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紡ぐ言葉  作者: 朔良
壱章 日常
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7話 薙刀部

(注)この物語には多少の流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます

それから一週間後の放課後のこと。あの後、ずっと薙刀部の見学だけでも来いという冬木如一とかいう人の命令……いや、お願いで千里は薙刀部の、活動室である道場を秋良と一緒に訪ねていた。と言っても剣道部のすぐ近くにあった。冬木如一は千里にとって命の恩人であり、様々なことでお世話になっていたりする、千里の一つ上の先輩で、正直に言ってしまえば馬鹿だ。どうでもいい余談だが、今の千里の身の預かりは冬木家となっているが本人の要望で学園には地雷で通っているし、保険証も地雷だ。そして如一が馬鹿というのにはいくつかの理由があるのだが、その理由というのも、この後にわかるのだが、ここではお楽しみとかいうやつにしていきたいと思う。千里たちは剣道部の休憩中に訪ねたときはちょうど休憩中だったようでみんながゆったりとしていた。


「伊織ー!秋良もつれてきたけど、大丈夫だったか?」

「……大丈夫ですよ」


千里は「悪いな、邪魔するぜ」と言いながら普段気だるげにしているにもかかわらず、道場に一歩入ると、背筋が伸び、シャンとしていた。普段から背筋は伸ばしているが、確実にその時よりも確実に伸びている。横目でちらりと見ると目を細めながら笑って手を振っていた。伊織はその千里の背筋を見てふと思う。────さすが、千里だ。小さいころから武道やっているだけあるな。


伊織は千里の幼い頃を知っている。というのも千里に初めて会ったのは、小学生の頃だ。伊織の父親と千里の母親が知り合いだったのもあり千里の母親である千歳に手を引かれながら、剣道の稽古をするために伊織の家によく訪ねてきていた。あの頃は仲良くする、なんてことはなかったので、あの頃の千里のことはよくは知らないが、今の千里とは全くかけ離れている、としか言いようがない。久々に再会した時もピンとこないぐらいには。しかし、小3になる頃、突然ぱったりと二人は来なくなった。それから、姿もまったくとしてみなくなった。まるで神隠しにでもあったかのように。それから半年後に伊織は巷で小さい一匹狼にヤンキーh¥がいて、そいつがすごい強い、という噂と、どこかの道場で永瀬千里、という女の子がいきなり腕を上げた、という話を聞いていた。しかし伊織には興味がなかった。そもそも伊織は一度千里に訪ねたことがあった。いきなりいなくなってどうしたのかと。千里はその時少し困ったように笑いながら『あー……うん。ちっとね』とはぐらかすし、蒼に聞いてもうまい具合にはぐらかされていて、詳しい事情は知らなかった。けれども、そこまでして伊織は聞きたいとは思っていなかった。千里は話したいなら話すと思っているし、話さないといけないなら、話すと信用をしていた。無理に聞き出したい、という感情は持ち合わせていない

「いっおりー!手合わせするぞ!!今日こそ俺が勝っちゃうもんね!」

「また貴方ですか……。学習しないですね、冬木先輩は」


そんな考えを吹き飛ばすような声が伊織にかかったのはそんな時だった。────冬木如一。伊織の薙刀部の先輩で、そして伊織に瞬殺された内の1人である。

『おまっ……バケモノ、かよ…………』

『心外ですね冬木先輩。貴方には言われたくないですが……まあ、でも、噂されるほどの強さじゃなくて安心しました。大変ですよね、噂だけが広まっちゃって本当は弱いのに強いなんて決め付けられるなんて』

『あぁ!?』

『神聖なる道場での喧嘩は御法度ですので。でも、確かに30秒もしないで終わっちゃいましたけど素質は充分ですね。……まあ、でも、素質があるだけで弱い事に変わりはありませんが』

『……はっ、いい度胸してんじゃねぇか。この俺様に向かって喧嘩を売るなんてよぉ……?』

『喧嘩?いやはや、事実を申し上げた迄ですよ』

『……やってやろうじゃねえか。入ってやるよ、薙刀部。そんで、テメェを、ぜってぇ負かす』

『…………いいですね、受けて立ちましょうか』


そんなことを言われたのは入学式の薙刀部の見学中だった。突然勝負を挑まれ、そして負け惜しみに言われた一言。それからというもの毎日勝負を挑まれ、その度に瞬殺されているのだが、全くこの人は学習能力が備わっていないのか、と疑ってしまいたくなるほどに、毎回同じところを注意されていた。


