19「やっと来たわね。あすか」
「やっと来たわね。あすか」
あすかがリビングに入ってきたのを見て、漫画を読んでいたほみかは顔を上げる。
およそ一時間近く使って、あすかには基本的な攻撃と防御、コンボプレイ、気力の貯め方、アルティメットチャージ、そしてズラしまで教えた。僕もファイファイはそんなに強いわけじゃないけど、あすかの上達速度には驚かされた。何回か僕に勝つレベルにはなっているので、ほみかと言えども楽勝ムードとは言いづらい。
「逃げ出さずに来たことだけは、褒めてあげるわよ」
「ありがとうございます」
「……でも、一つだけ言っておくけど」
ほみかは指を一本立てて念を押した。
「勝負は一回戦のみ。勝っても負けてもやり直しはなし。制限時間になったら、決着がつくまでやり直しね。だから、あたしに勝てないからって引き分けを狙おうとしてもムダよ。今度こそアンタとは白黒つけてやるんだから」
「かしこまりました。他に何か仰りたいことは?」
「……ずいぶん余裕じゃない。それともただのハッタリ? 今から家を出ていくんだから、バカ兄貴に最後のお別れでも済ませておいた方がいいんじゃない?」
「うふふ。何をおっしゃるかと思えば」
あすかは優雅に微笑み、
「それは、わたくしの台詞ですわ。これまで二つの勝負をしてきて分かりました。あなたはお料理もお掃除もお洗濯も出来ませんし、口にすることと言えば、お兄様への悪態ばかりですわ。しかし、あなたがお兄様の妹を名乗れるのも、今日までです。今のうちに荷物をまとめておいた方が得策だと思いますわ」
と、穏やかな表情とは似ても似つかない挑発を繰り出す。
僕は言葉に詰まっていた。両者引き分けに持ち込むべくファイファイをやらせることに賛成したけど、まさかここまで死に物狂いだとは……これでは、本当にどちらかが家を出ていくことになるぞ。
キャラクター選択画面で、二人はそれぞれが操作するキャラクターを選ぶ。あすかはもちろん〝葵〟ほみかは〝レイン〟ブロンドヘアーの美人ファイターだ。ややパワー寄りではあるが、比較的バランスが取れている。
「いいじゃんいいじゃん。それぐらい生意気なこと言ってくんないと、こっちも張り合いがないわ」
「うふふ、ありがとうございます。ほみかお姉さまの傍若無人な話し方が、少し移ったのかもしれませんわね」
「さっ、そんなことよりそろそろ始めましょうか。アンタも親に迎えに来てもらわないといけないんだから、なるべく早く負かされた方がいいでしょ?」
ほみかは、自信まんまんに勝利宣言をした。そうこうしてる内にロードは終わり、戦闘画面が映し出された。
――Are You Ready?
ほみかは深く深呼吸をした。体をほぐし、なるべくリラックスするようにしているようだ。対するあすかは、やや前傾姿勢でコントローラーを握りしめ、画面をまっすぐ見つめている。二人の気迫が、こっちにまでピリピリと伝わってきた。
――Fight!!
戦闘開始の合図と共に、二人の最終決戦がスタートした。




