第9話(旧5話) 神退治始めました。
どれぐらい歩いただろうか。
なんだかんだ、山の頂上付近についたようで、今まで視界を狭めてた木々がなくなり目の前が開けて草むらが生い茂るちょっとした平地が現れた。
平地になってすぐ手前には、ボロボロの加工されている円柱の木製の柱が2本立っている。どちらも大分年代物であるが、誰も手入れしてないようで、上の方は朽ち果てている。
いや、おそらくその下の周りにも似たような木製の破片が転がっていることやその奥に神が鎮座しているのを推測するのであれば、この2本の柱は鳥居だったんではなかろうか。
長年、誰もお参りに来てなかったであろうことは、この鳥居であったであろう2本の柱が物語っている。
しかし、立派に鳥居として存在していたとしてもそんなに大きいわけではなく、人が一人やっと中を潜れる程度の大きさだったであろうことは、この2本の柱の間隔の狭さからなんとなく解る。
ということは、この先に悪いお稲荷さんがいるわけか?確認のため、アヤメに聞いてみる。
「ここが、お稲荷さんがいるところか?」
「間違いなさそうね」
そう言ってアヤメは刀をスラリと抜いた。
鳥居であったであろう2本の柱の先は雑草という雑草がこれでもかというぐらい生い茂っていて先が見えない。
アヤメが2本の柱の間を狭そうに通り、持っていた刀を横に一払いし、雑草の草木を薙ぎ倒す。軽く、ウォーミングアップのつもりだろうか、次々と刀を振りかざし、周りの雑草達を斬り倒し、薙ぎ倒す。
まるで剣舞を舞うが如く。
ただただ、無言でアヤメが舞う。山頂で木々がない平地では、月明かりも差し、より一層幻想的な雰囲気を醸し出す。
アヤメは少し前進しては刀と共に左右に流れるように揺れ動き優雅に舞う。
アヤメの刀が振りかざされる度に雑草達は上空に舞い散ってははらりはらりとゆっくり地面に落ちていく。
その舞いは非現実的で美しさがあった。アヤメが無駄にカッコ良く、美しい。
素直に彦一は、そう思った。まさに神々しいというべきか。
そのアヤメ『様』の舞いをぼーっと見惚れるているオレ。
その間は完全にこれから何をするのか忘れていた。何時の間にか、ちょっとした広場になるぐらい草木は倒されていた。
「このぐらいの広さがあればいいでしょ」
アヤメはそう言うと最後に自分の手前にある雑草達を刀を振りかざし、薙ぎ倒す。するとその奥から、半壊している朽ちた祠が出てきた。
「こんな程度で逆恨みして、人間達に嫌がらせしてるの?器が小さいわね。私がその性格、身を持って正してあげる。」
その台詞をアヤメは祠に刀の切っ先を向け、言い放った。崩れかけ、もう誰にも信奉されてないであろう、その祠に。アヤメは自信に満ちた悪い顔した笑みを浮かべている。
「おいおい、誰もいないけど、あんまりバチ当たりなこと言わない方が……」
――その時だった。
いままで無風だったはずなのに突然、生ぬるい風がオレの頬を撫で、祠に向け吹いた。
地面に舞い落ちた雑草達が再び舞う。気持ち悪い風だ。
そう感じたと同時に祠が白くボヤーっと光る。
確かに光った!イリュージョンか?!
「マジかよっ!」
神を倒すとアヤメが言ってたことに半信半疑だったオレが焦る。幻覚の方がこの場合むしろありがたい気さえする。
「さ、来るわよ」
アヤメがそう言って、祠から間合いをとるように少し後ろに下がる。
白い光が何かのを形作る。
いや、動物の形。
――そう狐だ。
実際の狐ではなく、想像どうりのよく稲荷神社に祀られてるようなあの白狐だ!
大きさも狐そのままぐらいの大きさをした白狐がだんだんと形作られ姿を現す。
その白狐の目は怨み辛みが宿り、ギラギラと鈍く黄色く光りだしている。
「じゃ、倒しに行くわよ」
「えっ。でもどうやって!オレこんなん初体験だし!」
大抵の人間はこんな体験初めてだろうが。
「この刀【神かくし】を使い、武力にモノをいわすのよ」
「や、やっぱり?薄々は気づいてたけど!お札とか聖水とかじゃないんだ。」
「そう言うちまちましたもの嫌いなのよね私。苦手だし。ズバッて斬って、サッパリ解決が私のモットーなのよ。解りやすいしね」
「そりゃそうだけど。なんだか乱暴だな。どちらかと言うとオレ、平和主義者だし。ここは、話しあいの場を設けて和解の道を…」
「やきとりくんは、そこで見てるだけでいいわ。特にすることないし。今までも一人でこなしてきてるから、私一人で十分よ。むしろ邪魔よ、やきとりくん」
「邪魔扱い!?ここまで付き合わされて?来た意味ねーっ!ま、過剰に期待されても困るけど。何もできなさそうだし」
「解ってるなら、下がってなさい。巻き添え食うわよ。故意に」
「故意に巻き添え食らわすのかよ!」
そう突っ込んだものの、ちょっとホッとしたオレ。
アヤメ強そうだし、任せよう!頑張れアヤメ!勝つことを祈ってます!
そう祈ってスルスルっと下がる彦一。
「コーーーンッ!!」
白狐が吠えるっ!そしてスッと立ち上がる!
二本足で!
「二本足で立ってますけど!二足歩行だっけ狐って?何でもアリかよっ!」
ま、神様ならなんでもアリか。
「じゃ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ!」
アヤメ『様』に向かって敬礼するオレ。
きっとそこらへんの自衛隊よりビシッと決まった敬礼したぜ!我ながら惚れ惚れするね!
