02:英雄ユキコ(承・転・結
02:英雄ユキコ(承
風のない夜だった。開け放たれた窓からは虫の音と女たちの声音が遠く流れてくる。
「好い心持だ」
団扇でゆーるりと風を送って差し上げていると、あたしの膝を枕にした陛下がそんなことを言った。
「この国で1番偉いお方が、あたしの膝ていどで満足してしまわれるのですか?」
「イズミの膝だからこそなんだがな」
陛下が寝返りを打って、あたしのカラッポなお腹に顔をうずめる。
「まぁ、お口のうまい。他の女房さま方にもおっしゃってるんでしょ?」
「言ってないよ。朕が心底惚れて後宮に招いたのはイズミだけなのだからな」
ふふふ。
嬉しくて微笑ってしまう。
男の人の言葉をそのまま信じてしまうほど初心いわけではないけど、それでも言われて気分の悪くなるはずもない。
「でしたら、もうすこし部屋に足を運んでくださいまし。ひとり寝の夜は寂しいですわ」
「すまないとは思ってるんだよ」
繰り言を言ってしまったけど、分かっているのだ。
陛下は多忙である。
昼は政務に、夜は他の側室をまわって子作りに励まなければならない。
5日に1っぺんだけとはいえ、あたしだけの人になってくれるのは贅沢なことなのだと。
「それは?」
再び寝返りを打った陛下の視線がサイドテーブルに置いておいた封筒に向いた。
「父からの手紙ですわ。剣の英雄ユキコに所縁のある土地を巡っているとかで、見聞したことを書いて送ってくださったのです」
「ああ、前に言っていたね」
陛下は起き上がると
「読んでもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
陛下も他の殿方と同じように英雄がお好きなのだ。
手紙を手にした陛下は再びあたしの膝を枕にして、父からの手紙を読み始めたのだった。
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天歴1386年
タンリの州とシダの州との争いは開戦から2年が経っても泥沼のままであった。
当初、誰しもがタンリの州の勝利で早々に決着すると予想していた。
なんせ国力に差がある。
タンリの州はおおよそでシダの州の倍の国力があるのだ。
しかもタンリの州には名にし負う猛将クマダがいる。
ちいさなシダの州は蹂躙されるだろうと思われていた。
しかし天歴1385年にクマダが行方知れずとなってから、流れが変わった。
タンリの州が精彩を欠くようになった。
いかにシダの州を攻めようとも、勝てなくなってしまったのだ。
やがて人々は噂するようになる。
シダの州に化け物がいる、と。
たった1人の剣士が、戦場で鬼神の如く猛威を振るっている、と。
しかも。
その剣士は、若い、女だ、と。
噂するようになった。
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あたしは傭兵となって戦場を渡り歩くようになった。
殺す
殺す
殺し尽くす
タンリの兵士を手当たり次第に討った。
復讐だ!
