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僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ2~第2の妹登場!? クラスメートのお嬢様もヤバい!~
102/217

49「……もう、止めてください……」

「ぐはっ!」


 短い叫び声をあげて。青木ヶ原は地面に倒れた。僕の拳は相当深く入ったらしい。奴は顔を抑えたまま地面を転がり続ける。その手の隙間からはボトボトと血が流れ落ちている。どうやら、歯も何本か折れているようだ。


「ぐうっ……」


 青木ヶ原は立ち上がった。大量の鼻血を流して。目を涙で歪ませて。ハッキリ言って無様な顔だった。せっかくの二枚目が台無しだ。


「ぎぎぎ……」


 奴は歯ぎしりをした。どうやら、相当頭に血がのぼってるらしい。しかし、これは僕にとって好都合だ。もはや、冷静に技を繰り出す余裕も失ってるだろう。


「くそがああああああぁぁぁぁぁ!!」


 僕の思ったとおり、青木ヶ原は先ほどの華麗なフットワークを忘れたかのように猪突猛進してきた。早いことは早いが、ただ真っ直ぐに突進してるだけだ。青木ヶ原は僕に向かって右拳を振り上げてきた。


 僕は迎え撃とうと構えをとった。

 その時。


「――くらえ!」


「なっ!?」


 青木ヶ原は右拳を振り下ろさなかった。

 代わりに拳を広げて、手のひらから砂をかけてきた。

 いわゆる目潰しというやつだ。僕は一時的にだが視界を奪われ、その隙に青木ヶ原は、僕の胴元にタックルを仕掛けてきた。


「ぐうっ!」


 砂をかけて馬乗りになって。まさに子供の喧嘩だった。

 青木ヶ原は何度も、僕の顔を上から殴りつけた。くちびるが切れ、鼻血が出る。

 それでも青木ヶ原は殴り続けた。奴の拳が、僕の血で真っ赤になるまで。


「ひゃははははは! ボケが! カスが! どうだ! これがスーパー金持ちの高等テクニックってやつだ! 思い知ったか! 貧乏人風情がよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 青木ヶ原は奇声まじりに叫んだ。


「バカな奴だてめーはよ! たかが女一人のために体張りやがって! 俺にとっちゃアリサなんざ、山ほどいる妾の一人に過ぎねーってのによお!」


 罵倒を浴びせながら、僕の顔を殴る、叩く、引っかく。

 人というのはこういうものなんだろうか。薄れゆく意識の中で僕は思った。正々堂々戦うと明言した本人が、あっさりルールを破ってしまったのだ。高すぎるプライドは、薄っぺらい倫理観を簡単に破壊してしまうものらしい。半狂乱になりながら拳を下ろす青木ヶ原を見上げ、僕はぼんやりとそう思った。


「……っ!」


 不意に、青木ヶ原が拳を止めた。

 決して罪悪感を感じたわけではないだろう。

 その証拠に、青木ヶ原は後ろを振り返りながら、


「なぜ止める? アリサ」


「……もう、止めてください……」


 アリサさんは、震える手で必死に青木ヶ原の腕をつかみながら、


「……もう、神奈月さんを殴らないでください。これ以上やったら、死んじゃいます……」


「だから何だ? 男同士の問題に口を挟むなと言ったはずだが」


「……お願いします、お願いします……」


「ふん。まあ、いいか。今日の所はこれくらいにしといてやる」


 青木ヶ原は、すっくと立ち上がった。どうやら、興がそがれたらしい。


「しかし、これでよく分かったろう? 俺に逆らうと一体どうなるのか。お前どころか、白輝財閥そのものを壊したっていいんだぜ。それだけじゃない。お前に関わる全てのものを、だ。分かったら、大人しく俺の物になれ」


「…………はい」


 そんなような会話をしていた気がする。

 気がするというのは、何発も殴られすぎて僕の意識が朦朧としていたからだ。体調が万全なら青木ヶ原を殴ってやったが、残念ながら今の僕には何もすることが出来なかった。


「それじゃあ、僕はこれで失礼させてもらうよ」


 青木ヶ原は、蔑むような傲慢な視線を僕にぶつけて言った。


「お前もよくわかったな? 今度俺に楯突いたら、お前の家ごとメチャクチャにしてやる。これに懲りたら、金持ちの世界のことに首を突っ込まないことだな」


「……くそ」


 僕は、それだけ言うので精一杯だった。

 青木ヶ原はそんな僕を見下しながら、僕とアリサさんを残して、一人高笑いを浮かべ去っていった。その後姿を見て、僕は自分の無力さを痛感することしかできなかった。

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