では自分を嗤っているのではないかという恐れを抱いた。真一は班の仲間に素直な気持でとけこむ事ができなくなった。外の闘いが厳しかっただけに、それは辛い事だった。そうした中で真一は自分の恋をあくまで貫こうとした。           


葛藤は一年半程続いた。0との確執の中て、真一はNとの目然な父流の機会を遂に持つ事ができなかった。友情・恋愛・連帯についてその青年組織が掲げている理想、それは真一自身の理想でもあったが、 それと現実との差が真一を苦しめ続けた。Nを諦めた時、真一に残っていたのは、0への消えぬ憎しみと何の実りももたらさなかった愛の痛みだった。Nは次第に明るさをなくし、その時既に活動から離れていた。仲間との間にも距離ができていた。葛藤の存在を知っていながら、それまで仲間らしい助言をしてこなかった彼等に、真一は淡い不信を抱いていた。Nは卒業すると逃れる様に遠くの都市の大学院に去った。Oは留年し、真一は聴講生となった。


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