チリンのみんなの復讐だった。
村が亡びてから、あたしは都にのぼった。
そこで知ったのだ。
徴集された男衆が、戦場で1人残らず果てたということを。
あたしは1人になってしまった。
父ちゃんも、母ちゃんも。
親友だったミチも。
旦那様も……。
みんないなくなってしまった。
「ああ、うん? そうね、そうだった。あなたがいるものね、まだ」
昨日も。
今日も。
明日も。
あたしは戦場で刀を振るった。
それは冬の戦場だった。
雪の降りしきるなかで、あたしは1人の兵士を斬った。
いつものこと。
なれたこと。
泥濘のなかに倒れた相手は、でもまだ生きていた。
刀だ。
刃こぼれと血脂とで、切れ味が鈍ってしまったのだ。
手にしていた刀を捨てて、相手が落とした刀を拾う。
あたしは倒れた相手に近づいた。
始末するためだ。
苦しむ姿を憐れに思って引導を渡そうなんて慈悲心じゃない。
ただ単に、憎しみからだった。
「かあちゃん…」
さらさらと降りしきる雪の音に紛れて聞こえた弱弱しい声は
「いたいよ…かあちゃん……」
あたしの耳に届いてしまった。
熱が冷めたみたいな感じだった。
煮えていた感情にビックリ水をかけられたみたいに、あたしは慄きながら死にゆく彼を見た。
幼かった。
あたしよりも若い、男…いいや、男の子だった。
どれほど立ち尽くしていただろう。
男の子は死んで。
争いは終わっていた。
あたしはようやく。
刀の重みに気づいたのだった。
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かつてユキコが活躍したという戦場のひとつ。
伝説によると、ユキコはこの地で初めて傷を負ったのだという。
わたしはその跡地を訪れていた。
現在ではそこそこ大きな都市になっていて、往時の面影など微塵もない。
きっと住人でもかつて戦場だったなどと知っているのは少ないことだろう。
いくらユキコに関係する土地とはいえ、旅したところで意味のない場所だ。
だというに、わたしが足を運んだ理由は。
「我々は! こたびの戦争で多くを失った!」
噴水の前で男が演説をしている。
「それは命であったり! 家財であったりしただろう!」
わたしは足を止めて大勢の立ち止まる人々にまざった。
「苦しい思いをしてまで戦争をしたのは何故か! それは勝つためだ! 卑劣蒙昧たる彼の国に鉄槌を下すべく、我々は涙を呑んだのだ!」
男は己の弁舌に興奮して声を荒げるが、集まった聴衆のうちで賛同するのは2、3人しかいない。
長引いた戦争で、誰も彼もに嫌気が差しているのだ。
聴衆の反応に気づいているのかいないのか「にもかかわらず!」と男は続ける。
「政府は! 陛下は! 不倶戴天の彼の国と停戦しようとしている! そんなことが許されるか! いいや、許してはならない!」
そこまで聴いた時だ。
ピー! と警笛を吹き鳴らして警官隊が駆け付けてきた。
見守るうちにも、演説していた男は抵抗しつつも警官に連行されていく。
群衆が三々五々ばらけた。
佇んでいたわたしは、ここにいたって確信した。
散り散りになる群衆の頭の向こう。
噴水が吹き上げる水のカーテン越しに。
見つけたのだ。
旅している間に感じていた視線の主を。
察したのだろう、相手は背を向けて人込みに紛れる。
わたしがココに足を運んだのは、自分が尾行されているという確信を得るためだった。
そのためには、わたしが人込みに紛れて、追跡者から注目されねばならなかったのだ。
いったい何者だ?
考え込んでいると
「もうし?」
と肩に手を置かれた。
振り向けば、のっぺりとした笑みを顔に貼り付けた中年の女性にガリ版刷りのチラシを差し出された。
・天国へゆくには
・罪を償いましょう
そのようなうたい文句が並んでいる。
宗教の勧誘だった。
近頃増えているのだ、戦争で疲弊した人の心に付け込んで勧誘する宗教が。
戦場で人を殺めた罪悪感からか、特に元兵士の入信が増えているとか。
わたしは平手で固辞すると、背を返したのだった。
03:英雄ユキコ(転
キョロキョロと目抜き通りを歩きながら店舗を探す。
ほどなくわたしは目当ての店を見つけることができた。
電話屋。
文字通りに電話を使わせてくれる店のことだ。
まだまだ普及しているとはいいがたい電話だが、ここぐらいの規模の街なら1軒ぐらいの電話屋はある。
政府は将来的には辻々に電話を設置して公衆が気軽に使えるようにしようなどと考えているらしいが、電話回線や交換台の増員などを考慮してもおそろしく費用の掛かる遠大な計画である。
わたしは瀟洒な建物の扉を開けて中にはいった。
けっこうな人がいる。
まま繁盛しているようだ。
みんな嬉しそうに誇らしそうに電話をしている。
田舎から出てきた人にとっては、故郷に電話することがステータスなのだとか。
