第13話 「お前は王になる」ホームレスの預言者
太陽が頭頂部から照り付けてくる中、三浦は林を抜けて公園へと歩を進める。
足取りは軽い。彼は難しい事を考えるのをやめにした。
(要はこの街から出ればいいだけだろ?それで普通の生活に戻る)彼は意を決していた。
そんな彼の目の前に一人の白髪のあご髭をだらりと垂らしたホームレスが見えた。そのホームレスは公園の片隅にブルーシートの家を作っていた。だが今はベンチに座って呆けている。
「なあ」そんなホームレスが突然声を掛けてきたのだから三浦は驚いた。思わず肩を竦めてしまう。
「すいません。今急いでるんで」
「長くはならない。少し忠告しといてやる」
明らかに怪しい人だ。三浦は急いでその場を去ろうとする。だが次の一言を聞いて思わず足を止めた。
「高橋さんってのを好いてるんだ、君は。だけど残念、彼女は君なんか眼中にない」
「!」この老人は何を言っているのだろうか。そう思っていた三浦は一気に彼に惹きつけられる。
「俺の事、何か知ってますか?」
「知らない。だけど儂にはこの世界の過去と未来が見える」
ホームレスは口以外何処も動かさない。ただ一点に空を見つめながらしゃがれ声で独り言のように呟いている。彼は続けた。
「お前は王になる。いずれこのアヤメで覇権を争う事になるだろう。王同士の争い、それに君も加わる事になろう。だがその為には一つ条件がある」
三浦にはそのホームレスが何を言っているのか分からない。だけど足を止め、黙って聞いていた。
「命の危機に瀕した時、誰かが君にささやくだろう。魂を売れ、と脅すように。だがその声を恐がるなよ、身を預けるんだ」
三浦は次の言葉を待った。だがホームレスはそこから一言も喋らなかった。気付けば目も閉じている。
そうしていると工場の方が何やら騒がしくなった。和式便所の中に片膝を突っ込みながら気を失っているおじさんが見つかったのだろう。
三浦は慌てて公園を後にする。そしてその公園を抜け、道路に出た。
車が行き交う車道際に走り寄り、彼は躊躇う事なく腕を横に出した。
ヒッチハイクのサイン。
迷いなく行動していた三浦の頭には先ほどのホームレスの言葉がリフレインしていた。
『お前は王になる』
何故かその言葉に勇気づけられていた。そんな風に自分を世界の中心に据える事が出来ない人生だった。だが元々彼は我儘な少年だった。
(この街はクソだが来てよかった。人生観変わったわ……)
満足げな表情で車を待つ。だがまだ彼はアヤメから出ていない。




