Side ラディ
読み飛ばしても平気です。視点はカンテラサイド
Side ラディ
「嘘でしょ、ケルピーが運命の糸を結んだ!?」
「ヒヒヒーヒーン!!??」
2匹の水生生物の慌てふためく様子をは海底から眺めていた。
「マジか…すげぇ」
2年生から6年生まで学院生は皆魔法で姿を炎に変えられ、カンテラの中に入り受験生を見守る恒例行事。
それが学院生の進級試験も兼ねていたりするので手は抜けない。もし受験生が死んだりしたら進級は出来ないのだからね。
期間は短くて1日長いと1週間。
運命を結べるか結べないかは出会いが大きく関係するからぶっちゃけ早く終わるかは運だ。
その間は、ずっとカンテラの中。食事やトイレはどうするかが2年生の質問に上がるが、炎がおしっこするかって話と同じだ。
構造が炎な以上は必要ない。魔力と酸素は魔道具のカンテラから支給されるから基本ただぼうっとしてるだけ。
手助けをしたりするのは僕の場合はしてない。
けれど、今回の子はなんとも危なかしげだ。
色んな国の様々な身分の子が受験してくることもあるから不審には思わなかった。それでも今にも折れそうなガリガリの身体にボロボロのエプロンドレスを着た赤毛の受験生、カーラ・アルミナは心配でならなかった。
死んだら留年。
いやいや、この子は絶対餓死すると思ったわけだ。
けど、そんな予想に反してありがたいことに死ぬことは無かった。腹の音は凄まじかったが。だから、少し油断していたのだ。水に引き摺り込まれる彼女を見た時にこの場所が危険な事を思い出した。
ケルピーの住処。
確か何年か前にここで受験生が食われている。
慌てて浮遊魔法を使ってカンテラを浮かせてから水中に入ればか細い足にケルピーの歯がくい込んでいた。
変身を途中で解いても留年。変に魔法を使えば勘繰られる可能性もある。
強化魔法と防水魔法を炎の身体に掛けてケルピーに突っ込む。が、やはり水の中。ケルピーの腹を焦がすに留まった。
それでもなんとか逃れるだけの隙は作れたらしい。
完全に姿が見えなくなったのを確認してから浮上しようとすると、マーメイドに阻まれる。
マーメイドは他の水生生物との仲間意識が非常に強い。何処かで僕の攻撃を見てたのか泡の結界を貼られて浮上が厳しくなってしまった。
カンテラからの魔力と酸素の供給が無い今、水の中での戦闘は魔法で水を分解して酸素を得ながらになるために消耗が激しい。
幾ら防水魔法を使っていても徐々に自分の身体が小さくなっているのをひしひし感じている。
そろそろ進級を諦めて、変身魔法を解こうかとした時
水面が揺らめきカーラが水の中に入ってきた。
「馬鹿でしょ。なんで来ちゃうかなぁ本当に」
呆れを覚えていると彼女は突進していったケルピーの口に勇敢にも木の枝を噛ませる。
「ケルピーの弱点が馬具というのは皆知ってるけど呪いは怖くないの!?ああ、もう、これだから無知な受験生は嫌いなのよ。ついでにここの生徒も!!」
尾鰭をたなびかせたマーメイドにまずいと直感する。
変身魔法を解かないと、本当にやばい。本格的に彼女の生命が危ないと思い変身魔法を解いたの同時、鮮血が海中を汚した。
急いで回復魔法を、そう思っていると奇跡が起こった。
ケルピーの腹から金属の鎖が出てきたかと思うとカーラの胸に入っていったのだ。
二人を繋ぐ鎖が赤い運命の糸へと変わっていく。
通常運命の糸というのは一目見た瞬間に繋がるもの。
それが敵対してる者同士が、しかもこんなに時間が立って繋がるなんて聞いたことがない。
運命の糸が視認出来なくなるとマーメイドとケルピーが騒ぎ出す。そりゃ、運命の糸で繋がった魔法生物や精霊と人間はどちらか片方が死んだら死ぬからな。そりゃ必死にもなる…か。
「仕方ない回復魔法は僕がかける。だからまずは彼女を岸へ」
僕の留年が確定した瞬間だったけれども、不思議と嫌な気はしなかった。
マーメイド
半人半魚の高等水生魔法生物。仲間思いがとても強いために住処の他の魔物が攻撃させるととても怒る。人間の言葉が喋れる他水を操る魔法を得意とする。亜種にセイレーン、メロウなどが居る。
人間と交わり種を残せるのはメロウのみ。