つまり『俺は電話のある街で働いて、こうして電話もすることができるんだぞ!』と自慢するわけだ。
といっても田舎の個人宅に電話があるはずもなく、電話のある金持ちの大地主や村役場に繋ぐことになるわけだろうが。
それでも電話を受けた家族も含めて鼻が高くなることだろう。
しばらく佇んでいると
「電話屋は初めてでござんすか?」
お仕着せの制服を着込んだ女性の店員が訊いてきた。
「いいや、何度か利用させてもらっているよ」
「ではご説明は不要でございますね。当店では、カウンターは5分からで50銭、個室は3分からで1円となっております」
妥当な値段だ。
相手が相場を知らないと思って、まれにボッタクリの店もあるのだ。
「個室でお願いしよう」
「承りました」
店員に案内されて4畳ほどの広さの個室に入る。
「お飲み物はどうなさいますか?」
「なにがあるのかね?」
訊ねると店員がメニューを差し出した。
「では…」
わたしはメニューを覗き込んで
「これをいただこう」
指さした。
「それではごゆっくりと」
頭を下げて店員が去っていく。
わたしは座敷に上がるとあぐらを組んでから、座卓のうえに置かれた受話器を手にした。
電話機の横に取り付けられているハンドルを回して、交換台につなげる。
「おいおい、聞こえているかね?」
『申します申します、聞こえております。こちら交換台でございます』
若い女性の声が応える。
ひと昔前は交換手といえば男性だったが、最近では女性に代わりつつあるらしいという話を思い出す。
わたしは電話機本体に付属した送話器に向かって、家の電話番号を口にした。
「~~~~につないでくれ」
「確認させていただきます。~~~~ですね?」
「そうだ」
「承りました。少々、お待ちくださいませ」
さきほどわたしは電話は個人ではお大臣しか持っていないと言った。
ならば何故、我が家にそのような高価な代物があるのかといえば…退職した折の慰労金をはたいて購入したのだ。
旅先から家族の安否を確認するために、である。
なのでわたしは少なくとも1日に1回は家に電話をすることにしていた。
もっとも連絡をする度にぼちぼちの金額が要りようとなるので、普段はカウンターで安く手早く済ますのだが。
待つほどもなく
「お父さん?」
と耳に当てていたカップ型の受話器からナギサの声が聞こえた。
「そうだよ。みんなに変わりはないかい?」
「いつもどおりよ。お父さんこそ、どうなの?」
「そうだな…今日明日で終わらそうと思ってるよ」
「気を付けてね」
「ああ、ありがとう」
ガチャリと受話器をかけるフックを指で引いて回線を切る。
切っておきながら、わたしは受話器を耳にあてがい、送話器に向かって家族と喋っているような素振りを続けていた。
トントン、とドアがノックされた。
「注文のお品をお持ちいたしました」
ガチャリとドアを開けて青年が入ってくる。
案内してくれたのとは別人。
わたしはそれを横目に会話の素振りを続ける。
青年がテーブルに品物を置く。
と
ギラリ!
袖口から細身のナイフが滑り落ちて青年の手におさまった。
それが、わたしの腹目掛けて……刺し込まれる。
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ユキコは戦場に在り続けた。
しかしながら変わった。
確実に変わった。
ユキコは攻めるための戦場には出なくなったのだ。
守るための戦場にのみ姿を現すようになったのである。
天歴1389年
ユキコの名声は高まり、自州はもとより周辺州でさえ彼女の名を知らぬものは無いほどになっていた。
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げええええ
胃の中のものを吐く。
最近では胃液に混じって赤い血も混ざるようになっていた。
体が震えている。
恐怖で?
後悔で?
懺悔で?
手の平は幾ら丹念に洗っても、血のニオイが落ちない。
その日。
その日も。
雪のちらつく中で、あたしは川に浸かって体を洗っていた。
じゃりり
河原の砂土を踏む物音がした。
あたしは川べりに置いておいた剣を取った。
「誰!?」
「オレだよ」
現れたのは……
「旦那様!」
死んだと思っていた夫だった。
あたしは我を忘れて旦那様に抱き着いた。
幻ではなかった。
血迷った末の妄想ではなかった。
ぬくもりが。
現実だと。
本物だと。
教えてくれていた。
「どうして、どうして?」
あたしの言葉にならない多くの疑問に、旦那様は答えてくれた。
迎えに来ようと思っていたけれど、思うように行動できなかったこと。
あたしの噂は耳にしていたこと。
そうして、ようやっと会いに来れたこと。
「さぁ、帰ろう」
旦那様は言うけど
「チリンはもう焼けちゃったの、帰る場所なんて…」
「帰るのは隣りのタンリの州だよ。オレは今、そこで暮らしているんだ」
え?
