14「うん。僕もファイファイは大好きだな」
ファイナル・ドラゴンファイト。
それはハイクオリティな3Dとなめらかな動きの高速バトルを売りにした、本格対戦格闘ゲームである。
実を言うと、僕も結構ハマッている。というか、ほみかが発売日にすぐ買ってきて、それに付き合わされる内に段々好きになってきたという方が正しいかな。僕はにわかだけど、ほみかは本格的な実力者だ。オンライン対戦では全国上位に名を連ねる実力者なんだけど――
「お断りいたしますわ」
僕がファイファイに思いを馳せていると、あすかがほみかの提案をバッサリ切り捨てた。
もちろんそう言われて黙っているわけもなく、ほみかが熱く反論する。
「な、なんでよ! なんでダメなのよ! あ、分かった! アンタお嬢様育ちだから、テレビゲームなんてやったことないんでしょ! だからやりたくないんでしょ!?」
「……確かに、わたくしは生まれてこのかた『てれびげいむ』などしたことがありませんが、そのこととは関係ありません」
「ふん、見栄はっちゃって。でも、やってもらうわよ。そんなに難しい操作でもないんだから。それに、練習時間ならたっぷりあげるし」
「ですから、そういう問題ではありませんわ。この勝負は、お兄様から寵愛を賜れる神聖な勝負なのです。テレビゲームというのは、ようするに子供のお遊びでしょう? そんな低俗で下らないお遊びで最後の勝負を決めるだなどと、到底納得できないだけですわ」
「ふ~ん♪」
何故か鼻歌を歌いながら頷くほみか。
まあでも、これはあすかの言うことにも一理あるかな。器用なあすかのことだから、ちょっと練習させればすぐゲームくらい出来るようになるんだろうけど……あすかは生粋のお嬢様だし、そもそもゲームに興じるような雰囲気すらない。
かといって他の勝負にしようものなら、またどっちが有利だの不利だのって問題になるのは分かりきってるし。ここはあすかにファイファイをやらせて、上手いこと引き分けに持ち込ませたいところだけど、
「そんなこと言っていいの? あすか」
僕がそんなことを考えていると、ほみかがあすかに向かって一笑した。
「もちろんゲームは遊ぶことが第一の目的だけど、ゲームの種類によっては脳トレになったり、教育にもなることは知られているわね。ヴァーチャルリアリティの進化はもちろんのこと、とある国では軍事利用にも使われているわ。よって、ゲームをただの玩具と断定するのは古い考え方なのよ!」
「百歩譲ってそうだったとしても」
あすかはほみかの熱演を「はいはい」を受け流しながら、
「様々なメリットがあろうとも、本質は子供のお遊びに違いありませんわ。お兄様の妹の座を賭けて戦うには、あまりにも陳腐すぎます。ほみかお姉さまは少しは骨のある方だと思っていましたのに、どうやらわたくしの見込み違いだったようですわね」
「ちょっとちょっと! さっきから黙って聞いていれば何よ! 種目についてはあたしに一任するって話だったじゃない! それに中学生どころか、小学生にだって出来るゲームよ? アンタの要望は全て満たしてるじゃん! この期に及んで単純な好き嫌いなんて持ち出さないでよね!」
「聞く耳持たずですわ」
「どうしても?」
「はい」
「何があっても?」
「もちろんですわ」
「そう☆」
ほみかはニヤリと笑うと、突然僕に視線を向けてきて、
「このゲーム、バカ兄貴も超ハマッてるんだけどね~。ね? そうでしょ?」
「!?」
「え? ええと――」
あすかが息を呑みながら僕を食い入るように見つめてくるけど。
まあぶっちゃけ、ファイファイのことは嫌いではない。いやむしろ、好きな部類に入る。だからほみかの言うことは間違いではないんだけど――
「どう? どうなのよ? バカ兄貴! ハッキリしなさいよ!」
(お願いお兄ちゃん! ここは、ほみかの味方してぇっ!)
表面上は荒々しく、内心は乞うように僕の答えを催促するほみか。
なるほど。どうやらほみかは、本気でこの勝負を取りにいくつもりのようだ。ここで僕が違うと言えば、ほみかは僕に裏切られたと感じるだろう。そして、それはあすかも同じことだろう。
そう。でも。だけど。
「うん。僕もファイファイは大好きだな」
考えに考えて出した僕の結論は、こうだった。
いや、でも妥当なところだと思う。伝統芸能系なら、あすかに分があるし、エンターテインメントならほみかに分がある。この状況下で、あえてほみかの意見に反対する理由もない。
「というより、ファイファイが無いと生きていけないかな。だってそうだろ? 何がいいかって、まずキャラがいいよね。屈強な男キャラもいれば、絶世の美少女キャラもいるし、老人キャラやアンドロイドキャラもいる。個性豊かなキャラが画面狭しと暴れ回る様子は、見ていて飽きないね。ゲーム自体も面白いよ。操作は簡単に見えて奥が深いし、シナリオモードはもう感動の嵐だったね。もうゲームといったらファイファイのことしか考えられないよ。それぐらい素晴らしいゲームだよ、ファイファイは」
ちょっと過剰すぎるかな? とも思ったけど。
中途半端に持ち上げるよりは、いっそ白々しいまでにヨイショした方がいいかな? と考えた次第。でも、その考えが甘かったんだな。
まさかあすかが、この直後にあんな行動を取るなんて。
この時の僕には本当に思いもしなかったのだ。