ブランチ1 始動
---早いもので、両親が没してからもう一月ほどたつ。
俺は五十嵐政人、16歳の高校生である。
さて、いろいろあって身寄りが多くなかった訳だが、ありがたいことに、母方の叔父夫婦が引き取ってくれることとなった。
そして、今日は叔父の家への出発日である。
中高校での友達に別れを告げ、駅で電車を待つ。一時はもう立ち直れないと思うほど打ちのめされたが、こうして立ち直れたのも彼らのお陰である。
東京から、いくつか電車を乗り継ぎ、「真島駅」に到着する。昔ながらの情緒溢れる無人駅だ。
周りの自然に圧倒されながらも、ここからはバスで目的地に向かう。
………話には聞いていたが、やはり本数が少なく、この日最後のバスの中で波打っている鼓動を落ち着かせながら、静かに時が経つのを待った。
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「お…さん、お客さん…」
囁くような声にふと目を覚ます。いつの間にか寝ていたらしい。
「…あ、やっと起きてくれました、こんにちは!政人くんであってるよね?」
黒髪ショート、機能的だが、それでいてしっかりとおしゃれな服装を着こなしている。
整った顔立ちに---、胸は…、おっと!俺はそこで、はっと止まった。正直すぐには分からなかったが、名前を知られているということもあり、彼女が従姉であると気づいたからだ。
「…もしかして、希子さん?従姉の拝島希子さんですよね?お久しぶりです!」
俺がそういうと彼女はにっこりと微笑んだ。
「もう、やめてよぉ、さん付けなんて、昔みたいに希子姉でいいよ。」
そう、希子…姉は言うが、心のなかではそう呼べても実際は時間がかかりそうだ。照れ臭そうにしているのが感じられたのか、
「あはは、ゆっくりでいいよぉ!そう、少しずつ、新しい生活にも…。」
表情が曇ってしまった---やっぱり、気を使わせてしまった様だ。
でも、こうして心配してくれる身内の存在を一ヶ月ぶりに感じ、なんだか温かくなった。
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「そういえば、真島駅から一緒だったんですか?声、かけてくれればよかったのに。」
バス停からも、希子姉たちの家がある村落へは30分ほど歩かなければならないらしい。
駅まで迎えに来るという叔父たちを断った訳だが、正直、希子姉がいなければたどり着けなかっただろう。
「ああ~、実は上原駅からそうかなとは思ってたんだけど、最後にあってから時間たってたし、自信なくて、、」
上原駅というと、こっちの方では一二を争う都会だ。さすがに今時の女の子ってところだろうか。
「てゆうか、気づいてもらえるようにアピールしてたつもりだったんだよ?!まさちゃんの近くにずっと座ってたし、時々立ってわざとずっこけてみたりもしたのに!」
--思い返してみれば、そんなこともあったような気がするが、引っ越しのことで頭が一杯だったのか気づかなかったようだ。
そうこうしているうちに、そろそろ一時間ほど経つ。俺の時間を気にする素振りに気づいたのか、希子姉は口を開く。
「実はね、もっと早く行こうと思えば行けたんだけど、ちょっと寄り道したくて。ほら、もう着くよ八万丘。村全体が見渡せて、今の時間帯なんかとくに、とってもいい景色なんだよ。」
彼女が話し終わるのと、ちょうど同じくらいに段々と暗くなってきた夕暮れの山道のなか、木漏れ日で輝いて見えた部分にたどり着いた。背後にはうっそうとした森林、そして正面には夕日で赤く照らされているのは他でもない---念炉護村であったのだった。
「夜空を見上げてみよう、満天の星空を。曇った日も想像してみよう、はるかな宇宙を。」
この丘に建っている看板に書かれたない文言である。この時は、なぜ夜のことしか書いていないのか、と疑問を思ったのをよく覚えている。しかしこれが、後に重要な役割を果たすことを、この時の俺はわかったいなかった。