21「こおおおんの、バカ兄貴ぃいいいいいいいいいい!!」
「……ちゃ~ん」
何者かが、僕の肩を揺さぶる。
まるでゆりかごに揺らされてるみたいだ。
「……とおるちゃ~ん」
声はだんだん大きくなっていった。
揺り動かす力もそれに従い大きくなるが、そのスローな動きはまるで赤子をあやす母親のようだった。ぽわぽわした声は起こすどころか、より深い眠りに引きずり込む子守唄になっている。
「……もう! 透ちゃんったらお寝坊さんなんだから……よし、こうなったらあれしかないよね♪ うふふ♪」
声の主は何か企んでるような笑い声を発した。
嫌な予感がする。
そう思い、僕がハッと目を開けると……。
「あぁん♡♡♡♡ 透ちゃん……。そこ、しゅごいのぉおおお」
……僕は、りおんの胸をわしづかみしていた。
いや、わしづかみというのは正しくない。正確には、りおんが僕の腕をつかんで、自らの胸を揉ませていたのだった。その大きな乳房は、僕の手のひらをすっぽり包み込んでしまうほど豊かな形状をしていた。指が沈み込むその柔らかさは、まるでマシュマロのようだった。
――ていうか、なんでりおんがここに……?
「透ちゃん。朝からダメだよぉ。あんまり激しいとわたし、壊れちゃうよぉ」
(いい! おっぱい揉まれるの、あ、んんんん。き、気持ちいい♡♡♡♡ いいっ、いいよぉ! 透ちゃんの手♡♡ もっと、もっとおっぱい揉んで!)
なにやら淫らな心の声が聞こえる。
僕は、ガバッと布団を押しのけ飛び起きた。
「な……なにやってんの!? りおん!」
「すごいよお、透ちゃん。テクニシャンだよお」
「い、いや、別にテクニシャンじゃないし」
「こんなにされたらわたし、おかしくなっちゃうよ♡♡」
「……だったら腕を離してよ」
そう言って僕がりおんの胸から手を離そうとすると、
「ダメっ!!」
りおんは信じられないような腕力で、僕の手のひらを、自らの乳房に強く押し付けさせた。
弁解させてもらうなら、決してわざとではない。むしろ不可抗力だ。僕が望んでそうしたわけではないが、僕の親指と人差し指は、りおんの乳首をつまみ、引っ張りあげていたのだった。
すると……。
「ふひゅうううううぅぅぅっ♡♡♡♡♡♡♡♡」
りおんが、凄い声をあげた。
バタン! とドアを勢いよく開ける音がする。
「ちょっと、バカ兄貴! なによ、今のこ……え……」
僕は、まだ夢の続きを見てるなら、一刻も早く現実に戻りたいと願った。ほみかの目の前で僕は、りおんの胸を揉みしだき、そのりおんは愉悦の表情で、体をくねらせ喘いでいたのだから。もう、どう考えてもアレにしか見えなかったはずだ。当然のことながらほみかは、顔中を真っ赤にしながらこめかみに青筋を立てている。
「なに、してんのよ……クソ兄貴」
「い、いや……これは……」
僕が答えに窮していると、りおんが止めを刺しにきた。
「聞いてよー、ほみかちゃん! 透ちゃんったらね、ひどいんだよ! 起こしにきたわたしにいきなり襲いかかってきたの! 押し倒して、おっぱいをわしづかみにして『ぐへへ、いいじゃねえか、ぐへへ』って」
ほみかはその言葉を聞いて、下を向きながらフルフルと体を震わせた。
「違うぞ、ほみか。僕は断じて、そんなことしてないからな」
僕は必死に申し開きをした。ほみかは顔を上げると……。
――こおおおんの、バカ兄貴ぃいいいいいいいいいい!!
ほみかは僕の釈明も聞かず、僕の顔面に思い切り振りかぶったパンチをめり込ませたのだった。