アヤメが先陣を切って狐に向かう。
彦一がそれを遠くから見守るの図。
頑張れアヤメ『様』!負けるなアヤメ『様』!
地球の未来はあなたの肩にかかってる!オレの肩には、ほぼほぼかかってない。
そんな一生懸命な応援を心の中でしてると、戦闘が始まりだした。
先制したのはやはりアヤメだ。
妖刀【神かくし】を左下から右上に流れるように斬り上げた!
それを軽快なフットワークで紙一重でかわす白狐。そしてすかさずカウンターパンチを繰り出す!
さらに息をもつかせず続け様に連続してジャブを繰り出した!
「ってボクシングスタイルかよっ!」
思わずツッコまずにはいられなかった。
それにボクシングスタイルだろうと元々は原寸大の狐体型。カウンターパンチだろうが、ジャブだろうが、アヤメとのリーチの差は歴然。
アヤメにそれらのパンチは全く届いてなかった。
……のように思っていたのだか。
アヤメの方が、何故か気圧されてる。
白狐がジャブを繰り出す度に、【神かくし】を縦に横にと振りかざし、避けている?
全く届かないはずの白狐のパンチを。
しかも防ぎきれないように時々、アヤメの顔がゆがむ。まるでダメージを受けてるかのようだ。
どー見ても白狐のパンチは届いてないのでダメージを受けるようなことはないはずだが。
いや、実際受けていた!
月明かり越しによくよく見ると、アヤメの頬に切傷が浮かんでいる!
あの白狐に会う前には当然、アヤメにそんな傷なかったし、間違いなくたった今、白狐によって負わされた傷であることは間違いない。
あの白狐、隠し武器でも仕込んでるのか?刃物的な隠し武器を。
白狐の連続攻撃にアヤメは後ろに飛んで一旦間合いをとる。さらに白狐に対峙しながらもじりじりと後退するアヤメ。
狐はドヤ顔で余裕のファイティングポーズをとり、シャドーをし始めた。しかし、追い込んで攻めてはこなそうだ。
アヤメは若干苦しそうに眉間にシワ寄せている。アヤメはそのまま後ずさりしながら彦一のところまで後退し、白狐との距離を置いた。
「あ、アヤメ、大丈夫?」
「どさくさに紛れて、私の崇高な名前を呼び捨てにしないで」
ちっ。バレたか。
そのままなあなあにして、当たり前に呼び捨てで呼べるようにしちゃおうと思ったのに。
「あの白狐はどうやら直接打撃を私に当てようとはしてないようね。あのパンチから繰り出される真空の刃……そう、カマイタチが繰り出されているんだわ」
狐なのにカマ″イタチ″って。
「でもどうやらあの祠に縛られているのか、一定距離以上は自由に来れないようね。だから今も追撃してこなかったんだわ」
確かにここまで白狐は追って来ない。
祠の前でこちらの様子を伺っているかのようにオレらを見つめているだけだ。時々シャドーボクシングしながら。
「確かに来なそうだね。でもこちらもこの距離じゃ攻撃できなくね?」
「その通りよ。今のままではね」
何か遠くからでもあの狐にダメージ与えられるような遠距離攻撃方法はないものか。
「…遠距離攻撃……あるにはあるわ」
「マジで!呪文唱えて魔法攻撃的な?」
「似たようなことはできなくもないわ。成功したことないけど」
「成功したことないのかよ!ダメじゃん」
「はなからそんな間接的な方法好きじゃないから、覚える気なかったのよ。やっぱり最後は自分の手でトドメを刺したいじゃない?ねぇ?やきとりくん」
台詞の最後なぜか活き活きとした瞳でこちらを向くアヤメ。
「敵あっち!敵はあっちですよアヤメ様!」
「敵は意外と身近にいるのがミステリーの定石よ」
「この状況でどんな定石だよ!何も不可思議な事はないぐらい明確で明白でしょオレが味方なのは!」
「怪しいものだわ。事実、このたった一日で私は何百回と妄想視姦された事か。」
「百回は超えてません!じっちゃんの名にかけて!」
そーいやじっちゃんと呼べる親族に会ったこと一度もないけど。
「何十回かはあるのね」
「そこは、潔く認めよう!」
正直者な彦一だった。
「潔い変態ほど、穀潰しな鬼畜はいないわ。やはり死を持って妄想視姦したことを償ってもらうしかないようね」
【神かくし】の切先が狐からオレに向けられた。
あ。ヤバイ。死ぬかも。
アヤメの表情が狐の時に戦ってる時よりも真剣な表情をしてる。
そんな時だ。
向こうにいた白狐が動いた。白狐は、思い立ったかのごとく不意に相手もいないのに遠くからアッパーを繰り出した。
ブワッ!!
そのアッパーを繰り出された瞬間、一迅の風オレを襲った。
気がついたら彦一の左肩が切れている!軽く彦一の肩から血しぶきが舞う。
「ぐわっ!痛ってぇっー!」
「直接は移動できなくても、ああいうふうにカマイタイチで遠距離攻撃もできるってわけね。一旦、白狐の視界から私たちが見えなくなるまで距離を置いて、あの白狐を倒す作戦でも立て直すわよ」
「う、うん」
彦一は素直に従い、肩を抑えながらアヤメと一緒に走って逃げた。
その間も白狐は連続アッパーをかまし、遠距離カマイタチ達は文字通りヒュンヒュンと空を切る。彦一は、負傷した肩を押さえながら、白狐の姿が見えなくなるまで走って逃げた。
攻撃はやんだ。
なんとか、白狐の攻撃範囲の外まで逃げきれたようだ。安堵ともに肩の激痛が蘇る。
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