30「……皆さん。よければ、私の家の別荘まで遊びに来ませんか?」
「――さっすがバカ兄貴! あたしは信じてたわよ!」
(ふえええん。ほみか、もうお兄ちゃんに嫌われたかと思っちゃったよお……)
僕がキャンプに行くことを表明すると。
表面上は勝気に、内面は涙声でほみかが言った。
「じゃあじゃあ、りお姉とアリサさんは不参加なのよね? し、しょうがないわねえ。あたしとしては嫌なんだけど、これじゃあ馬鹿兄貴と二人で行くしか――」
「……ほみかちゃん、ちょっと待って!」
ほみかの前に手を突き出し、制止のポーズを取るりおん。
「な、なによ……りお姉」
「やっぱり、わたしも行く!」
りおんは先ほどまでの渋い表情が嘘のように、輝くような眩しい笑顔で、
「夏と言えば自然。自然と言えばキャンプだよ! 豊かな自然に囲まれて、美味しいものを食べて、心も身体もリフレッシュしなきゃ!」
「はあ!? 何言ってんのよ! さっきまであんなに反対してたじゃん! この時期は人混みが多いからストレス溜まるとか何とか!」
「だーかーらー、ほみかちゃんの話を聞いて、考え方が変わったんだよ! みんなで一緒に準備して、一緒に移動して、一緒に食べて、一緒に寝る! そうやって親睦を深めたいって言ったのはほみかちゃんじゃないの!」
「い……言ったけどさ……。大体、りお姉は忙しいんじゃないの!? いいのよ? 無理にこなくて!」
「大丈夫! 今さっき暇になったから!」
「何よそれ! 意味分かんない! りお姉ったら、どうせバカ兄貴が行くって言ったからその気になっただけでしょ! 全く、どこまで現金なのよ!」
「ふっふふ~ん。何とでも言えばいいも~ん。ね? アリサちゃん?」
「……そうですね。りおんさん」
りおんに話を促されたアリサが、首を縦に振り同意した。
「……確かに、平地より山の方が紫外線が多くなるので、私としてはあまり行きたくはありません。しかし、帽子や日傘、日焼け止めクリームなど、準備さえ怠らなければ何の問題もないのも事実です」
「うんうん、そうだよアリサちゃん。あと一回しかこない高校の夏なんだから、思い切り謳歌しないと罰が当たるってものだよ」
「……ええ、りおんさんの言うとおりです」
アリサはりおんに頷き返してから、
「……それに、皆さんが行くのに私だけ行かないというのも、友達付き合いに欠けるというものです。ただ単に遊ぶ目的ではなく、交友を深めたいということなら、もはや断る理由もないと思いますが、どうでしょうか? ほみかさん」
「……う、うん。そりゃあ、まあ。全然いいのよ? あたしは。元々、バカ兄貴みたいなケダモノと一緒にキャンプ行くのは気が進まなかったし。ええ、そうよ。なーんにも問題ないんだから」
(……う、うう。せっかくお兄ちゃんと二人きりでキャンプに行けるって思ったのに、なーんでこうなるのお?)
表向きは明るく、内心では深く落ち込みながらほみかが言う。
でも待てよ? 僕は違和感を感じていた。
りおんとアリサって、こんなに仲よかったっけ?
りおんは『アリサちゃん』って呼んでるし、アリサは『りおんさん』って呼んでるよ。今までは苗字で呼び合っていたのに。あの水泳対決以来、何だか二人の距離が一気に近くなったような気がする。まあ、あれだけ激しくバトルした後だから、友情とか絆とか芽生えてもおかしくはないんだけど。
「でもさー」
りおんの声に、僕はハッと我に返る。
「やっぱりこのメンバーだけで行くのは、無理じゃないかな?」
「え? なんで?」
僕が聞き返すと、
「だって」
りおんは難しい顔で考え込むような仕草をしながら、
「キャンプとなると荷物も多くなるし、出来れば車で移動したいよね。でも、誰も免許持ってないし。それに、わたし達だけで外泊するとなると、親が黙ってないと思う。だから、誰か保護者に同行を頼まないと」
「ああ、そうか。うーん、でもなあ。僕ん家の母さん忙しいからなあ」
「うちのパパとママもそうだよ。いっつも仕事で家を空けてることが多いもん。それに、この間わたしがプールで溺れて保健室に運ばれた時も、わざわざ仕事を切り上げて学校まで迎えにきてもらったから。これ以上迷惑はかけられないよ」
「そっか。そうだよね。だとすると後は「……あの」」
僕とりおんで話し合ってると、おずおずとアリサが割り込んできた。
みんなの視線が、一斉にアリサへと集まる。
「ん? 何? アリサ」
僕が尋ねると、アリサは遠慮がちに提案を持ちかけてきた。
「……皆さん。よければ、私の家の別荘まで遊びに来ませんか?」