タンリの州?
あたしは旦那様の顔を見上げた。
雲間から月明かりが差し込む。
闇に隠れていた旦那様の顔がハッキリと見て取れた。
何処か変わった。
ギラギラとした目。
『オレは王都で! お前等なんぞが対等に口を利けない! 学者だったんだ!』
お酒を飲むたびに、怒鳴り散らしていた旦那様をフッと思いだした。
庶民が着るにしては高価そうな服装。
顔付きも焦っているように見える。
「ど、どうしたんだい?」
震える声で旦那様が訊いてくる。
脈絡もなく。
思いついた。
思いついてしまった。
「旦那様が……敵州の兵をチリンに導いたのね」
「ヒッ!」
と旦那様が息を呑む。
それが答えだった。
体は自然に動いた。
剣を取り。
背中を向けていた裏切者を斬りつけていた。
返り血があたしを濡らす。
「また…洗い流さないと……」
あたしはノロノロとした足取りで川に戻った。
血のニオイが落ちない。
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土間には青年が転がっていた。
首筋に己のナイフを突き立てて。
「まったく…」
引退したというのに。
旅した日から感じていた視線の主はコイツだろう。
視線は常に1人だった。
青年を丹念に調べる。
身分を表わすような物はなし。
筋肉のつき方からして軍属。
陸軍。
陸と海とでは、働く者の体も違ってくるのだ。
体は絞られている。
暗殺者…。
いいや、だとしたら余りにも手段がずさんだ。
こちらが油断を誘っていると気付きもせずに罠にはまった。
密偵か?
肉のつき方から推して、戦闘教育を受けてないようだし、そのあたりだろう。
顔にも見覚えがある。
「ふむ…」
チリンの町で会った、軽トラックの運転手。
あの時は様子見で見逃したのだが。
その見逃したのが仇となって、逆にわたしを侮ったのだろう。
そもそも対象たるわたしに声をかけてきた時点で、この男は自意識と自信が過剰な性質だったはず。
密偵には不向きだったのだ。
わたしはテーブルに置かれたフルーツパフェに目を向けた。
ウエハースでクリームを救って、ひと口。
「甘いな」
ホノカやアカリやリクが度々口にしていたので興味があったのだが。
わたしはみたらし団子のほうが好みだった。
受話器を取って、再び交換台につなげる。
今度はかつての友人へと電話をしたのだった。
04:英雄ユキコ(結
汽車に揺られて進む。
進むにつれて景色は荒廃していった。
この辺りは激戦地だったのだ。
3年前の夏。敵国が夜陰に紛れて上陸を敢行したのである。
敵味方双方ともに甚大な被害を出し、当然のことながら付近は焼かれた。
いまだに復興が果たされていないのは、取り立てて産業のない土地だったこともあって、後回しにされてしまっているのだ。
しかし、だ。
この地は英雄たちのマニアからしたら重要な場所だった。
何故なら。
英雄ユキコが命を落とした地なのだ。
駅員のいない仮設の駅におりる。
わたしは浜辺に向かって歩を進めた。
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天歴1390年
長かったシダとタンリの戦争が終わった。
すると州民のおおくが英雄ユキコに賛辞を送り、彼女は非常な名声を得た。
得てしまった。
これが貴族の不快と不審を買ったのである。
英雄ユキコを御輿にすえて、不満のある州民が反旗を翻すのでは?
