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運動オンチ、マラソン初心者の高校生が走る

運動オンチの高校二年の健太がどうしたことかマラソンのスタートラインに立っていた。

     1

 

 耳が痛くてやってられない。

 健太は冬の体育の授業中いつも思っていた。周りの奴らは楽しそうにジャージ姿でサッカーボールを追いかけている。それも寒さのなか耳あてなしでがんばっている。健太はかじかむ耳を押さえて授業時間中ずうっとサッカーコートの隅っこにいた。それが高校二年の健太だった。

この日、山根おろしが大鳥川の河川敷に吹いていた。強い風に叩かれて、枯れすすきは、ざわざわと音をたてていた。その姿はごていねいに頭を地面にこすりつけてお辞儀をしているみたいだ。

 河川敷に設けられたマラソンコースには三〇〇人をこえるランナーたちがスタートの合図を待っていた。大鳥川市民マラソン大会の参加者は、高校生から最高齢の七〇歳代まで、男女を問わず様々な年齢層が集まっていた。

 ランナーたちは団子状態で、スタートラインから一歩さがったところで集まっていた。健太はその後尾のほうに気後れしながら並んでいた。この日も耳が痛かった。かじかんだ耳を押さえて足踏みしていた。健太のランニングウエアは白の長袖のTシャツと高校で使用している紺のトレーニングパンツであった。この会場にいるランナーたちのなかでは極めて厚手であった。

 この寒さのなかでも、スタートライン際に詰めて優勝を狙う精鋭たちは、ランニングシャツにショートパンツと裸のような恰好だ。連中のふくらはぎはまるで金剛力士像のもののように固く盛り上がっている。

ランナーのなかには防寒用の耳あてをしている連中もいるが、精鋭たちはもちろんそんなものをつけていない。耳も鍛えられているのに違いない。

「冷たい……」

 耳あてをもってくるんだと後悔した。走る前から気勢をそがれていた。

 気後れしていたのは、耳の痛さからだけではなかった。高校二年の健太からしたら、周りの参加者が見渡す限り大人ということであった。

 三〇〇人の参加者のなかに健太以外に高校生はいるのだろうか? 高校で陸上をやっている連中は長距離といっても走るのは一〇キロだ。彼らはフルマラソンのような長い距離にスピードを合わせていないから、大鳥川市民マラソン大会には参加しない。高校生がいるとしたら、よっぽど物好きな奴らだ。それも片手で足りるほどの少人数。

 健太は履いてきたランニングシューズを見た。白地に細くグレイのストライプだけがはいった地味で見栄えのしないものだった。他のランナーたちのシューズは色が鮮やかだった。赤、青、黄色と原色が使用されている。なかにはド派手な蛍光色のものもあった。

 なにからなにまで周りとは自分が違っていて、ここにいることが場違いだった。


 例年、年明け早々に大鳥川市民マラソン大会が開催される。この大会は大鳥川沿いの河川敷に設けられた一周一〇.五五キロのサイクリングコースを利用している。

 フルマラソンの四二.一九五キロに達するためには、ほぼ四周を走り通すことが必要となる。また周回コースのためスタートラインとゴールゲートが隣接している。両者の間にはタイムを表示する、人の背丈ほどの電光掲示板が置かれていた。

 四周を走り切ったものだけが、スタートラインの横にあるゴールゲートをくぐることになる。

 午前八時のスタートの時間となった。スターターがピストルを鳴らした。ランナーたちは火薬の破裂音に反応して、解き放たれたようにいっせいに走り出した。三〇〇人のシューズが大地を蹴り、健太は押し寄せた波音のなかに飲み込まれた。周りに引っ張られるように足を踏み出した。後尾にいた健太には、ピストルの音は小さく、空気が漏れたような音に聞こえた。


         ( 続く )


いよいよレースが始まった。大鳥川沿いの河川敷のコースを四周する。一週目だ。

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