11「カラオケ……なんてどうかな?」
「――やあ、ほみか」
放課後、学生達がこぞって帰宅する校門の前で、僕は下校しようとしてるほみかに声をかけた。ちなみに、僕の隣には無表情な顔のアリサさんが立っている。
「……バカ兄貴? ちょ、その人誰!? ま、まさか彼女……?」
(あわわわわ! すっごく綺麗な人だあ……。白い髪! 白い肌! モデルみたいな体系! も、もしかてほみかに内緒でもう付き合ってるとか……? うわああああああん! ほみか、お兄ちゃんに捨てられたああああああああ!)
心の中で洪水のように涙を流すほみか。食い入るように、僕の隣にいるアリサさんのことを見つめている。まあ、分からないでもない。なにせ、髪の色や服の色まで含めて、全身真っ白なのだから。初対面だと、いやがおうにもアリサさんは目立ってしまうのだ。
「……違います。私は神奈月さんのクラスメートで白輝アリサと言います。初めまして」
ペコリと小さく、アリサさんはおざなりな挨拶をした。
「はぁっ。ははっ。はあっはあっ……そうなんですか。まあ、バカ兄貴に彼女が出来ようと出来まいと、あたしにはどっちでもいいんですけどねー!」
(う、ううう……よかったよう。ほみか、こんなワガママだからお兄ちゃんに捨てられたかと思っちゃった。で、でも、うかうかしてられない! こんな綺麗な人がクラスメートだなんて、いつお兄ちゃんがたぶらかされるか分かったものじゃないし! こうなったら、睡眠薬をお兄ちゃんに飲ませて、寝てる間に貞操を奪うしか……)
僕は心の中で犯罪行為を計画する妹を無視して、話を進める。
「実はね、ほみか。アリサさんにお前の話をしたら、是非会ってみたいって言うから。それならついでに、どこかに遊びにいかないかって話になったんだけど」
そう、せっかく七年ぶりにこの町に戻ってきたのだから、お祝いの意味も兼ねて、ささやかな歓迎パーティを開いてやりたい、ということは、すでにアリサさんにも話している。アリサさんも放課後は特に予定がないということなので、こうして校門の前でほみかを待ち伏せしていたというわけだ。
「あ……あたしは別にいいけど……暇だし……。決して、バカ兄貴と遊びたいわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
(ひうううううっ♡ もちろん、いいに決まってるよお♡ 連れてって♡ ホテルでもどこでも、お兄ちゃんの好きなところにほみかを連れてってえええええ♡♡♡)
「うん。じゃあ決まりだね――りおんもどうかな?」
僕は玄関口から出てきたばかりのりおんに向かって話しかけた。りおんはハッと僕達に気づくと、トコトコと駆け寄ってきた。
ほみかとアリサさんの姿を見て、一瞬忌まわしそうな顔をしたが。
「透ちゃん! ――ほみかちゃんに、白輝さんも。こんなところで集まって、皆さん何をしてるんですか?」
(ああ……有象無象の雌豚たちが。薄汚い身体で透ちゃんに近づかないで! 透ちゃんはわたしだけのものなんだから)
一瞬誘ったことを後悔してしまうような辛らつな口調で、幼なじみは妹とクラスメートに心の中で暴言を吐いている。でもりおんだって、僕やほみかと幼なじみなんだ。たとえ心の中でどう思っていたとしても、誘わないわけにはいかなかった。
「……と、いうことで。これからどこかに遊びに行こうかと思ってるんだけど。りおんもどうかな?」
僕は、ほみかの歓迎会をやろうとしてることをりおんに伝えた。
りおんはこの提案を、快く受け入れてくれた。
「なるほどだね! わたしはいいよー。ほみかちゃんとも久しぶりに遊べるし、とっても嬉しいな♪」
(邪魔……邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔! いらない! 用なし! 不必要! 透ちゃんさえいれば他に誰もいらないのに……ほみかちゃんも白輝さんも本当に邪魔! いなくなっちゃえばいいのに! 消えちゃえばいいのに! みんな、死んじゃえばいいのに!)
うん、あれだね。どんどん罵倒が激しくなってるね。僕がそんなことを考えていると、アリサさんが口を開いた。
「……それで、どこに行くんですか? まだ聞いてなかったですけど……」
(あ、あの……私、出来れば人の多いところはあんまり……。あと、あまり日光には当たれないので……。できれば、屋内の方がいいんですけど……)
そうだった。アリサさんはアルビノであるがゆえに、紫外線を長時間浴びていると、肌が焼けたり気分が悪くなったりするらしい。
「ああ、ごめん。そういえば、まだ言ってなかったね。まあ、僕はどこでもいいから、他に行きたい場所があるって意見が出たらそこに変更するけど……」
僕は、三人に向けて言った。
「カラオケ……なんてどうかな?」