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蠅のアヤメ帝国  作者: 星駿平
第1章 アヤメの人間になる前の日々
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第5話 最悪の一週間はまだ終わらない

翌日、授業間の休み時間に三浦が廊下を歩いていると不思議な事が起きた。

今まで経験した事がない程に視線を感じるのだ。それもねっとりした嫌な視線。

彼は周りを気にするが、人も多かった為誰が見ているのかはわからなかった。

ひょっとして大和と話していたあの後輩が俺が目撃していたと気付いたのか?

もしそうだとしたら厄介な事になるかもしれない。大和の話していた“彼女と共に北海道に逃げる”という情報はあまり他人に聞かれたくない事だろう。それを三浦という部外者は盗み聞きしたのだ。

囲まれてリンチされるくらいの事なら大和はやりそうに思えた。それくらい大和の目を三浦は恐れていた。目が合った時に覚えたあの恐怖感。吸い込まれそうなくらいの闇。

あいつとは関わり合いになりたくないと三浦は心の底から思っていた。

しかし幸いにも今回の視線は彼ではなかった。一人の同級生の文化系男だった。

「なあ、お前」と話し掛けられた時、三浦は思わず体を竦めた。後ろから、突然。しかも刺すような攻撃的な口調を投げ掛けられたからだ。

「えっと」三浦が口ごもっているとその髪にメッシュを入れている男は言った。

「4組の室田だ」三浦の全身に衝撃が走る。

こいつが室田か―――

見るからに運動の出来そうな細い体、目にも覇気は無い。だが言葉に棘があった。

「お前、昨日俺の彼女と一緒に帰っただろ?友達が見てたんだけど」

「なんのことだ?」

「汐入は俺の彼女なんだ。手出してんじゃねえよ」

彼女だと?汐入の話を聞く限りだと現在進行形では付き合っていない様子だった。しかしそれは汐入が胡麻化しただけなのか?

「いや、知らねえし。そんな事」

だが室田も負けじと言い返す。「知らねえじゃねえよ。嘘ついてんじゃねえ。俺らの事は三年の奴なら知ってる筈だろ」

三浦は驚くよりも呆れてしまう。この文化系男は自分がスターだとでも思っているのか?と、心の中で見下す。彼の情報なんて三浦には興味がなかった。

(お前は陰キャだろうが。調子乗ってんじゃねえ)

三浦は心の中で毒づくが言葉には出さない。鼻で笑って彼から歩いて遠ざかる。「悪かったな」とだけ言い残して。

一応言っておく。後で因縁をつけられない為に。だけど内心は真逆だった。

彼は汐入に興味を持ち始めていた。

だからその日の帰りも彼女と共に帰った。室田に対する当てつけ半分、自身の興味半分だった。三浦の誘いに塩入は二つ返事でオーケーした。

「今日絡まれたよ」三浦は並んで歩いている汐入の顔を見ず、真正面を見ながら言う。

「誰に?」

「室田って人」汐入の表情が固まる。それを見て三浦は続ける。

「俺の彼女に手を出すなって言われた」

「そうなんだ……」彼女は言い淀む。物憂げな顔で地面を見つめながら口を真一文字に結んでいる。

まだ学校から出てすぐの歩道を二人は歩いていたが、終業してからだいぶ経っているので周りに生徒はいなかった。もしこの光景が室田に見つかったのなら修羅場になる危険性はあるが、そうはならないだろう。

もっとも三浦にしてみればそうなったとしても、室田に対して下手に出る気はなかったが。

「ごめんね、まだ私室田君と付き合ってるんだ」

「うん。そうだろうね。でもそれなら俺と帰るのを断った方が良かったんじゃない?」

「うん。でも……」彼女はまたしても言い淀む。「私室田君の事はもう好きじゃないの」

それを聞いて三浦は非常に満足した。あのいけ好かない男に自分の上を行かれる事が許せなかった。そしてその言葉さえ聞いてしまえば、あとは汐入と良い関係を築くのに障害はないと高を括っていた。

しかし事態はここから予想だにしない方向へと舵を切る。

三浦が満足気な表情で汐入の顔を見ていると、彼女は無表情のまま見返す。「怒らないで聞いて欲しいんだけど……」何やら意味深な喋りだしだった。

三浦は聞き入る。

「私三浦君の事が好きなわけじゃないの。室田が別れさせてくれないから、好きって事にしてるだけ」

それは三浦の心に核を打ち込んだような物だった。

バッティング技術が衰えていた事よりも、母親に怒られた事よりも、模擬試験の点で自分より馬鹿だと思っていた奴に上を行かれた事よりも、高橋さんが自分に興味を持っていなかった事よりも、室田が実は汐入と付き合っていた事よりも。それが一番ショックだった。

すっかり萎えてしまった三浦。

しかし彼の不幸はまだ続く。その地獄の一週間を締めくくる土日月の三連休こそが最もイかれていた。それはこの一週間の始まりからずっと燻っていた火種の大和絡みの件だった。


忘れかけていた大和の件。それを思い出させる出来事が、テンションの下がる汐入との下校時に起きた。


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