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蠅のアヤメ帝国  作者: 星駿平
第1章 アヤメの人間になる前の日々
19/22

第19話「あなたは一体何者なんですか?」学年一美少女からの忠告を受け

突然呼び出された。勿論ただの知り合いだったらガン無視する。だけど呼び出した相手はあの高橋さんだった。三浦が長年思いを寄せていてクラス一の人気者でもあるあの高橋さん。

断る理由がない。

三浦は一張羅である青のパーカーに着替える。

呼び出されたのは午後の4時、場所は近所のボーリング場だった。

(何故にボーリング場?)という疑問は当然あったが、別に場所なんてどこでも良かった。高橋さんと遊べるのなら。

しかし心の中で引っかかっているのはあの二人組が放った「大和を殺す」という発言。

(でもあいつら身内だから本当に殺す訳、無いよな?比喩で言っているだけだよな?)

そう思おうとしていた。


「三浦君」

彼がのこのこボウリング場に行くと、入り口には高橋さんが一人でいた。彼女は水色のワンピースにトートバッグという格好だった。「勉強してる?」

「いや……まあ人並みに」

「そっか。私は結構してるけど頭悪いからなぁ」

別にそんな事ない、と三浦は理解している。これは謙遜だ。彼女が頭悪いなら三浦の知能レベルはノミ以下という事になる。もっとも明らかに謙遜だとばれるような事を、言い切れる所も三浦は好いているのだが。

「早速やろっか」

彼女は親指でクイっとボウリング場の中を指さす。彼女の後をついて中に入ると、そこは意外にも大きかった。30レーンはあるだろうか、人も大勢いて熱気が凄かった。

「初めて来たけど、こんな感じなんだ」

高橋さんは三浦の目を見つめて言う。「来た事ないの?珍しいね」

「ごめん、弩陰キャなんで」

「そんな事言わないでいいよ。今日来たんだかそれでいいじゃん」

三浦は彼女の方をちらりと見る。彼女の瞳には強さが感じられる。

(ま、どうせ今日も何かの用で呼ばれただけなんだろうが)

以前彼女に好意を振りまかれた事があったが、それも結局は他の女子の為だった。そしてその女子、汐入も自分がDV男に付きまとわれていてそいつを遠ざける為に三浦に行為がある振りをしているだけだった。

だから今の三浦に舞い上がりは無い。あくまで現実を見ていた。

しかしそれを差し引いたとしても今日のデート擬きは心躍る物だった。三浦は余計な事を考えずに楽しもうと決めていた。

一投目で高橋さんはストライクを取った。彼女はガッツポーズをしつつ、三浦の隣に座る。

「ねえ、知ってる?」彼女は髪を耳に掛けた。彼女はよくこの仕草をする。

「ボウリングで大事なのはフッキングポイントを見つける事なんだ」

「何それ?」

「ボールが曲がり始める所の事。オイルが塗ってない所で曲げないとダメなんだよね」

「へぇ」そんな事は初めて知った。もっとも彼はボウリングを小学生以来してこなかったので知っていたとしても使う機会なんて無かったが。

「私はフッキングポイントを何処にすれば良いか、もう把握した。球のキレも良いし、今日は相当いいスコア出ると思う」

「そっか……ガチなんだね」

彼女のテンションとは対照的に三浦は落ち着いていた。別にボウリング自体が楽しい訳ではない。だがつまんなそうにやっても場に水を差すだけなので、真剣にやる。

ボールを構える彼の眼は至って真剣だった。

結果、高橋さんのスコアが253.三浦のスコアは55だった。

「……」疲労感と情けなさに襲われて三浦はソファーに深く座り込む。ぐったりしている彼を見て高橋さんは笑っていた。「そんなに落ち込まないでいいよ、初めてならあんなもんだって」

「ならいいんですけど」

三浦は天井を見上げる。規則的に並ぶ電灯を見ていると心が落ち着いた。

「あの」唐突に彼は切り出した。「何か話があるんですか?」

「何でそう思った?」

「いや、この間の事があったんで。ただの遊びじゃないだろうなとは思ってました」

「ああ、あれね。あの時はごめん」

「全然良いですよ。それより話ってなんですか?」三浦はそれが気になって仕方なかった。

高橋さんは神妙な顔で切り出す。

「実はさ……汐入さんから連絡があって」

(汐入さん……?話が読めないな)高橋さんは三浦の目をまっすぐ見つめる。

「彼女の元に脅迫の電話があった」

「え?」

「電話してきたその男は『三浦を指定の場所に連れてこい、さもなくば殺す』って言ってきたらしい」

「指定の場所……?」

「椎名山の山頂、そこを指定してる」

三浦は何故こんな事になっているのかを理解しかねていた。

「……俺に恨みを持ってる奴の仕業ですか?」

周りでは様々な年代の人々がボウリングに興じている。だが彼ら二人の時間はすっかり止まっていた。

「そうだと思う。恐らくね。でも汐入さんはこの間、あなたを傷つけたのを気にしていて……この話を伝えないように黙ってたらしい」

「そんな……」彼女がそんな事をする義理は無い。(俺なんかを庇って何の意味があるってんだ……)

「でも怖くって私に相談してきた。私が確認した所によると別所君と矢部君も今、どこにいるか分からないらしい」

「え?」三浦は言葉を失う。一体彼の周りで何が起きている?それが分からないから怖かった。

「多分これはあなたをおびき出すための物だと思う。で、この場合警察とかならあなたをそいつと引き合わせないようにするだろうね。……でも、私はそれだと埒が明かないと思う」

「つまり何が言いたいんですか?」

「―――あなたが直接対峙すべきだと思う。その相手と」

彼女の目の奥には闇があった。覗いてはならない、危険な闇。だけど彼女の言葉は正しかった。

「元よりそのつもりです」

三浦は一拍置いてから言う。「何か知ってます?この件について」

高橋さんはゆっくり頷く。

「別に何かを知ってるわけじゃない。だけど強いていうなら相手を知ってる」

「相手は誰なんですか?」

三浦は苛ついていた。高橋さんの物言いが随分勿体付けているように思えた。生徒の2人と連絡が取れず、一人が脅迫されたというのに。緊迫感が無い。

彼女はやはり間を置いてから言った。

「大和君でしょ?あなたに因縁を感じているのは」

それを高橋さんが知っている訳がなかった。彼の身にゴタゴタが起きている事は誰も知らない秘密なのに。

「―――あなたは一体何者なんですか?」

彼女は無表情なまま言った。「普通の女子高生だよ。それより早く行った方がいい」

「椎名山でしたっけ……」

「いや、そっちじゃない。厚木君の所。恐らく大和君はあなたの近親者をまず狙ってる。だから厚木君が危ない」

考えるより先に体が動いていた。三浦はその場を去り、全力で走る。厚木の家は電車で二駅の所にある。だが走った方が早い。

彼は覚悟を決めていた。

もしも友人の身に危害を加えたなら、躊躇なくぶっ潰す。アヤメでやったように何の躊躇いもなく。

彼にはその覚悟が出来ていた。


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