死んだ
バイトが終わって俺は速足で帰る。
観たいテレビがあるわけではなく、ただ早く帰りたいだけ。
今日は特に疲れたから、今すぐ風呂に入りたい。
そう思いながら、家に近づくほどスピードを上げていく。
家が近くてほんと良かった。
ちょうど引っ越そうと決めてた時、タイミングよく仕事場の近くのアパートに空きができた。
それが今住んでいるアパートで、俺は空きがあると聞いた時、音速の速さで不動産に電話した。
古いけど、中は結構きれい。家賃も安いから、俺は得したと思う。
俺は初めての一人暮らしで不安がなかったといえばウソになる。
でも今の生活には満足している。最初はあまり慣れなっかった部屋も、今はマイホームだ。
ああ、早く帰りてぇー
あたりが暗くなったことを確認しながら、道をまっすぐ進む
またまた、歩くスピードを上げる。
帰宅の速さで、もう俺に勝てる奴なんていないと思う。短距離や持久走のタイムはそんなに良くないが、早歩きだけは速い。
友人たちにもそう言われてる。
「帰宅大会」とかあれば優勝出来るのになあ~。なんちゃって。
ここは右に曲がる...そして歩道を渡る。
信号はまだ赤だけど、後3秒ぐらいで青に変わる。
なぜそんなことが分かるのかって?
毎日ほぼ同じ時間にここを通ってるからすでに把握してる。
だから俺は歩くスピードを落とさなかった。どうせすぐ色が変わる。
ここの道はあまり車走ってないし、真っすぐに前進だ!
右手で持っていた今日のコンビニご飯をあまり揺らさないように気を付けながら、一応
右左を確認する。
堂々と赤信号の道ド真ん中で確認しても意味ないと思うけど...
一応、念のため。
右側に車はなかった。
そう...右は大丈夫だった。
だけど、左を見た瞬間...体が動けなくなった。
視界も、頭の中も真っ白になった。
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真っ黒なスポーツカー。
めっちゃカッコいい。
その車のドアは開くのではなく、上がるようになっていた。
トランスフォーマーの映画に出てきそうな、いかにも高額そうな車の中から
一人の男性が出てきた。
お金がかかりそうな紺のスーツとシルバーの時計。
クールにきまっている髪型のスタイル代も高そう...
一言で表すと、「ザ・カネモチ」って感じの男。
そんな「ザ・カネモチ」男は慌てていた。
理由?
人を車でひいてしまったから。
男は暫く固まった。顔には...
(どうしよう!? やばい! どうしよう!?)
の文字が見える。
固まったかと思ったら、男は目に水がたまった。顔が赤い。
すると何かを思い出したのか、上半身だけ車の中に戻った。
男は携帯を取り、救急車に電話をした。
空いていた左手を頭に当てながら、その場を行き来し、一生懸命話している。
酷い様だった。だんだん取り乱していく。
いよいよ、目の水が落ちてきそう。
そりゃ、人跳ねてしまったもんな。誰だって怖いだろうよ。
...なんか申し訳ない。
さっきから、だいたいの状況を察した人はいるだろう。
俺は今、リッチ・ボーイの車に跳ねられて、血ダラダラで道路に横わたっている。
自分の姿は見えないけど、かなりグロテスクなはず。ハッキリ言って、やばい思う。
骨はいくつか折れてるし、意識が消えてくし...
車は多分かなり速度を上げていたはず。ひかれた後の当たり所も悪かったらしい。
背中に何か硬い物を感じる。電柱か?
とにかく、全身が痛い。あとどこか麻痺してる部分もある。体のどの部分かは知らない。
そんなこと考えてる余裕はない。
そんな俺を、男が怖い顔で見る。
電話が終わったみたいだ。じーっとこちらをガン見する。突っ立ってるだけで何もしない。
もっとやることあると思うんだけどな。呼吸の確認とか。心肺蘇生とか。
いや、待て...
心肺蘇生はなしだ。今のなし。兄ちゃんイケメンだけど、俺は男とチューしたくない。
ただ俺のグロ状態を見ていたリッチ・ボーイは、今度は俺の目をみた。
当然のように、目が合う。
俺にまだ意識があると理解したようだ。顔が青くなった。大丈夫か?
...オイ、こら。 ゲロ吐くな。
再びこちらを見た。
表情は...なんだろう......言葉が見つからない。
でも言いたいことは理解した。
...俺死ぬんだろう?
怖くなった。人生が終わる。人の命って、簡単に消えるんだな。
いい人生だったのか、それとも未練の残る人生だったのか。今までを振り返る
時間もなしに俺は目を閉じ、息を止めた。