29「ねえ、みんなでキャンプに行かない!?」
「ねえ、みんなでキャンプに行かない!?」
昼休みの屋上にて。
僕、りおん、アリサでお弁当を食べていると、ほみかが突然そう言った。
お弁当を食べる箸を止め、僕は聞き返す。
「何だよ、ほみか。藪から棒に」
「何だじゃないわよ。夏と言ったらキャンプでしょ? 色鮮やかな自然、美味しい空気、豊かな大地! それらを味わってこそ、この蒸し暑い夏を満喫したと言えるのよ。特にバカ兄貴、あんたは日ごろ少したるんでるから、大自然を取り込んでもっとワイルドな人間になるべきなのよ!」
(ここの所お兄ちゃんにあまり構ってもらえてないから、ほみか寂しいの……。山に行ったら、お兄ちゃんも解放的な気持ちになって、ほみかと遊んでくれるかもしれないし、だからお願い! お兄ちゃん、ほみかとキャンプに行って!)
なるほど。僕はほみかの心の声を聞いて納得した。
ただ単に、僕とキャンプに行きたかっただけか。
だけど。
「ううん、透ちゃんは今のままで十分素敵だよ」
「……別にワイルドになるためにキャンプしなくてもいいと思います」
りおん、アリサと。
二人はほみかの提案に反対のようだ。
もちろん、僕も。
「うーん、ほみかの気持ちも分かるんだけど。移動時間が長いし、準備も面倒だし、現地は虫も多いし。そもそも暑いし。僕はあまり行きたくはないかな?」
「な、な、な……」
ここまで賛同を得られないとは思ってなかったらしい。ほみかは顔を真っ赤にし、体をわなわなと震えさせている。
「私も反対だな~。タイミングも少し悪いよね。自然を楽しめるっていう利点には賛成だけど、この時期のキャンプ場って凄く混むんだよ? 遊びに行くのにストレスで逆に楽しめないっていうのは、本末転倒じゃないかな?」
(無価値無価値! 透ちゃんがいないキャンプなんて、ルーの乗ってないカレーみたいなものだよ! まあ透ちゃんがいるなら、周りに誰もいない所で逆レ○プできるから行くけどね~)
眉を潜め、渋い表情をしながらりおんが言う。心の声はかなり不純だが、まあ理解できないこともない。
「……私もりおんさんと同意見です。私はこの通り、アルビノですので。日に長く当たれないという欠点があります。もちろん、日傘を差せば問題はないのですが、出来る限りリスクは回避しておきたいというのが正直な気持ちです」
(……透さんが来てくださるなら、私は例えこの身が灼熱の業火に焼かれようとも行きますけど。透さんがいないならわざわざ身を危険に晒す理由がありませんから)
と言ったのは、日陰でお弁当を食べていたアリサだった。心の声はりおんと同じようなものだが――彼女の場合は本当に日光に当たると大変なことになるので、りおんよりも真に迫っている。
これらの意見を受け、我が妹は、
「――な、何よ何よ! みんなして! 暑いとか虫に刺されるとか人混みがどうとか! そんな軟弱なことばっか言っててどうすんのよ!」
「う、うん……」
「何と言われても。わたしはパスだよ。忙しいし」
「……ごめんなさい。ほみかさん」
僕、りおん、アリサと。それぞれの反応はやはり微妙だ。となれば、小動物のように体をプルプル震わせ、目に涙を溜めるほみかが、何だか可哀想になってくる。
「う、う~っ」
そしてほみかは、言葉にならないうめき声を上げた。
「……いいじゃん、キャンプ。だってここん所、みんな少しピリピリしてたでしょ? りお姉とアリサさんも何か揉めてたし。だから、せっかくみんなで親睦を深めようと思ったのに――」
「……ほみか」
うなだれるほみかを見下ろしながら、僕は呟いた。
ん? ちょっと待てよ。親睦?
それって今、僕が最も必要としてることじゃないか?
大変ネガティブなあすかに、超絶危険人物なことりに、立花綾さん。この水と油のような三人の関係を取り持つことなど、不可能だと思っていたが。
これは、少し希望が見えてきたんじゃないか?
「よし!」
僕は立ち上がると、先ほどとは正反対の明るい声で、みんなに話しかけた。
「いいじゃないか、キャンプ! みんなで行こうよ!」




