表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

寒鰤をめぐるアレやコレ

作者: 網野 のこ

寒鰤をめぐるアレやコレは史実ですが、途中経過はすべて作者の妄想です。

彼の藩主は多分、こんな言葉遣いはしない。

 隣の藩の紀通ゆう男知っとるか?

 3年ほど前にやってきた新しい藩主なんやがな。

 ここだけの話、あいつはアホや。

 前は摂津の方におったらしいが、今、そこは幕府領になっとる。

 まあ、大坂の陣で2遍も負けたら、しゃあないわな。

 で、領地にあぶれたあのアホな男が前の藩主に代わり、入ってきたちゅうわけや。

 でな、そのアホな男が、この前書状送ってきたんや。

 なんやったと思う?

 寒鰤が食いたいで100匹送ってくれ、やって。

 アホやろ? 100匹も何するっちゅうねん。

 それでも欲しいゆうさかい送ってやったら、どうした思う?

 頭が落とされとるゆうてブチ切れたんやて。

 打ち首思い浮かべたらしいな。

 ほんま、アホやで。

 よう考えてみい。100匹やで、100匹。いっぺんにそんなようけ食えるか?

 全部食うまでに傷んでしまうで。

 せやさかい、腹開いて、頭落として、塩もようけすり込んで傷まんようにしとくんやで。

 小浜だって富山だって、この辺じゃあ、皆、そうやっとる。

 え? あれはこの辺のもんちゃあうて?

 そういやあ、伊勢の方の生まれだゆうて聞いたかな。

 とっとと藩主やめて、伊勢に帰ったらええんじゃ。

 跡取りがまだ小さいで、そうもいかんか?

 まあ、とにかく、わしのとこの領民は仕事をキッチリやるでな。ええ塩鰤だった思うで。

 それをあのアホは、縁起悪う思うたか知らんけど、庭にぶちまけて踏みにじったゆうやないか。

 もったいないことしよる。

 ほんまは江戸の方の賄賂にでもしようと考えとったにきまっとるわ。

 こないだ税も上げたし、ようけの百姓死なせとったでなあ。

 え? 知らんのか?

 あのアホ藩の何とかゆう村の庄屋がな、作物が穫れんで年貢の減免をゆうて来たらしいんや。

 猪がよう出て、田畑を荒らしまくったゆうてな。

 ほんまかどうか、知らんで。

 増税で払えんだけだったかも知れんしな。

 そんなもん、突っぱねて取り立てたらええだけやのに、あのアホは、猪が出たなら猪狩りするで申し出よ、ってゆうたらしいわ。

 お前、暴れたいだけちゃうんか。なあ?

 で、ある時、猪が出たゆうて、猪狩りをやったらしいわ。

 ところが、いざ狩るとなったら猪の1頭も姿を見せん。

 そら、そうやろ。

 猪かて、人が大勢集まっとるとこに顔出すかいな。

 それを、あのアホは、さては、庄屋のやつが年貢をちょろまかそう思うて嘘ついたんちゃうか、ゆうてな。

 一家もろとも死刑や。

 ついでに村人も何十人も殺したらしい。まあ、猪獲れんかった八つ当たりに決まっとろうがな。

 無茶しよるやろ?

 何人死んだか知らんで。

 知らんけどやな、なんぼ将軍の乳母の親戚筋やゆうたかて、限度がある。

 今に江戸の方から何かゆうてくるやないかって、わしは思うとる。

 わしも、ようけ書いて送っちゃったでな。

 そん時に便宜図ってもらうための鰤やったちゃうかな。

 そうせな、100匹の鰤なんて食えんで。

 応。出世魚やし、めでたい思ったんちゃうか。

 けど、まあ、それも頭が付いとったらの話や。

 せやろ? 

 頭が付いとるか付いとらんかなんて、気にせんもんは気にせえへんけど、あれは気にする質やで。

 気にする奴は他人様には贈られへん。ザマアやな。

 え? それ、狙っとったちゃうかて?

 そんなわけあらへん。ゆうたやろ。ここら辺ではそうするもんやって。

 それ知らんアホが悪いんじゃ。

 それより、ブチ切れたあれが何したか教えちゃろか。

 わしの藩の領民があれの藩通ったら、皆殺しにするねん。

 いや、まじで。

 あのアホが自分で鉄砲もって狙っとるゆうて聞いとる。

 わしのとこから京へ行こう思うたら、どうしたってあの藩通らなあかんだろ?

 もう、武士だろうが商人だろうがお構いなしに首はねて、その死体をうちの領地に投げ込むんやで。

 正気と思えんやろ?

 頭おかしいとしか言えへんで。

 まあ、こっちは、別に痛くも痒くもないけどな。

 ほんでも、そんなアホが隣におるのはきしょいで、幕府にあることないこと書いて送っといたったわ。

 そしたら、あのアホ、うちの藩の飛脚とほかの藩の飛脚と間違えて撃ってしもうたらしてなあ、オモロかったで。

 この辺のほかの藩もそれで、あれはアブナイゆうて警戒して、戦準備もしとる。

 準備だけだで。

 今の世の中、勝手に戦起こしたら幕府から消されるでな。

 ‥‥。

 なあ、もっかい戦国の世になったらええ思わんか?

 そしたら、真っ先にあいつぶち殺しちゃるのに。

やってしまった。

だが、後悔はない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