お風呂でビフォーアフター
目を瞑っているとお湯が頭から掛けられ、柔らかなハーブの香りがする石鹸で髪に泡が立つ。
「ロゼ、私自分で洗えるよ?」
「だーめ、徹底的に私が貴方を磨いて兄貴にカーリーのこと認めさせるんだから。それにそのまま湯船になんか浸からせないわよ絶対に」
騒動があったりなんやかんやあって、二人揃ってお風呂に入る事になったのだけれど…。
「カーリー…あなたいつからお風呂入ってないの!?」
「えっと…数年?いつも桶に水溜めて洗ってたし」
脱衣所で脱ぐと黒ずんでいた私の身体にロゼが悲鳴を上げて問答無用で大浴場にぶちこまれたのだ。
髪を洗われる作業もこれで4回目。身分の高いだろうロゼに洗わせるのは気が引けるのだけれど、それを言うと睨まれたのでやめた。
「あら?カーリーあなたって暗い赤毛だと思っていたら思ってたよりも橙がかってるのね」
「そうなの?」
鏡を見れば長年蓄積された汚れが取れたのか髪色が全然代わっていた。どれだけ汚れていたのか…これは確かに義理の妹から寄らないで汚いって言われた訳だ。
「さ、次は体ね。」
「じ、自分で…「カーリー?」…お願いします」
柔らかな布を今度は身体を洗う専用らしい石鹸を使ってゴシゴシと洗われる。
とても心地よくてうとうととしてきてしまうのを必死に堪える。
「カーリー、眠い?」
それを察したのかロゼが優しい声音で尋ねてくる。
鏡越しに見るロゼは本当に天使みたい。しっとりと湿気を含んで濡れたブロンドは普段のフワフワとしたものではなくストレートになっていて少し年より大人っぽく見える。それに胸の発育が私より凄い…。北のフロン人は皆背も高いし胸も大きいって言うけれど本当らしい。まだ私と同じ12歳というのが信じられなかった。
「カーリー、人のおっぱいジロジロ見ないの」
「羨ましいなぁって。」
「カーリーだってそのうち大きくなるわよ。」
「(ならねぇだろ)」
後ろから何やら野次が聞こえたけれど無視。
ケルピーはポーネンティア専用の風呂に浸かっている。
かれこれ1時間頭の先から足の先まで洗われれば頑固な垢も黒ずみも落ちすっかり鏡に写った自分は別人と化していた。
「おおー…」
「カーリー可愛い!!そしてさすが私!」
ギュッと後ろから抱きしめられると柔らかなクッションのような胸が当たって気恥しい。
「さて、カーリー。私も自分を洗ったら入るから先お湯に浸かってて? 」
「ううん、ロゼの事も洗わせて?」
「いいの?」
「うん、勿論。」
「じゃ、お願いするわね?」
腰まであるロゼの髪を丁寧に洗っていく。
柔らかく軋みのない髪。
羨ましいなぁ。そんな事を思っているとなんだか外が騒がしくなってくる。
「なにかしらね?」
「さあ?」
そして暫くして静かになると何人かの女子生徒が入ってくる。
皆一様に私達より大人びているから上級生だろう。何故か怒っている。
「全くアルネージュの野郎何考えてるのか」
「ほんっとに、そう。シスコンシスコン思ってたけどまさか風呂に忍び込もうとするなんて」
「頭…おかしい」
「……ろ、ロゼ?」
肩を震わすロゼ。
アルネージュ先輩が関わると天使なロゼが悪魔になることは今日見ていて学習している。
「カーリー、私今日はお湯に浸からないわ。スグに洗って出るからゆっくりお湯に浸かってらっしゃい。部屋に戻ってきたら私の香油髪につけてあげるから。それまでには終わらせる」
そう言って私の手から布をひったくると急いで身体を洗って風呂から出てってしまう。
「(おい、カーリー、そんな所に突っ立ってると風邪ひくぞ。早く風呂入れ)」
「あ、うん。」
ただ、ずっと昔の幼少期に入った記憶も朧気なそれに入るのは何となく勇気がいる。しかも大浴場。なにか作法があるのではないかと思って当たりを見渡すと、皆お湯を軽く身体に掛けてから入っている。
私もそれにならってお湯を桶ですくって身体にかける。
暑いお湯がとても気持ちい。
ポーネンティア専用の湯船と隣合わせの湯船に足を入れる。
入ると立っても腹当たりまで浸かる程深い。元々小柄であるのを理解していたけれどこれでは座ったら顎どころか口までお湯がきてしまう。けれどこんな沢山のお湯に入れるなんてとても贅沢だ。もしこの学院に入らなかったら一生入ることは無かっただろう。
「(背が伸びるまで膝立ちだな)」
「だね」
肩を竦ませてケルピーと向かい合う。
「そういえば、初めて私の名前呼んだね。」
「(そうか?)」
「うん。ケルピーは私の事嫌いだから余計な馴れ合いはしないんだと思ってた。」
「(そうでもないさ。俺達妖精の類は縁や運命を大事にする。…だから、まぁ不可抗力だったとはいえこれも運命だって受け入れるさ。それに繋ぐもんがあまりにも暖かくてな。お前を見ていたくなったのさ?)」
「繋ぐもの?」
「(そうだ。お前懐中時計俺に食われたろ)」
「あっ!!」
「(詳しくは分からねぇ。けど俺がお前と運命結ぶ切っ掛けになったのはそれしか考えらんねぇんだよな)」
「……。」
「(カーリー?)」
目から涙が零れた。
「お母さんの…」
「(お前の母親の生前使ってた懐中時計、だろ)」
「…私、それしかお母さんのもの持ってないのに」
次々に涙が溢れ出して水面に落ちる。
涙が出たのはお母さんが死んだ時以来かもしれない。
「それしか、お母さんと私を繋ぐもの、持ってないの」
するとケルピーの鼻先が私の頭をつついた
大浴場
部屋にもシャワールームはついているけれど生徒はコチラを利用することの方が多い。
ポーネンティアが入れる浴室があるほど大きい。
お湯は全て地下から組み上げられた温泉を魔道具を使ってだしている。魔力回復に効果的である。
ちなみにエルデルシアでは温泉が多く存在しているので魔法もさることながら、観光で来る人も多い。