17「いや、くっついてるのはほみかの方だからね?」
昨日と同じようにりおんが迎えにきて、僕と、ほみかと、りおんの三人で学校に向かう途中。
「? 大丈夫? 透ちゃん……何かふらふらしてるよ? お腹でも痛いの?」
(それに、顔色も悪いみたいだし……ほみかちゃんに何かされたの? まさかと思うけど、二人でえっちぃことしてないよね? だったらわたし、透ちゃんのこと……刺し……)
りおんが、僕の顔を覗き込みながら言った。
「ち、違うよ。何でもないよ。大丈夫だから……」
僕が答えると、隣を歩いていたほみかが、りおんに向き直った。
「そうだよっ、りお姉! 健康だけが取り柄のバカ兄貴が、体調崩すなんてあるわけないって! それに、朝ごはんはあたしが美味しい料理を食べさせてあげてるから、むしろ体調はバッチリのはずだし!」
「えっ、ほみかちゃんが透ちゃんのご飯作ってるの?」
「そうだよっ! 朝の三時に起きて調理してたんだから。もう大変だったよ。でも、バカ兄貴も美味しいって言って食べてくれたから、別にいいんだけどね!」
「そうなんだ。そのわりには、透ちゃん具合悪そうだけど……」
「気のせいじゃない? いつもボーっとした顔してるから、よくわかんないわ」
「そ、そんなことないよ! 透ちゃんはすっごくカッコよくて、ちょっと頼りないところもあるけど、でも優しくて、世界で一番素敵な人だよ♡♡♡♡」
「……りお姉ってさあ、ほんとバカ兄貴のこと好きだよね。昨日の告白といい」
「うふふ。そのうちほみかちゃんも、わたしの妹さんになるかもしれないね。今のうちに『りお義姉ちゃん』って呼んでくれてもいいのよ?」
「ばっ……。何言ってんのよ……。そ、そんなこと……あるわけないじゃん」
歩くだけでやっとの僕の隣で、ほみかとりおんは何やらそんなことを話していた。僕に対して痛いくらい真っ直ぐな好意をぶつけてくるりおんと、その姿にヤキモチを妬くほみか。見ているだけで頭のズキズキが三割増しになりそうだった。
「ふっふ~ん。そんなことあるも~ん♡♡」
りおんはほみかにドヤ顔をしながら、僕の腕に腕を絡めてきた。
突然のことだったので、心を読む暇もなく、僕は不意を突かれてドキリとした。
僕の腕に押しつけられる乳房――それはまるで小ぶりな果実のようだ。僕はあまり詳しくはないけど、おそらくFカップはあるだろう。大きく、ハリがあって、それでいて柔らかい。僕が顔を赤らめていると、りおんはニヤーッとした表情で僕を見上げてきた。
「興奮した? うふふ、透ちゃんの、えっちー♡♡」
(興奮してくれていいんだよお。胸どころかお尻や唇や○○○も。髪の毛から爪の先まで、わたしの体はすべて透ちゃんの物なんだから。体どころか、心だって。ぜんぶ透ちゃんに捧げるよお)
「ち、ちがうっ。興奮なんかしてないよ!」
僕がそう弁解してると、
「……むっ」
もう片方の腕にほみかが抱きついてきた。
ほみかの胸は、りおんの胸よりはだいぶ小さい。カップ数にしてBカップ程度だろう。それでも、スレンダーで丸みを帯びたその体からは、十分に女らしさがある。りおんと違って胸がないためか、文字通りギュウッと乳房が押し付けられる分、形も柔らかさもハッキリと分かってしまう。
「ほ、ほみか……? 何、してるの……?」
僕がそう尋ねると、ほみかはキッと上目遣いで睨む。
「……な、何よ! くっつかないでよね!」
(……だって! こうしないとお兄ちゃんがりお姉にとられちゃうもん!)
「いや、くっついてるのはほみかの方だからね?」
「うるさ~~い! 横広がりで歩いてたら、他に通行してる人の迷惑でしょぉ! だから、くっついてるだけなんだからね! それだけなんだからね!」
(も~! お兄ちゃんったらりお姉にばっかりデレデレしすぎ! ちゃんとほみかのことも見て! お兄ちゃんのためにダイエットだってしてスタイルを維持してるんだから! む、胸だって、あと二年もすればおっきくなるはずだよ……)
僕は、はぁ、とため息をついた。
ただでさえ美少女二人を連れ歩いて目立つのに。
その上両手に花的なことをしてるとは。
通行人の目が、とても痛々しく感じる。僕が目を向けると、見てはいけないものを見てしまったように、次々と人は僕から視線を逸らす。僕は思い切り居心地の悪さを感じながら、二人と一緒に学園へと向かった。




