13「…………分かってるわよ♪」
ほみかとあすかの三本勝負も、いよいよ大詰め。の前に、軽く概略の説明でも。
まず、二本先取した方が勝ち。これは当たり前なんだけど、問題なのは、負けた方が家を出て行くっていうルールのほうで。
当然僕にしたって、ほみかもあすかも家から追い出すつもりはないし、それどころか二人には仲良くなってほらいたい。だからこそ、一勝一敗の状態を維持した引き分けのままが望ましい。
それには、勝負方法が大事なんだよね。ほみかとあすか。この二人を引き分けに持ち込める対等な勝負とは――
「お兄様」
なんてことを考えていると、あすかが話しかけてきた。どうやら無言を貫く僕に痺れを切らしたらしい。
「いかがです、そろそろ最後の勝負方法を決めませんか?」
「あ、うん。そうだね。ちなみに、あすかはどんな勝負がいいの?」
「そうですわね……」
あすかはすぐには答えず、顎の下に手を置き沈思黙考した。
まあ冷静を装ってはいるけど、現状最も焦っているのはあすかだろう。涼しい顔で、ほみかを潰すとまで言い切ってるわけだし。次の勝負で、何が何でも勝利をもぎ取ろうとするはずだ。
「わたくしとしては、当初の主張は一貫して変わりませんわ。家事全般や、日本の伝統芸能など……」
「まあ、そうだろうね」
「ただそれでは、ほみかお姉さまが納得しないことも分かっておりますわ」
あすかは、口を出しそうになるほみかに目で牽制しながら、
「なにせほみかお姉さまは、お料理もできない、お掃除もできない、お洗濯もできないと、大和撫子としては信じられないほどの体たらくですわ。どんな勝負内容を持ちかけても、嫌がられるのは明らかです」
「う、うん……」
なんだろう。「ほみかを馬鹿にするな!」と怒ってやりたいところだけど、ぐうの音も出ないから反論できない。
「ただ一つ言えることは、どんな勝負内容であれ、公明正大な審判を期待するということですわ。わたくし達は、互いに信念や誇りを賭けて戦っているのです。全てはお兄様のために。ならばお兄様は、お茶を濁すことなく、どちらかを勝者として選ばなければなりません。それがどんな悲劇を招くとしても。お分かりいただけますか?」
「うん……分かってるよ」
「それは重畳ですわ。そして、それを踏まえまして」
「うん?」
「わたくしの方から、一つ提案があるのですが――」
「ちょっと! 待ちなさいよアンタ達!!」
僕とあすかが最後の勝負方法について話し合っていると。
ほみかが憤慨したような顔で割って入ってきた。
「何よ! さっきから聞いていれば! 二人ともあたしを無視して勝手なことばっか言って! 最後の勝負は、あたしが決めるのが筋ってもんでしょ!」
がるるる、と僕とあすかの顔を交互に見比べながら、鼻息荒くほみかは、
「バカ兄貴! アンタはそもそも、腕相撲だって何か理由つけて勝手に取りやめにしたじゃない? 料理勝負といい、本来中立的立場であるアンタが、勝負方法にまで介入するのは不平等ってものよ!」
「……まあ、言われてみれば」
「それと、あすか! アンタはさっき掃除対決っていう希望を聞き入れてもらっているわ。――結局、あたしの意見は一度たりとも反映されていないのよ! つまり、最後の一勝負くらいは、あたしに選ぶ権利があるってわけ! どう? なんか返す言葉ある!?」
「……いえ。確かにそのとおりですわね」
渋々ながらも納得するあすかに対し、ほみかはますます勢いづいた顔をして、
「ね? ね? そうでしょ? これで最後の勝負までアンタが決めたら、不正を疑われるってもんよー?」
「仰るとおりです」
「一回戦目はバカ兄貴が決めて、二回戦目はアンタが決めて、三回戦目はこのあたしが決める。これで公平、中立、平等フェアってもんでしょーが」
「……ほみかお姉さま」
「そりゃそーよね。アンタなんかに任せたら、自分に有利な種目ばっか選ぶもん。アンタ、優等生ヅラしておきながら結構こすいところあるし」
「…………」
あすかは、ジト目でほみかを睨みつつ、
「ほみかお姉さま。分かりましたから、早く決めていただけませんこと? あなたが先ほど仰ったように、日が暮れてしまいますわ」
「じゃあ、認めんのね。あたしがどんな勝負を申し込もうが、アンタ受けんのね?」
「……あくまで常識的なもので、という条件付ですが」
「なによそれ。結局なんかイチャモンつけようってわけ?」
「そういうわけではございません」
「じゃあどういうわけよ」
「それはあなたが先ほど仰ったことですわ。真剣勝負をする以上、自分にとって有利な種目を選ぶのは当然のことです。ましてやお兄様の本妹の座を争うのですから。しかしながら問題なのは、たとえばご自分が今考えたルールの競技で戦うなど、あからさまなイカサマを用いることです。最終的にはお兄様に審議していただくつもりですが、せめて一般的な女子中学生でも出来るような、そんな普通の勝負方法をご提示願えませんか?」
「…………分かってるわよ♪」
あすかがあくまで理知的に説明すると、ほみかはそれを予期していたかのようにニヤリと笑って、
「それじゃあ、発表するわよ? あたしとアンタの最後の対決っ! その内容は、今いっちばん流行ってるTVゲーム――ファイナル・ドラゴンファイト対決よ!!」