初恋は秘密の恋でした
「よし!今日もやりますか..」
勢いよくパソコンの電源を起動させ、いつものように通話をかける。
プルル...プルル...っ
「あ、出た」
「そろそろかかってくる頃かなって思ってました!さちさん!今日もやりましょうか!」
「はい!」
電話の相手はこんさん。
数年前に出会ったゲーム友達だ。
あるゲームのクエストを一緒にやり遂げて以来仲良くなった。
最初はチャットだけで話していたのだけれど、通話の方が楽じゃね?ってなって今ではほぼ毎日一緒に話してゲームをしている。
そして数日前からはお付き合いをしている相手だ。
今まで恋なんてしたことがなかったけれどこんさんだけは特別に感じていた。
こんさんと話す時間は私にとってすごく特別なもので何より楽しかった。
そんな時にこんさんから告白をしてくれて私たちは付き合うことになった。
こんさんとは昔一度だけ会ったことがあるのだけど、正直もうあまり覚えてない。
あの時はすごく緊張していたし、ろくに顔も見れずにお開きになった記憶がある。
付き合うことになったんだしこれから幾度となく会う機会があるだろう。
その時私はちゃんと話せるかな...
通話越しでなら敬語は抜けていないけれど遠慮のいらない関係にはなれているけれど。
「こんさんこんさん、今日のクエスト見ました?」
「見ました!あれやばいっすよね!行くしかない」
そんな会話をしながら私たちは一緒にゲームを始める。
(やっぱりこんさんとの時間は楽しいな〜)
「あの、さちさん...」
そう、こんさんが小さな声で呟いた。
「はい!どうしました?」
「こ、今度デートしませんか!?」
デート!?デートってあのデート?
「あの...?さちさん?」
「あっすみません!デート!いいですね!」
そうよね。私たち付き合ってるんだもんね。
「ほんとに!?やったぁ」
あ、今のこんさん好き。
それにしてもデートかぁ...
私今まで彼氏いない歴=年齢だったためもちろんデートなんてしたことがない。
とりあえずおしゃれはしていかなきゃだよね...!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そうしてあっという間にデートの日。
どうやらこんさんは私のことをちゃんと覚えているらしく、集合場所にいたら声かけるよ!って言ってくれた。
でも今はまだ30分前。楽しみすぎて早く来すぎてしまった。
(さすがにまだ来てないよね)
なんて思いながら集合場所に向かう。
すると私に向かって手を振っている男の人がいた。
まさかこんさん?私より早いなんて...
私はさっそく駆け足でそちらに向かう。
「さちさん!」
少し近づいたところで私の名前を呼んでくれた。
ああ、聞き慣れたこんさんの声だ。
やっぱり落ち着くなぁ。
顔が見えるくらいまで近づいた時、私は気づいた。
あ、この人見た事がある...と。
いや、1度会っているから見覚えがあるのかもしれないと思ったけれど、そうじゃない。
「な、なんで...?」
私は思わずそう呟いた。
だってそこにいたのは今をときめく人気アイドルだったから。
「あれ?さちさん僕のことわかるんですか...?てっきり知らないかと思ってました」
「いや、確かにテレビとか見ないけどさすがに知ってます...だってさっきも街中に大きくポスターとか貼ってあったし」
そう冷静に答えているけど頭の中ではパニックだ。
本当にこんさん?こんさんがあの...
「あの、隠すつもりはなかったんですが...一応アイドルやってる山本涼平です」
山本涼平...
もはや知らない人はいないんじゃないかと思うくらいの有名人だ。
大学の友達もよくかっこいいと話している。
こんさんのお顔が眩しすぎて直視できません...
「言い出せなくてごめんなさい。さちさん僕がアイドルだと知って嫌になりました...?」
こんさんは少し寂しそうな目をして私に尋ねた。
「それはない!こんさんのことは大好きだし」
たとえこんさんがあの山本涼平でもこんさんはこんさんな訳だし私の気持ちは変わらない。
「それはよかった...自分のことを知られて、もしさちさんが離れてしまったらどうしようって思っていたんです。だから告白も通話越しになっちゃいましたし...でも僕にとってさちさんは本当に大切で大好きな存在です。」
こんさんはそんな風に思っていたんだ。
きっとたくさん悩んで私に告白してくれたんだろう。
「さちさん、これから僕と付き合うことで辛い思いをすることがあるかもしれません。それでもこれからも僕と付き合ってくれますか?」
確かに芸能人と付き合うことは未知なる世界だ。
それでも私の答えはとっくに決まっている。
「私はこんさんがいいんです。いつも私を励ましてくれて楽しませてくれるこんさんが。こんさんが芸能人だから付き合うのをやめるなんてしません」
そう自分の本心をはっきり伝えた。
「さちさん...ありがとう」
こんさんは私をそっと抱きしめた。
その温もりがすごく愛おしい。
あぁ、やっぱりこんさんなんだな...
初恋の相手は優しくて近くにいるようで遠い存在の人。
それでも毎日私に幸せをくれた。
楽しい時間を一緒に過ごしてくれていた。
そして私のことをこんなにも考えてくれている。
それだけでいい。それだけで私は胸がいっぱい。
こんさんとなら幸せになれる。そんな自信が自然と湧いてくる。
「さちさん、大好きです」
こんさんの顔が近づいてきた。
その距離はもう0センチ。
「さちさん顔真っ赤。かわいい」
こんさんはそう照れくさそうに笑った。
これは誰にも言えない秘密の恋。