「いってえええええええ?!」

「だから、冬木先輩は間合いが狭いんですよ。いくら瞬発能力高いとはいえ、そんなの一瞬で脛薙ぎ払われて終わりですよ。剣道や柔道と違うんですから。いい加減学習してください。それから、あなた歩くとき足音煩いです。大会でそんなことやつたら本気ですねぶっ叩きますよ」

「えぇ……」


すねを思い切り叩かれた如一は声を張り上げながら、その場に座り込んだ。その後に伊織からのここを直せ、といい指導が入ると、ますますタジタジになる如一。千里はそれを見ながら、如一があんなに言われるのは珍しいな、と思いながら微笑ましく思っていた。隣りから堪えていた笑いがとうとうこぼれたかのように

「ははっ!如一がんなにもの言えんのは千里と俺と伊織ぐらいじゃね?」

「やめろ!秋良!笑っちゃう」

「ほんとお前らあとで覚えておけよ!!」


涙目でこちらを睨みながら、そんな風に声を出すが、伊織「煩いです」と一言言われると、ウッ、となりながら、如一は黙り込む。それを見て更に肩を震わせるハメになったのは秘密だが。その様子を見て伊織は休憩は終わりと言わんばかりにほかの部員に声をかけてから如一には個別に声をかける。おそらく練習メニューの変更なのだろう。

「それから冬木先輩ですがまぁ、まずは冬木先輩は足さばきの練習してください。まずはそこからですよ。足腰しっかりしてください。基本がなってなさすぎるんです」


伊織が呆れ交じりにそう言うと如一はたじたじになりながらも足さばきの練習に取り組み始める。伊織はその様子を見ながらやはり素質だけはあるし、スピードとしては申し分はない。しかし問題点として挙げるなら普段動かないような動きのせいか、たまに自分の足に引っかかって転んだり、足音が立つことぐらいだろう。

「伊織!これ転ぶぞ」

「転びませんよ!あなた重心動かしすぎなんですよ!重心は常に動かさないでください」

「えぇ……なんでそれ言わねぇんだよ」

「毎日言ってます」

「えぇ……」

ますますたじたじになる如一に千里は苦笑を浮かべる。

「薙刀では足腰は本当に大切ですから!まずはそこから鍛えてください。スクワット1000回以上はやったほうがいいです。それから水泳とランニングを吐くまで」

「別にいいけどさぁ、それぐらいどうってことないし」

いいのかよ、とだれもが心の中で突っ込みつつも千里はおずおずといった様子で伊織に質問を投げる。

「ねぇ、伊織。薙刀はやらないけど、薙刀やるうえでやっぱその足と腰の二つって必要なの?あとはそれ以外に必要な場所ってやっぱりあったりする?」

「そうですね、あとは左側ってのは剣道でも必要だと思います。それは薙刀でも同じですね。やはり心臓がある場所ですし。あとは冬木先輩がよくぶっ叩かれてる脛も結構大切ですね……」

千里の問いに対して大して悩んだそぶりも見せずにさらりと答えると、千里はふんふんと頷くと最後には歯を見せながら笑い「ありがとな」と告げる。

「いえ、例には及びませんよ。そうですね、その代わりと言っては何ですが、またうちに来てください。父様も千里に会いたがってました」

「あー、そうだよなぁ、射水さんにも悪いことしたなぁ。わかった、今度……、近いうちに泊まり込みで修行してもらおうかな」

「じゃぁ父様にも伝えておきます」

「了解」

千里はぐっと親指を立てると下手嘘なうウィンクをする。伊織はそれを見ながら苦笑をこぼすと練習風景に目を戻してその様子を眺める。やはりさすが強豪校だな、とは思うが伊織にとってはまずまずの練習相手だ。千里はふっと時計に目をやると結構時間がたっていた。そろそろ休憩も終わるころだろう。

「おっと……、そろそろ俺は戻るよ。ほら、秋良も戻るぞ」

「あぁ、もうそんな時間?じゃあ如一、俺ら部活に戻んねー!」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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