表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ1~妹と幼馴染のバトルがヤバい!~
34/217

34「透ちゃん、死んで!」

 ――その日。学校の授業が終わるとすぐに、僕は「大事な話がある」と言ってりおんを屋上に呼び出した。ほみかはいない。今日は学校を休ませて、母さんが病院に行かせている。


 空は、燃えるような夕焼け空だった。ふと、夏の風が頬を吹き抜けていく。

 僕はフェンスにもたれかかって、りおんが来るのを待っていた。りおんは用事があるので少し遅れると言っていた。

 ほどなくして、鉄の扉が開けられる音がした。僕は振り返った。


「りおん――来てくれたんだね」


 りおんは、タオルを持っていた。大きさからして、先の細い形の物を包んでいるように見える。彼女は、無表情で僕に言った。


「透ちゃん。大事なお話ってなあに?」


 その姿は、僕が今まで見てきた物の中で、一番美しかった。夕空は目鼻立ちの整った顔をより強調させる。ピンクの髪が夕焼けに照らされている。血にまみれてるように見えた。冷たい能面のような表情が、そう感じさせたのかもしれない。


「今日で三日目だろ? 約束どおり、告白の返事をしようと思ってね」


 僕がそう言うと、りおんの眉がピクリと動いた。


「……その前に、聞きたいことがあるんだ。ここ数日、ほみかの靴に砂を入れたり、階段から突き飛ばしたりしたのは、君か?」


「……」


「答えて。君が、全部やったんだね?」


 僕が尋ねると、りおんはフーッと息をついた。


「だって……うっとおしかったんだもん」


「うっとおしかったって。ほみかが?」


 僕は、りおんの自白に驚いた。ほみかを実の妹のように可愛がってたりおんが、こんなことを言うなんて。


「どうして、なんだ? どうして、ほみかのことをそんなに憎むんだ?」


 僕はわけが分からず、もう一度尋ねた。


「どうして……?」


「小さい頃からそうだった。わたしの方が頭もいいしスタイルだっていいし、家事もできる。それなのに、透ちゃんはほみかちゃんばっかり構ってた。ずっと、それが嫌だったの。透ちゃんにはわたしだけを見てほしかったから」


 そんな風に思われてたなんて、今まで気づかなかった。僕はなんて鈍感だったんだろう。


「ほみかちゃんが離婚しておじさまに引き取られて、わたし、本当にホッとしたんだよ? これでもう、邪魔する子はいないんだって。それからは、透ちゃんのことを陰から想ってた。透ちゃんのそばにいられるだけで、よかった。それなのに……」


 りおんは、唇をギュッと噛んだ。


「また戻ってきちゃったね、ほみかちゃん。透ちゃんが取られちゃうって、気が気じゃなかった。わたしは十年も透ちゃんのことを想ってきたのに。今さら戻ってきたほみかちゃんに、どうして取られなきゃいけないの? しかも、実の妹なのに」


 あの時。ほみかを七年ぶりにりおんにあわせた時、りおんは心の中でほみかのことを憎悪していた。そうか。りおんは、僕とほみかが結ばれることが不安だったのだろう。それで、あのような凶行に及んだというわけだ。


「だから、排除しようとしたの」


 りおんは、生気がない人形のような表情で言った。


「だって、邪魔だもん。わたしと透ちゃんの世界に、ほみかちゃんなんていらないもん。ほみかちゃんさえいなくなれば、透ちゃんはきっとわたしだけを見てくれるから」


「りおん。それは違うよ」


 僕はりおんの顔をじっと見つめた。


「人の気持ちは、そんなに簡単じゃない。仮にほみかを殺せば、僕は君のことを激しく憎む。いや、今だって」


 僕は、初めてりおんを拒絶する言葉をかけた。りおんの表情に、うっすらと陰りが見える。


「透ちゃん……じゃあ……」


「うん。僕はりおんとは付き合えない」


「そんな……そんな……」


 りおんは、目を涙で潤ませた。


「君は、ほみかを傷つけた。僕の大事な妹をね。それだけは許せない」


 言いながら、僕は心が痛んだ。りおんの心境の機微を、もっとつぶさに観察していればよかったのだ。僕はこの十年間、りおんのことをまったく分かっていなかった。僕がもうちょっと気をつけていれば、ほみかだってあんな目には合わなかったかもしれない。そういう意味では、僕だって同罪だ。


 しかし、ほみかを苦しめたことだけは、許すつもりはなかった。


「そっかあ……。じゃあ、しょうがないね」


 りおんは、手に持っていたタオルの包みを取り上げた。

 中から出てきたのは、包丁だった。

 そして包丁を手に、真っ直ぐ僕に向かって突進してくる。


「透ちゃん、死んで!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