受験
揺れるカンテラを手に私は木々がひしめき合う深い森の中を歩いていく。
古く所々に錆の目立つ懐中時計を開くと短針は2の所で止まっている。最もこの暗さではそれが昼の2時なのか夜の2時なのかは分からないけれども。
昼夜問わず歩き続けた結果日付け感覚も体内時計も狂ってしまっている。
足は既に棒のようで重い。
それでも歩みを止めないのは一重に王立魔法学院の入学試験の真っ只中であるからだった。
エルデルシア王立魔法学院。
五つの大国にぐるりと周りを囲まれた巨大な湖の真ん中に浮かぶ島国、エルデルシア唯一の魔法学校にしてこの大陸最古の魔法学校。
近隣諸国の優れた魔法士は皆この学校出身である。それ故にこの国は不可侵条約が結ばれている。
絶対的に安全な国で、尚且つ卒業後は引く手数多、そして門徒を広く開いているゆえ試験にさえ合格すればどんな身分でも入学することが出来る。尚且つ学費はただ。
私の最後の希望なのであるが、その試験に早くも挫折しそうなのが現状でもある。
王立魔法学院の試験は学問も魔力も問われない。
試験に合格するには島の魔獣及び精霊と運命の糸を結ぶ、ただそれだけらしい。
それだけらしいのだけれど、説明は一切無しだ。そのため受験生は取り敢えず魔獣を見つけるためにエルデルシアの森の中を歩き回る羽目になっているのだ。
「魔獣どころか、受験生にすら会わないんだけど。どうなってんの…」
溜息一つ吐いてまた歩き出す。
ついでにお腹も鳴ったけれど、近くに食べられそうな木の実はなっていない。
そもそも受験と称して家を追い出された私には僅かな、路銀程度しか渡されていない。
そして急だったこともありこのサバイバル的な試験に持ってこれたものは形見の懐中時計のみ。
お金は移動のための相乗り馬車で消えてしまっている。 受験者全員に魔法のカンテラが支給されてるのがせめてもの救いだった。
「水…?」
せせらぎの音が耳に届くと歩む足に微かに力が戻る。
足場が土から苔の地面へと変わる小川が流れていた。
「ひっ…」
膝を付いて覗き込めばコケた頬と色濃く目の下を彩る自分の顔に驚いた。
これではまるで生きる屍だ。
カンテラを持ってのそのそと歩いている自分がもし他の受験生に見られたら悲鳴を上げられること間違い無しだろう。
溜息をつこうとした瞬間に大きな腹の音が鳴る。
空腹は限界に達していた。
川に頭か突っ込むようにして水を飲む。
幾らか空腹は紛れたような気がしなくもない。
ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる
「……お腹減った。試験にはどうせ受からないし…他国に亡命しようかな…東のルクルド国は身分制度緩いし…働き口を探して……甘い、匂い?」
その甘い匂いは小川からしてくる。
食べたことはないが義妹のセフィルが食べていた甘いお菓子の匂いに似ている気がする。
誘われるように私は小川に頭を突っ込んだ。
そして、そのまま浅い筈の小川へと頭を捕まれ引き摺り込まれたのだった。
なかなか連載が続かないですが、今回こそは頑張りたいと思います。ぎゃふんと書きましたがカーリーのほのぼの魔法学院生活となっていきます。