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紡ぐ言葉  作者: 朔良
壱章 日常
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10話 体育祭準備期間

(注)この物語には多少の流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます

あれから一週間。千里の中での怒涛の日々は駆け抜けていった。この一週間千里は体育祭の準備、警察庁へ通って二年前の事件の詳しい資料探しに、事件についての考察、実行委員の仕事、といった具合だ。因みに二年前の事件については依然と進展もつかめず、報告書についても薄っすらとした情報しか書かれていなくて、進展という進展はしていない。唯一分かったことと言えば、どの遺体も左腕、足腰のいずれのどれかが鋭利な刃物で切り取られている、ということと、切り取られてしまった死体は見つかっていない、ということだけだった。そんなのは事前に下調べをしていたネットでも書いてあったことなので、今更過ぎてものが言えなくなったのがつい昨日のことだ。徹夜で調べたのにも関わらず、獲得できた情報はネットと変わらないとなるとあの頃の事件の取り扱いの雑さに呆れすぎて何も言えなくなっていた。千里は一つ溜息を吐くと一つの荷物を持ち上げる。その荷物は持てない、というほどではないにせよずっしりとしていて徹夜明けである千里の体には聊かきついものがあった。ぶつぶつと悪態をつきながら荷物をもって少しふらふらと覚束ない足取りで校庭を突っ切ろうとしていた時のこと。

「だぁああ……、死ぬ……。この野郎重いんだよ……、マジ徹夜明けの体にはくっそきついわ……」

「千里ちゃん元気ないねぇ、大丈夫?顔色も悪いし……あ、そうだその荷物、重そうだし僕持ってあげるよぉ」

「うわああ?!……て、なんだよ、縁君か。別に持てるから気にするなし」

「もぉ、無理しなくてもいいのっ!ふらふらしてるしぃ、顔色も悪いよぉ?倒れちゃったら大変だから僕がやってあげるよぉ。貸して」


不意に楔に声をかけられ、千里は声を上げながら肩を揺らした。声をかけられた方へ振りかえると、楔が立っていた。心配そうに声をかけては楔はどうやら荷物を持とうと提案をしてくれていた。こいつが普通に自分なんかのためにわざわざ手伝いを申し出ることはないだろうと考え軽くあたりを見渡すと、その予想は的中だとでも言いたげにやや前方に伊織の姿を見つけていた。千里が大丈夫だ、というと楔は無理をするな、と言いながら千里の荷物を反対側から持つ。千里は段ボール越しに小さな声で話しかける。

「どうせおめぇ伊織にいいとこ見せてぇだけだろこのクソストーカー」

「ちょっと地雷おまえそれ伊織ちゃんにばらしてみろよ、ぶっ殺す。いいから貸せって。ふらふらしてんのも本当だし、顔色悪いのも本当だから。無理しすぎんのも俺はよくないと思うけど?とりあえず、これ、どこ置けばいいのか分かんねえから、地雷、案内頼むわ」


千里クソストーカー、と言うと楔も若干にらみながら半場無理矢理荷物を奪い取りながら、ぶっ殺す、というとすたすたと歩き始める。しかしさすが男の子だ。千里が少し重たいな、と思っていた荷物を軽々と持ち上げてさらにすたすたと歩けているのだ。あんなでも男なのか、と思うと千里はその背中を見ながら、かすかに驚いていた。楔相手に、ドキッとしたことに。楔が思っていたよりも周りのことを見ていたことに。しかし頬が先ほどのことを思い出すと少しづつ赤くなっていくのが自分でもわかり、まさかの展開が頭をよぎった。

「まさか……なぁ?」


熱くなりつつある頬を抑えながら千里は先ほどの考えを吹き飛ばしながら楔の後を追って校舎に入ると、持っている荷物を置く場所まで案内をするのだった。

「っと、ありがとな、楔」

「……は?」

「え?」

「あ、いや、お前、前まで縁とか嫌がらせで縁君とか言ってたじゃねえか……。それが何で楔呼び?」

「何となく……」


運べ、と言われていた部屋まで荷物を運び終えたのを確認した後に楔に振り向きながら、千里がお礼を告げると、楔は目を見開きながら驚いていた。何のことで驚いているのかと思えば、名前の呼び方だったらしく、今までは縁呼びだったくせに、というと千里は誤魔化すように「なんとなく」と告げた後にふい、と目をそらすのだった。その時都合よく姉妹校との会議の時間を知らせる放送が校内に響く。

