第22話 三浦vs大和 椎名山にて
三浦は原付を飛ばしていた。
向かうは椎名山、その山頂。既に日は暮れて大分時が経っている。薄暗い山道を兄の原付で駆けていく。
彼は頭に血が上っていた。自分の友人を誘拐した奴をぶっ潰す、頭にあるのはそれだけだった。
(無事でいてくれよ……)
恐らく三人の行方不明に大和が関わっている。三浦は彼らを解放するためにも大和と戦わなくてはならない。
原付を60キロで走らせていると前から人影が近づいてくる。その人影は山道を徒歩で下りてきていた。彼はその人影と対峙する形で原付を道のど真ん中に止める。
そしてヘルメットを脱ぎ原付のハンドルに掛ける。「やっと会えたな」と言いながら。
目の前にいる男は紛れもなく大和だった。
彼は言う。「来ねえかと思ったぞ」
そして三浦に近づき彼の原付を思いきり前蹴りで蹴飛ばした。「ようやくだぜ、お前を殺せる」
彼は拳を握りしめて、歯も噛み締めている。彼に蹴られた原付は十メートル程山道を滑り落ちて止まった。しかし三浦は表情一つ変えない。
「厚木と矢部と別所はどこやった?」
「あいつらはレンタルボックスに閉じ込めた」
「どこのだ?」
「時任駅前のだ」
三浦はそれを聞くや否や高橋さんにメッセージを送る。彼女にメッセージを送るのは初めてだったが躊躇はなかった。この状況を最も良く理解しているのは彼女だったから。
スマホをポケットにしまう三浦。彼は再び大和を眼前に据える。
「お前の事なんか、少し前まで知らなかったよ」
「ははは」
山道の脇を埋める林から静寂の音が鳴り響く。その中で二人は静かに会話していた。
大和は言った。「それはこっちのセリフだろ?どう考えても」彼の言葉には侮蔑が含まれている。
「お前はいてもいなくても誰にも気づかれないような陰キャ。俺はその逆。何故お前が俺の人生を左右できる?」
「知らねえよ。てめえがアヤメから来るなんていうややこしい境遇だから悪いんだろ」
大和の表情が曇る。彼が苛ついたのを三浦も理解していた。だが二人はまだ動かない。殴り合いはまだ始まらない。
今度は三浦が言った。
「言っておくが俺はお前の事を大島組のあの2人に言ってないぞ?」
「だが中田組には言っただろ?結局は同じことだ」
そして笑う。「お前のせいで俺の人生台無しだ。お前さえいなけりゃ、こうはならなかった」彼は三浦を睨みつけながら小さく笑う。
「本当に俺のせいか?どのみち追っ手は来てただろ?」
「俺なら上手く逃げれてた。お前さえいなけりゃ―――」大和の憎悪は最大限まで高まっていた。
だがそれでも刀は持ってきていなかった。それが彼のけじめのつけ方だった。
大和は思いきり踏み込んで三浦の頬を右の拳で打ち付ける。
三浦は思いきり目を開く。彼の拳の圧は150キロの速球よりも上だった。慌てて左手を出す。
激しい音が鳴る。辛うじて直撃は避けれたが、自らの左手越しに頬を殴られた形になった。
三浦は言う。「人のせいにして満足かよ」
今度は彼が拳を握る。そして大きく振りかぶる。
スイングされた彼の拳は大和の顎を下から捉えた。だが首の力でそのパンチの勢いを殺した。
「おいおい、この程度か?」
そして大和は三浦の頭を両手で掴み、鋼鉄のような頭蓋骨で頭突きを喰らわす。
悶絶する三浦に彼は言う。「お前程度の奴は、アヤメじゃすぐ死んだ。思い上がるなよ?その程度で」
「俺は……お前が難癖付けてくるから戦ってるだけだ」
三浦は喧嘩をほぼした事がなかった。だが一つだけ目の前の男を倒す道が見えた。
低い姿勢で大和へ突っ込む。そして彼の足に全力で突撃した。
三浦の足腰は大和よりも格段に強かった。彼はなまじ野球部でウエイトトレーニングをしてきた訳ではなかったのだ。押し倒した後はマウントポジションを取り顔面を数発殴りつける。
「思い上がってんのはてめえの方だろ」そして更に数発殴る。
しかしその時だった。
大和の右肩から右脚が生えてきた。
「―――なあ、異人って知ってるか」
その脚で三浦の顎を蹴り上げた。思わずのけぞった隙に大和はすり抜ける。
三浦はよろめきながら距離を取りつつ、答える。「知ってるよ、見たのは初めてだが」
大和は元の体に戻る。切れた口から出る血を地に吐き、鼻をこする。
「ならしかと見とけ。これが世にも珍しい人間ならざる者の姿だ」
そして彼は三浦との距離を詰める。そして右腕を彼の顔面目掛けて一直線に繰り出す。
三浦は両腕でガードを作り、それを顔面に高さに引き上げる。
だが次の瞬間だった。
三浦は息が出来なくなった。鳩尾を殴られていたのだ。遠のく意識の中、彼は視界に右腕が二本になった大和を捉える。
(一瞬で左腕を右に移動したのか……?)
既に大和の体が元に戻っている事を彼は見上げながら確認する。尻と肘をアスファルトで擦りながら、何とか後ずさりするが大和は彼に近づいてきて胸倉を掴む。
ようやく大和が口元に笑みを浮かべる。
「やはりお前はつまらない」
そして顔を近づけて目を覗き込む。
「実は前からお前の事はよく見てた。何にも関心が無くて、ひとに決断させてばっか。お前はつまらない人間だって、誰もが思ってたと思うぜ……お前生きてて楽しいの?」
そして大和は回想する。在りし日の記憶を。
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