38「……お兄様。これをどうぞ」
さあ、そういうことで。
火を強くすることに成功し、網の上では金串に刺さった肉や魚や野菜が焼かれ始めている。
「ねえねえ。もう焼けたんじゃない? もういいんじゃない?」
「ほみかお姉さま。断っておきますが最初の一口は、ご招待くださったクリスティーナさんやアリサさんですからね。お姉さまはその後ですわ」
「そ、そうですね。私も雪ノ宮さんの言うとおりだと思います……!」
「……別に、そんなこと気にしなくていいですよ、皆さん。難しいマナーなんて気にしないで、楽しく食べてください」
「うーん、わたしもこういう時は年長者から食べるのが普通だと思うけど」
ほみか、あすか、立花さん、アリサ、りおんと。焼き目がついた色とりどりの食材を見下ろしながら、それぞれの反応をもらす。
「じゃあ、皆さん食べづらそうにしてるので、私達から先に頂きましょうか。アリサ、あなたは何がいい?」
「……はい? あ、あの、何でもいいです……」
「分かったわ。――それじゃあ、焼き鳥を何本か盛っておくわね。冷めない内に食べなさいな」
「……あ、ありがとうございます……」
クリスティーナさんから手羽先、ハラミ、せせり、レバー、砂肝などの乗ったお皿をもらったアリサは、遠慮がちにお礼を言った。
「……じゃあ、頂きます」とアリサがちょこんとお肉を口にするのを見届けてからクリスティーナさんは、「皆さんも、どうぞ食べてくださいね」と僕らを促した。
「「「「「いただきます」」」」」
僕らは思い思いにバーベキューに口をつけた。
「おいしー! マジでこのお肉おいしー!」
「こら、ほみかちゃん! ちゃんとお野菜も摂らなきゃ駄目でしょ!」
「……お好きなものをどうぞ。りおんさんも、遠慮しないで食べてください。食材はまだまだありますから」
「でも、本当に美味しいです。やっぱり、空気が澄んでるから味も際立って美味しく感じるんですね。今日は呼んでもらえて良かったです」
「あらあら、まあまあ」
ほみか、りおん、アリサ、立花さんが話しながら食べている所を、微笑ましく見つめるクリスティーナさん。
僕もそろそろ頂こうかな――なんてことを思っていると、
「……お兄様。これをどうぞ」
右手でせっせと箸を運び、お肉を沢山お皿に乗せたあすかが、
「お兄様もさぞ空腹でいらっしゃることでしょう? 是非食べてくださいまし」
「おっ、悪いねあすか。そうなんだよ、ちょうど今お肉を取ろうと思ってたところなんだよ。さすが気が利くね」
「い、いえ……それほどでは。妹として当然のことですわ」
はううと顔を赤くするあすかからお皿を受け取る時に、ふと僕は気づいた。
「あれ? ところであすかは? お前こそ、何も食べてないじゃないか」
「わたくしは、後でいいのです」
「え? 何で?」
「お兄様より先にお料理に手をつけるなど、妹にあるまじき所業ですわ」
「いや、そんなことないだろ」
「ありますわ。お兄様は全知全能の神にして、崇高なるお方。わたくしは心より、お兄様を尊敬しておりますもの」
「ちょっとあんたら!」
がるるるるうううっ、と僕とあすかの間に割って入るほみか。
「さっきから何イチャついてんのよ! ここはご飯を食べる所であって、乳くり合う場所じゃないでしょ! 特にバカ兄貴! あすかはまだ中学生なんだから、ちゃんと注意してあげなさいよ! それが『てーぶるまなー』ってもんでしょ!」
(何でお兄ちゃん、あすかにはそんなにデレデレするのおおおおおおおお!? じゃあほみかも、裸になって女体盛りで食べさせてあげる!)
「……うん。ほみかの方こそテーブルマナーを気をつけようね?」
「う、うるさいわね! 何よ、そんなにお腹が減ってるんだったら、あたしのを食べればいいでしょ!」
そう言うとほみかは、自分の皿にあった料理を僕の皿に移した。
「ありがとう……でもこれ」
僕はほみかからもらった料理を見下ろした。
にんじん、たまねぎ、ピーマン……どれもほみかの苦手な食べ物だった。
「自分の嫌いな野菜を、都合よく僕に押し付けた……なんてことはないよね?」
「な、な、なによ! そんなわけないでしょお!」
(お兄ちゃん、心読まないでえええええ! ほみか本当はお野菜全般苦手だけど、今度から頑張って食べれるようになるからあああああっ!)
ほみかは情けない内心を隠すかのように大声で、
「ふん! あたしは野菜大好きだけどね! バカ兄貴がお肉ばっかり食べたら栄養が偏ると思って、泣く泣くあたしのを分け与えてんのよ! このあたしの優しさに感謝しなさいよ! バカ兄貴!」
うん。
物は言いようだぞ、ほみかよ。
まあでも、お肉はあすかからたっぷり貰ったしな……ほみかの言うとおり、これでバランスが取れたと考えるべきなのかな?
なんてことを考えながら、僕はほみかとあすかからもらったバーベキューにパクつくのであった。うん、美味い。




