22「お断わりいたしますわ」
ほみかとあすかの三本勝負。
一戦目の料理対決はほみかが勝ち、二戦目の掃除対決はあすかが勝ち、そして三戦目――ゲーム対決も、あすかが勝った。
そしてこの勝負で負け越した方が家を出て行く――そういうルールだった。
「ほみかお姉さま。約束は覚えておいでですわよね?」
「……覚えてるわ」
「勝負を申し込んだのもお姉さまですし、家を出ることを敗者の条件としたのもお姉さまです。これが何を意味するか。それも、分かっておいでですか?」
「わ、分かってるわよ」
あすかの確認に、ほみかは憔悴しきった顔で答えた。
いつもの元気いっぱいな表情は、見る影もない。
そんな彼女がいたたまれず――僕は口を挟んだ。
「あすか! ちょっといいかな?」
「あら。なんでございましょうか。お兄様?」
穏やかな物腰を崩さず(目はまったく笑っていなかったが)あすかが。僕に目を向けてきた。
「君たちがしてたことが真剣勝負だってことは分かる。ほみかが調子に乗ってあすかのことを挑発しってたことも――それは僕が謝るしほみかには反省させるから、今度だけは見逃してあげてくれないかな!?」
……もちろん、これは屁理屈だ。
我ながら思うが、交換条件にすらなっていない。
それでも、僕が心を込めて頼めば、きっとあすかなら思い直してくれるだろうと一縷の望みに賭けたのだが。
「お断わりいたしますわ」
「え」
そんな僕の希望的観測を打ち砕くように、冷笑しながらあすかは、
「負けた方が家を出て行く。そういう約束ですわ」
「……うん」
「それなのにほみかお姉さまが負けた途端に、約定の撤廃を申し出るということは、ほみかお姉さまとお兄様が手を組んで、わたくしをこの家から追い出そうという企みだったのでしょうか?」
「いやいや! そういうわけじゃないよ!」
「ならば最初に約束したとおり、ほみかお姉さまがここから退去するのが筋というものではないでしょうか?」
「……うん、まあ。君の言うことも充分分かるけど」
僕は眉根を寄せた。
あすかの言うことにも一理ある。というか、全面的にあすかの言ってることが正しいよ。
いや、別にほみかに肩入れするとかそんなんじゃないんだけど。どっちが負けても僕はその人を庇ってたと思うし。今にも泣きそうなほみかを前にして、ほっとく方が無理ってもので。
「……ほみかお姉さま。何か言うことはありますか?」
そんな僕の葛藤を無視して。
あすかは、ほみかに向き直って言った。
「ほみかお姉さま。お姉さまはわたくしをこの家から退去するようにと、何度も食って掛かりましたわね。そして、勝負を申し込んだ。そして、敗れた。それがこの期に及んで条件の撤廃を申し出るなどということは、まさかございませんわよね?」
「……だ」
ほみかは俯きがちに、小声で何かぼそりと呟いた。
「なんでしょうか?」
対照的にあすかは。涼やかで凛とした声で尋ね返すのであった。
「あた……しは」
「よく聞こえませんわね。いつもの威勢はどうしたんですの? 言いたいことがあるのなら、ハッキリと申したらどうですか?」
あすかがキツい口調でそう言うと。
ほみかはキッと顔を上げて。
衝撃的なことを叫んだ。
「あたし――やっぱり出て行かない!!」