「ほら、次姉妹校との連絡会議だろ?行くぞ」


千里はその思いに気が付きたくない、とでも言いたげにその場から逃げるように走って会議室までの行くのだった。

「なんだ?あいつ」

一人残された楔は首をひねりながら、そういうと鍵をかけてから一人のんびりとした足取りで、会議室へと向かうのだった。

千里が楔よりも一足先に会議室に入ると、姉妹校である桜庭高校の体育祭実行委員の生徒とわが校、桜才高校の体育祭実行委員も生徒は数人集まっており、それぞれに会話を交わしていた。伊織の姿を見かける。特に見知った顔もなかった千里はそのまま伊織のところに話しかけに行くことを決め、そちらの方向に足を向ける。

「よ、伊織。そっちは……、桜庭の人?」


千里が話かけると伊織は見知らぬ男子と仲良さげに話をしていて伊織のコミュ力の高さに驚きつつもチラリと彼のことを見やる。彼の眼はこちらに合わせることもなく、ずっと伊織に視線を向けたままだった。『なんだこいつ、失礼な奴だな』と思いながら、じっと見つめる。

「あ、ほらあれだよ。この間話した、四月一日徹守君。体育祭の実行委員なんだって」

「へー……、あー、俺は地雷千里。よろしくな、四月一日」

「うん、よろしゅう」


伊織に説明を受け、ようやく納得がいきながらもそこまで興味がなかった千里は適当に相槌を打ってから千里が名前を名乗ると。向こうもこっちに興味はないのか適当によろしく、と言われると、再び伊織と談笑をし始める。特に用があったわけでもない千里は二人から少し離れたところに腰を下ろす。何となくだがあそこにいたら確実に楔と徹守の険悪な雰囲気に巻き込まれるのも目に見えていたし、巻き込まれるのもめんどくさかった。

「地雷」

「んだよ、楔。伊織のところ行かなくてもいいのか?」

「べっつにー。伊織ちゃんに『千里が一人でいるから僕のところより千里のところにいてあげて?』って言われたから来てあげただけですが?」

「気ぃ使わなくていいのに」


ぼそりと小さな声で名前を呼ばれ顔を上げると少し不機嫌そうに声をかけてきた人物を確認すると楔だった。みんなの前、というのもあるのか顔こそはふてくされてはいるがおそらく腹の中ではとても人には言えないようなえげつないことを考えているのだろう。すでに口調だって怪しいのだ。とりあえずここはなだめておこうと思った千里は呆れ交じりに口を開いた。

「まぁ、楔のほうが有利だと思うよ、同じクラスの同じ学校なんだし。だろ?」

「そう、だよねぇ」

千里の言葉を聞いた楔は小さく笑いながら安堵したかのように小さく微笑む。その顔に少なくとも千里の心は高鳴るのだが、そんなことは微塵にも感じさせずに「がんばれよー」なんて応援の言葉を贈ると楔は

「お前って案外いい奴だったんだな。もっと冷たいやつかと思ってたわ」

「んだと……?失礼な奴だな……。まぁ、いつも無表情だし、仕方がないのかもだけどさ、いくらなんでもひどくね??まぁおれもお前の最初の印象は『何故意湯、人にこびへつらってバカじゃねぇの?』だし、高校入ってからは、『こいつ裏隠してそう、やばいやつ』だったからな。人のこと言えねえか。でもお前、思ってたよりもいい奴でよかったよ」

「お前も大概だよ……。……は?それどういうことだよ」

「そのまんまだわドアホ」


楔の第一印象は周りからよく言われることで慣れてはいたので特に思うことはなかったが、少し冷たい人だ、と言われるのはつらかったりする。それを考えたら恐らく千里の第一印象のほうが、ひどいだろう。千里の思っていたよりもいい奴、の発言には楔も不思議そうに首をかしげながら聞くと、千里から真顔で突っ込まれるのだった。


次回で体育祭編が終わりになって、一つの事件が起こります。少し長いのですがお付き合いいただけると助かります。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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