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僕だけに聞こえる彼女達の本音がデレデレすぎてヤバい!  作者: 寝坊助
デレ1~妹と幼馴染のバトルがヤバい!~
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10「好きなおかずを選んでください」

「――やっとお昼になったね、アリサさん」


 昼休みを告げるチャイムが鳴り、僕は両肩を上に伸ばしながら言った。

 ちなみに彼女は、もうすでに自分の机の上で小さな弁当箱を広げていた。


「……そんなの、神奈月さんに言われなくても分かってます」


(……いつも一人ぼっちだから、お昼の時間は私にとって辛いんです)


 と、寂しいことを言う心の声。

 僕は、なるべく刺激しないように優しく話しかける。


「なんなら、ご飯一緒に食べる?」


 ……普通の女の子なら、ここで「えっ、あたしとでいいの? もちろんあたしはOKだピョン☆」とか、「ごめん、今日はあたし友達と食べる約束してるんだ……また今度誘ってね?」と、可愛らしい反応が返ってくるはずなのだが。


「結構です。一人で食べます」 


(……できれば、神奈月さんと一緒にご飯食べたいです)


 弁当箱のフタを開けながら、横目で僕を見ながら彼女は言った。このように、アリサさんは直接僕に何かを要求してくることはない。けれど、心の中ではとても寂しい思いをしているのだ。なぜなら、僕と仲良くなるまでは、彼女は一人ぼっちでお昼ごはんを食べていたのだから。


「まったくもう……。よしっ、えい」


「? 何をしてるんですか?」


(神奈月さん? ……一体……?)


 僕は特に何もしていない。

 ただ、自分の机を持ち上げて、彼女の机とくっつけただけだ。そして、鞄の中から自分の弁当箱を取り出して置いた。僕は何食わぬ顔で、卵焼きを口に入れた。

 

「……同情してるつもりですか?」


 アリサさんは冷々たる視線を浴びせてくる。しかし僕は、それが外面だけのことだと分かっていた。


(……あ、ありがとうございます。本当は、一人でご飯食べるの寂しかったんです)


「別に? 僕はこうしたいからこうしてるだけだよ?」


 僕は上辺だけの非難の声を無視して、鳥のから揚げを食べた。うん、旨い。醤油ベースだから鶏肉の風味がよく活きている。


「それよりさ、その弁当少なすぎじゃない? そんな量で足りるの?」


 僕はアリサさんの弁当箱を見ながら言った。小松菜とコーンのサラダ、二十グラムほどの白米、ミートボール、あとはデザートにカットされた林檎がちょこんと乗ってるくらいだ。そりゃあ、彼女は活動的というわけでもないろうが、基礎代謝量を考慮したら午後の授業を乗り切れるとは到底思えなかった。


「……十分足りてます」


(ほ、本当はちょっと物足りないんです……。で、でも、そんなこと恥ずかしくてとても言えません……)


「……おかず、一品あげようか?」

 

 僕がそう言うと、彼女はキッと睨んできた。


「……いらないと言ったはずです」


(……ほ、本当ですか? ああ、神奈月さんのお弁当、とっても美味しそう……。でも、そんなこと言ったら意地汚い女の子に見られるかも……)


 なるほど。女の子っていうのも色々と大変なんだな。足りないなら足りないって素直に言えばいいのに。僕は心の中で苦笑しながら、窓際を指差してこう言った。


「あ! なんだろう、あれ?」


「? なんですか……?」


 引っかかったアリサさんが窓の外を食い入るように見渡す。その隙に、僕は自分の弁当箱の上から、から揚げを一つ箸でつまむと、彼女の弁当箱の上に素早く移した。


「別になにも……あっ」


 すぐに気づいたようだ。自分の弁当箱の上に置かれたから揚げを見て、アリサさんは小さく声を上げた。


「……同情はいらないと言ったはずですが」


(うっ……凄く嬉しいです。私のためにわざわざこんな……。神奈月さん、ありがとうございます)


「あ、あはは。とりあえず食べてみてよ。味は保証するから? ね?」


 僕がそう言うと、彼女は不承不承、といった感じでから揚げを口に入れた。


「……ぁ」


(……ふぁああ!)


「小さい声が漏れたよー、アリサさん」


 もっとも、心の声はもっと大きかったんだけどね。


「……うるさいです。不味いわけではありませんが、そこまで美味しいわけでもありませんよ」


(神奈月さんのお弁当……とっても美味しいです)


「そっか。もう少し頑張らないとだね。一応うちって母子家庭だからさ。母さんの仕込みを手伝うくらいのことはしてるんだよ」


 僕がそう言うと、アリサさんはなぜか顔を赤くしてうつむいた。

 何を考えているのだろうと、心の声を読み取ってみる。


(お料理が作れる男の人って素敵です……。わ、私家事とかまったく出来ませんから……。も、もしよかったら一緒の家で暮らして、手取り足取りご指導を……って。私ったら何を考えてるのでしょう?)


 なるほど、そんなことを考えてたわけか。まあ、人に教えるほど僕も家事が出来るわけではないが。盛り上がってるところに水を差すのも悪いので黙っていた。


 すると……。


「……神奈月さん」


「え?」

 

 見ると、アリサさんがお弁当箱を僕に向かって差し出していた。可愛いプリントも装飾も無い、無機質な印象を受ける弁当箱を。


 そして、こう言った。


「神奈月さんにも、あげます。好きなおかずを選んでください」

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