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貴方と見たかった夢の続きを  作者: らんたお
転生して再会
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04.ノイン視点

「これからはずっとお前の傍にいるよ。何を捨てることになっても、永遠に」


 息が、詰まった。彼は、僕の髪色を見て悟ってしまったのだ。未だ、神との繋がりがあるのだということを。


 上手く話すこともできない。泣きじゃくった後の子供のように、言葉が途切れる。大事なことを伝えなければならないのに、言葉が上手く出て来ない。

 彼はそんな僕を辛抱強く、待ってくれた。深呼吸を繰り返して、落ち着かせる。言わなくちゃ。ラルフに話さなくちゃ。


「僕達の世界が、危機に瀕しているの」


 本当に、子供に戻ったかのような拙い口調。言葉数を減らさないと、言葉に詰まってしまう。


「世界を見守って、浄化を手助け、するのが役目」


 出来るだけ簡潔に。


「永遠の命を生き、老いることなく、存在する」


 今更だと分かっていて、不安が過る。震える声で尋ねた。


「本当に、いいの?」


 少ない言葉の中に、大切な人達との別れを想起させる。問いの意味を彼は正確に読み取って、笑いかけてくれた。


「お前と生きていけるなら、願ってもない。永遠なら、尚のことだろ」


 昔と変わらない、屈託のない笑顔。本心なのだと分かる。嬉しい。けれど……

 一度しかない人生を大切な人と共に生きて欲しい。それも僕の本心だ。時の流れが違うから、人々は儚く散っていく。共にいられる時間は、それだけ貴重なものだから。

 神族となっても、魔法で年齢を誤魔化すことはできる。老いを表現することは決して難しいことではない。初歩の魔法だから。

 それに……


 もうすでに、彼に想い人がいる可能性もある。今は前世を思い出して郷愁に心を奪われても、今の彼の幸福を支えている誰かがいないとも限らない。その人から彼を奪うなんてことが許されるだろうか?

 胸が苦しくて、でも泣いてはいけないと唇を嚙んだ。我慢する時の僕の癖。ラルフに見咎められる。


「こら、唇を噛むな。どうしたんだ? 何で悲しそうな顔をする?」


 言ってくれなきゃ分からない、と彼は言う。それはそうだけど、口にすることが憚られた。すでに彼に恋人か伴侶がいたとしたら、問うことは即ち僕の痛みに直結する。でも聞かなければならない。神族となってしまった彼が向き合わなければならない問題だから。でも……


 答えを聞くのが怖い。本当に僕は、怖がりだ。


 ラルフは、今にも泣き出しそうな僕を抱きしめてくれる。子供にするみたいに、背中を軽く叩いて。


「昔から、お前は大事なことほど口にしてくれないよな。口にした途端、消えてなくなると思うのか? お前を嫌いになるわけがないだろ? お前を見捨てたりするわけがないじゃないか。俺は今までもこれからも、お前だけを愛しているのに」


 一層、抱きしめる力が強くなる。しゃがんだままという不安定な姿勢で、彼は甘やかすかのように頭を撫でてくれた。本当に、ラルフは僕のことを良く知っている。どんな言葉で安心し、どんな言葉で慰められるのかを……え? 今までもこれからもって?

 拘束が強くて抜け出せなかったけど、顔を上げて驚く。


「恋人はいないの?」


 いてもおかしくはないと思っていたのに、その口振りではいなさそうで……驚いて、お互いに見つめ合う。先に動いたのはラルフだった。


「まさか、俺に恋人がいるんじゃないかと思ったのか? 嫉妬か?」

「!? ちがっ」


 言い終わらないうちにまた抱きしめられる。そうかそうか、と嬉しそうな声。違うと言いたくても、顔すら上げられない強い拘束で声も出ない。

 嫉妬? 違う! 違わない? もうよく分からない。

 僕が危惧したのはそういうことではなかったのだけど、否定するだけの反証もないから顔が真っ赤になってしまう。もしかして、僕はまた間違えたのでは?

 思考が上手くまとまらない。ぼんやりと霞んで集中できない。


 前世でも僕の言った言葉でラルフが困ったような、何とも言えない表情をしていたことがある。変なことを言った覚えはなかったけど、世間知らずなのは否めなかったから、常識外れなことを言っていたのかもしれない。

 今回もそうなってしまったのかもと慌てていると、やっと拘束が緩んだ。


「まぁ、お前のことだから相手に悪いとか思ったんだろ? 他者への共感性ばかり強くて、自分の感情には鈍感とか、本当にお前は変わらないな。だから放っておけない。お前じゃなきゃ駄目なんだ」


 ずっと俺の隣にいろ、と彼はお互いの額を突き合わせながら言う。拒否を許さないと言いたげだ。

 でも、そういう相手はいないとしても、家族や友人はいる。彼等との時間だって大事だ。僕がいくら言っても、彼は傍にいる、の一点張り。思っている以上に、家族との時間は短いと説明しても聞いてくれない。


「できるだけ、家族と過ごした方が」

「親父も再婚したし、そこまで息子と居ようとは思わないさ」

「でも……」

「日本に移住するって言ってたから」


 ラルフ曰く、彼のお父さんは再婚相手の女性の国で生きていくつもりだという。結局故郷に残る俺とは別居なのだと明るく言う彼に、反論する言葉が見つからない。彼の選択を妨げる権利はない。ただ意思を尊重することしか。


「暮らす星が変わっても、家族には変わりないさ」


 そうだろ、と微笑むラルフ。眩しい……

 彼の強さは、僕にはないものばかりで目が眩む。起きた出来事を受け入れて、流されるままに生きてきた僕とは違う。抗い続け、困難という言葉に負けたりしない。お日様のように強烈な求心力があり、人々を引っ張っていく指導力がある。


 僕も強くなりたい。

 いつもその背中を見て来たから、勇気を振り絞って行動に出たこともある。けれど抗いきれない確定的な未来を知った時、抗う選択より、人生を諦めることを決断した。

 神でもどうにもできない未来。人類への干渉を限定的にしなければ、世界へ悪影響が出る。神が、それ以上の関わりを持てない原因だった。

 誰も巻き込みたくなくて、一人になれる方法を選んだ。残された者の気持ちを考えなかったわけではないけど、選択肢はなかったから。


 ラルフに言ったら怒られてしまうだろうけど、僕の犠牲が一つの悪を滅ぼすことに成功した。


 と、いくら聞こえを良くしても、身勝手な判断で彼を苦しめたことには変わりはない。だから強くなりたいと思う。逃げてばかりだった僕に、困難に抗い続ける彼の強さがあれば……


「世界を守りたいんだ。僕達が生まれた世界だから」


 小さなことしかできなくても、僕にできることで守りたい。多くの悲劇が繰り返された地だったけど、同時に多くの幸福に恵まれた地だったから。


「できるさ。俺も手伝うよ」


 一人じゃない。二人で進む道。クリス様やローガン様や他の神族もいる。必ず、世界を守ってみせる。今度こそ。

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