遠距離というハードル
あわ森県からはるばる招き猫を買いに来た彼女。
おっとりした感じの容姿で服装も清楚な感じでかわいらしい女性だ。
眼鏡が似合っていた。
思わず見つめてしまった。
目が合うと「どうしたの?」とニコッと彼女は微笑む。
照れくさくなり、僕は思わず目を反らした。
カチンコチンに緊張した僕は質問を色々してみる。
僕「あっ、あのじょっ、ちがっ、どっどこから来られたんすか?」
加冶屋さん「あわ森県です。ほら、リンゴで有名な笑」
緊張しすぎて言葉カミカミだったのが面白かったのだろうか、彼女がくすりと笑う。
僕「あの、お名前は?」
加冶屋さん「加冶屋 まきといいます」
まきっていうのか、まっきーって呼んでみようかなと思った。
加冶屋さん「何ニヤケてるんですか?」加冶屋さんが疑心を抱く。
僕「いや、なんだかかわいい名前だなと思いまして」
加冶屋さん「かわいい?私、自分の名前ってあまり気に入ってないんですよね」
僕「良い名前だと思いますよ。是非まっきーさんって呼ばせて下さい」
加冶屋さん「なんか、ペンみたいな名前ですね、それより招き猫買ってもいいかな?」
僕「そ、そうですね」
加冶屋さんは、どの子にしようかなと真剣に持ち帰る招き猫を選ぶ。
「この子に決めた!」加冶屋さんが呼ぶ。
再度質問をしようと僕は「あのっ」と加冶屋さんに言おうとした時、彼女の携帯から着信音が鳴る。
「はいっ、もしもし 今ですか?今、松下さんのお店で買い物してます。えっ?はあ、そうですか はい、わかりました これから向かいます」通話が終わったのか電話をきる。
加冶屋さん「ごめんなさい、私これから行かなければならないところがあるから話の続きはまたの機会でもいいですか?松下さんの名刺貰っていきますね」
僕「お仕事ですか?」
加冶屋さん「身内が倒れたから、16時の新幹線であわ森に急いで帰らないといけないの」
僕「えっ?大丈夫ですか?車出すので駅まで送りますよ」
加冶屋さん「ありがとう、でも大丈夫かな バス停まですぐだし」
僕「そうですか」
「じゃっ、何かあれば連絡するね、でも暫くは東京には出て来れないかもです」と言って彼女は帰っていった。
僕は、ボーッとしながら加冶屋さんと話した事や笑った顔を思い出していた。
でもすぐに現実的な事を考えた。
僕は招き猫の販売をしているし、それに今自分のお店を持っている。
この道一本でこれからも食べていかないとならない。
自分の作る招き猫のファンが居るからこそ、これからも制作を続けていきたい。
サラリーマンや看護師に比べれば、収入面は厳しい。
あわ森県?簡単に会える距離ではないよな。
ふと気がつくと僕は、お店から外にでていた。
バス停に着いた時、加冶屋さんを見かけたがタッチの差で間に合わず彼女は僕に気がつく事なく、バスに乗り込み加冶屋さんを乗せたバスはブローっとエンジン音をたてて走り去っていった。
そうか、これがこの現実が大きな課題か。この時僕は加冶屋さんと付き合っていくのには大きな課題つまり壁を乗り越えていかなければならないなと確信した。
次回第3話「招き猫作家としての苦悩」。