37「一か八かの賭けだった」
「どうして?」
僕の言葉を聞いて、りおんがきょとんとした顔で尋ねた。
地面にへたり込んだままで。腰が抜けて、まだ立てないらしい。
「どうして……」
まだ起こったことに対して脳がついていけてない。そんな表情だ。
涙はもう止まっているようだが、それでも痛々しい姿だった。
目は真っ赤だし、顔中涙の跡でぐしゃぐしゃだ。
こんなに泣いてるりおんの顔を見るのは、子供の頃以来だったと思う。
「どうして、こんなことしたの? 一歩間違えば、透ちゃん死んでたんだよ?」
「うん。一か八かの賭けだった。でも、これしかなかった」
「えっ、どういうこと? これしかなかったって――」
「りおん。君はヤンデレ病に侵されてるんだ」
「……えっ? ヤンデレ病って、最近見つかったっていう、あの――?」
僕がそう言うと、りおんは目を見開いた。やはり、自身がヤンデレ病にかかってることは知らなかったらしい。
「うん。あのヤンデレ病。だから、こんな芝居めいたことをしたのさ。調べてみたんだけど、ヤンデレ病に根本的な治療法はないらしい。だったら、いわゆるショック療法ならどうかと思ってね」
りおんの顔が怪訝そうになる。自分がいきなり病気と言われたことに対してか、ショック療法の不確かさについてなのかは、わからない。
「で、でも! ひどいよ、こんなの!」
「なにがひどい?」
「だ、だって、わたし、本当に透ちゃんが死んじゃったかと思ったんだよ? それなのに、全部嘘だったなんて……、透ちゃん、ひどいよ!」
「でも、そうでもしなければ、君は自分の過ちを認めなかったし、ほみかに謝ろうともしなかった。そうだろ?」
「……それは……」
僕がそう言うと、りおんは言葉を詰まらせた。
「荒療治だったことは認めるよ。けどね」
僕は、不満そうな顔をしてるりおんを、見下ろしながら答えた。
「君がほみかにしたことをよく思い出してみなよ。少なくとも、幼馴染にするようなことじゃなかったはずだ。ならば、重度のヤンデレ病に侵されてると言える。このことから、生半可な治療方法じゃ逆効果になると踏んだわけだよ」
「……それは……わかるけど」
僕は、なおも納得してなさそうなりおんに対して、
「ほら、立てるかい?」
と、手を差し伸べた。
「う、うん」
りおんは遠慮がちに僕の手につかまり、ゆっくりと体を起こした。
その時。
僕はりおんの頬を思い切り引っ叩いた。