と偉い人は疑ったのだ。
疑いは、英雄ユキコへの恐怖へと直結した。
詳しい月日はわからない。
ただ夏であったことは様々な資料から分かっている。
その日。
英雄ユキコは浜辺で催された知人の祝いの場において、祝杯を飲み、それに混入されていた毒で殺された。
その場には英雄ユキコを支持する多くの人々が参列していたが、これも毒で1人残らず死んだという。
こうして英雄ユキコはいなくなった。
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おおぜいの人が集まっていた。
分かっている。
みんな、あたしを利用しようとしている人々だ。
彼等は自らがより強い権力と富を得んがために内乱を起こそうとしているのだ。
せっかく生臭い毎日が終わったというのに…。
「馬鹿な人たち」
あたしはボソリと呟いた。
「かんぱーーい!」
誰かが大きな声を張り上げた。
おおぜいがグラスを掲げて飲み干す。
あたしもソレを飲み干した。
げふ
口から血が溢れる。
体が傾いで、倒れ伏した。
知っていた。
毒が入っていると、あたしは知っていた。
でも、もう、あたしは生きるのに疲れていたし。
こうした自分のことしか考えないような人々を道連れにできるのなら。
それでまっとうに生きている人達が殺し合わないですむようになるのなら。
これでいい、と思った。
「ユキコねえちゃん」
ふと、懐かしい声がした。
ああ…
そこには、男の子がいた。
殺した男の、弟が。
ずっと。
忘れていた。
あの子がいた。
変わらぬままに、そこに居た。
「……」
かろうじて指を伸ばす。
男の子があたしの指に触れた。
泣いている。
こんな人殺しのあたしのために、泣いてくれていた。
どうして…忘れてたんだろう?
「ごめん、ごめんなさい」
男の子が謝っている。
なにをそんなに自分を責めているの?
「ボクが居たせいで」
ああ、そっか。
あたしは気付いた。
この能力。
あたしの剣士としての力は、あなたが…。
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「英雄ユキコを知っておりますか?」
わたしの問いかけに、待ち合わせていた相手は
「剣士だったか?」
首をひねった。
英雄は数多い。
いかに参謀本部随一といわれるシシド様でも1人1人の詳しことまでは承知していないのだろう。
「そうです。当時あったシダ州とタンリ州との戦争で活躍しました。そんな彼女ですが、最後は毒殺をされたと言われております」
「……ふむ」
「その折におおぜいのユキコ派とされていた人々も亡くなったそうです」
「非情なものだな」
「しかしながら、そのおかげでシダの州は一枚岩となって内政に力を注ぎ、長く続く戦国時代を最後まで生き抜くことができました」
「…何が言いたい?」
「陸軍に継戦派があると聞いております」
「隠し立てしても詮無いか…。そうだ、お前の命を狙ったのは継戦派だ。陛下のおぼえめでたいお前を殺し、その犯人を彼の国の者とすることで陛下を翻心させようというのだろう」
継戦派の筆頭はオオサコ大将。
日々、連絡していたナギサからは家族に監視の目はないとのことだった。
わたしだったら、真っ先に家族の誰かを人質にとる。
なるほど『戦とは貴族のもの』と言ってはばからないオオサコ大将らしい仕事だった。
しかし
オオサコ大将はその言からも分かる通りに時世についてこれてない。
なんせ現代の戦争は民間人であろうと参加せねばならない総力戦なのだ。
綺麗ごとだけではすまない戦争になっているのだ。
「わたし如きを殺しても、陛下が民をおもう故にお決めしたことを翻すはずもないだろうに」
「まったくな」
ふぅ、とシシド様が重い息をついた。
シシド様が目を閉じる。
葛藤しているのだろう。
オオサコ大将は重鎮なのだ。
目を開ける。
「英雄ユキコのこと…しかと心にとめたぞ」
そう言い残すと、シシド様は踵を返して車に向かうのだった。
天歴1590年
戦争の継続を頑強に主張してた派閥の、その首長たるオオサコ大将と取り巻きの大勢が検挙された。
このことによって、和平は急速に成立したのである。
わたしはその両方のニュースをラジオで知ったのだった。