第4話 焼き肉屋で憧れの女子と共に
焼き肉屋の店員が大皿を机一杯に乗せた。
そもそも三浦は焼き肉が好きではなかった。子供の頃は好きだったのだが、高校一年の時、三年の先輩に焼き肉屋に連れていかれた夜に嫌いになった。強制的に食わされたのだ。主にカルビを。
だから特にカルビは食べられない。しかし目の前で高橋さんが肉を焼いてくれている。
「これ三浦君の肉ね」
「あ、ありがと」
高橋さんの笑顔に三浦は癒される。彼女の顔をまじまじと見れる席順になったのも別所が手をまわしたからだ。本来は彼がそこの席に座る予定だったのだが、上手く口実をつけて席を三浦と交代した。三浦はくじ運こそ悪かったが友人には恵まれていた。その別所は三浦に対し、別のテーブルから目で頑張れよとメッセージを送る。
そして高橋さん自身も三浦が自分のテーブルに来た事を喜んでいるようだった。三浦はそれを見て心が温まる。
「受験勉強頑張ってる?」
「うん。毎日3時間くらいやってる」
右に座っている女子が口を挟む。
「そっかぁ。すごいね」
別に凄くはないと三浦は理解している。むしろ少ないくらいだ。そもそもこの食事会に参加している奴らは皆、受験ガチ勢ではないのだ。推薦ではなく受験に専念している以上はこんな事をしている暇はない筈だ。にも関わらず皆、呑気に参加しやがって。と三浦は内心毒づく。
高橋さんの事も同様に思っていたが、それを好きという気持ちが上回っている。
「三浦くんは何か好きな物あるの?」
そう訊いてきたのは右に座っている女子だった。彼女は地味なので名前くらいしか覚えていない。
(確か汐入とかいう名前だっけ?)
顔は常に髪で隠されていて印象にない。まじまじと見てみても認識しづらい相貌だった。
「野球とか漫画とか」ぶっきらぼうに返す。
「そうなんだ」
特に会話は広がらない。しかし汐入は嬉しそうにしている。それを見て嫌な予感がする。
(まさかな……)
目の前で微笑んでいる高橋さんを見ると三浦は眉をひそめる。
小皿の上に載っている冷めたカルビと、焼いたばかりのカルビをまとめて割り箸で掴む。
浮かんだ嫌な予感を打ち消す為に、彼は嫌いなカルビを二つまとめて口にぶち込む。
そして案の定の結末だった。
その食事会の帰り、駅までの道のりを三浦は高橋さんではなく汐入だった。
彼女はもじもじしながら三浦の横に張り付いている。三浦の足取りは重い。
「高橋さんと仲いいの?」三浦が訊く。
「うん。仲良くしてもらってる」
つまり高橋さんは汐入と三浦をくっつける為に愛嬌良く接しただけだった。期待が膨らんだだけに三浦がその事実を受け入れるのには時間がかかった。
しかしそれが女子と並んで歩いている事には変わりない。三浦は駅までの短い道のりをせめて楽しもうと心を決める。
「汐入さんは部活何やってたっけ」
「剣道部だったよ」
「剣道部かぁ、竹刀で打たれると痛そうだね」
三浦は少ない剣道知識で会話を広げようとする。
「そんなのはすぐ慣れるよ。むしろ大変なのは人間関係の方」
「そうなんだ。弱いとハブられたりすんの?」
「いや、寧ろ逆」
汐入の顔に陰が入る。「試合で一人だけ目立っちゃうとハブられる」
三浦はその言葉に引っかかる。「そういう経験があるの?」
「うん。私子供の頃からやってるから」
それは意外だった。三浦には彼女なんてただの芋くさい女子にしか見えなかった。だが彼女の言葉に嘘があるようにも思えなかった。
「ま、私はそれだけじゃないんだけどね」
「え?どういう事?」意味深な発言に三浦は思わず前のめりになる。
汐入は彼の目をまっすぐ見つめる。
「私が二年の時に主将の彼氏を奪ったのもハブられた理由の一つなんだよね」
三浦は言葉を失う。まさかこの芋くさい女子にそんな胆力があるとは。
加えて自分より遥かに経験豊かである事にも驚いた。
自分が下だと思っていた人物に下克上される。その屈辱をとくと味わった。
彼はまたしても自信を失うのであった。
「まあその彼氏ってのが室田なんだけど」
聞いた事ない名前だった。




