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ブランチ1 出題(1)

 真南にずっしりとかまえた太陽が、俺たちを容赦なく照らす。いぞや習った南中高度とか言うのを、ふと思い浮かべる。ああ、これかぁ。

 ここ最近、この村で起きている怪事件を耳にしても、俺がまだこんなことを考えられたのは、それだけ暑かったのか、恐怖から考えることを放棄したからなのか、分からなかったが、とりあえず興味深いという風には感じた。

 「--どお?怖かったかな?ちょっとそれっぽく言ってみたけど…?」

 してやったりっ、というような笑みをこぼしながら、希子姉がこちらを振り向く。

 「別に、怖くはなかったですよ!…まあ、怖がっている人の話って、怖くないって言いますし??」

 こっちに来てから振り回されっぱなしだったので、少し困らせようと見栄を張ってみた。

 「嘘つきー!テンパって約束忘れてたもんね!…敬語で話してたよーん!」

 …しまった、そうだった。昨日の夜に、家族内で敬語はなし!って叔母さんたちに言われてたのだ。完全にしてやられてしまった。

 参りました、と一言言うと満足したのか、彼女は話題を変える。

 「あ!あそこがさっき話した銭湯ね!

 学校は明日案内するとして、あとは………」

 

 「…あー、あっ!」


 「そ、そろそろとっておきを紹介しようかな!

 私たち、念炉護村振興委員会、略して念振会の拠点だよ!」


 念振会というのは、学校にある部活のようなものらしい。

 拠点なんて、まだ秘密基地みたいな遊びしてるのかと少し飽きれていたが、実際に見てみると、ガス、水道、電気などが通っているらしく、秘密基地というよりもはや住宅だった。研究者がごく稀に使う場所らしいが、普段は念振会が使用してるようだ。

 中に入ると、玄関は12畳ほどの大きな部屋に隣接しており、さらにその部屋にに二つの扉があった。


 「--遅いと思ったら、まさか都会の男連れてきやがるとはな。神聖な念振会の活動に。」


 部屋の中央には机と椅子が並べられており、2...3...4人が座って会話をしていたようだった。

 声をかけてきたのは玄関の方を向いて座っていた小柄な男。部屋のなかで帽子をかぶっている辺り、俺の第一印象は、変なやつ。彼の一声に反応して、他の四人もこちらを向く。

 

 「希子ちゃん、だぁれ?その子?」

 帽子の男からみて、左側の女の子が問いかける。

 

 「もぉ、二人とも、今から説明するってば!隣は、五十嵐政人くん。東京からは東京からだけど、こっちに住むの!」

 

「...なんや、そうだったんか!てっきり他所もんが冷やかしに来たのかと思ったさかい、ほんますまんわ。実は俺もここで生まれたわけやないから、なんかあったら聞いてくれてええよ!」

 出身は...、まあ、大阪とかそっちだろう。


 ほかのメンバーとも軽くあいさつを交わすと、俺は伊崎千玲いさきちあきという女の子と、大河原鉄おおがわらてつという男と村内のパトロールに出発した。日曜日にはいつも村内を回り困ったお年寄りを助けたりするなどの活動を行っているそうだ。


 「さっきはごめんなさい、あんなこと言って驚いたでしょう?でも、誤解しないでほしいのは、光範は本当に仲間思いでやさしい子なんだ。」


 伊崎の言う光則というのはさっきの帽子の男、関井光範せきいみつのりのことだ。ちなみに隣にいた女の子は美甘アリス(みかもありす)といい、今日は来れていないが、八十太一やそたいち千川翔貴せんかわしょうき、神社の最上慎太郎もがみしんたろうの計9人のメンバーがいるらしい。9人というとすでにに俺が含まれているような気がしたが、そこは突っ込まないでおいた。

 

 「半年ほど前だったか、この村に、地熱を利用した発電所の建設計画が出たんだが、建設予定地が私たちたちにもなじみのある場所になったこともあって、反対派と賛成派でわかれていた。村長のおかげで両者の軋轢は今では解消されたんだが...」 


 結局、地質の問題などで計画がとん挫したは良いが、村の土地を好き放題荒され、所詮、他所の奴なんて考え方が村内に広まってしまった、と彼女はつづけた。

 俺が、気にしていないと伝えると、彼女は心底ほっとした様子だった。


 「ほらな、やっぱり気にしすぎなんだよ、姉御は。政人、こいつはこんな感じでうっとうしいと感じることもあるだろうが、よろしくな。」

 185cmはあるだろうか、ガタイもよく、大きな背中からこちらに顔を向け、男は話す。

 こっちこそよろしく、と、もう少し早く伝えたらよかったのかもしれない。俺がそういった時、二人の注意はもはやこっちに向いてはいなかった。

 ---田んぼの上に浮かんで動かない人間。その非現実的光景に向けられていたからだ。

 


 



 

 

 

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