第6話(旧3話) ワールドワイドな友達付き合い始めました。
ヘリから降りてきた、やはり黒スーツなお付きの方は4人。さっき乗って来た人達とは、違うようだ。だってガタイがさっきの人達より、倍近く大きいもの。
こえー。明らかに一人黒人系外人混ざってるし。
「お嬢様、護衛に参りました」
お付きの方の一人がアヤメに近づき言った。
「別に護衛にいらないのに。私が強いの知ってるでしょ?」
なんて傲慢エゴイストな女だ、お付きの方もお相手大変だね。心痛み入るねぇ。
「十分承知しております」
アヤメの返答に丁寧に答える護衛。
「じゃ、いらないでしょ。帰っていいわ」
「……いえ、そう言われましても我々も任務なので」
そのやり取りを見てた黒人系の護衛の一人が他のお付きの方とは違い、笑顔でアヤメに近づきながら言ってきた。
「お嬢様、ご機嫌ようでーす!いちよう我々、アヤメお嬢様の身の回りの世話役的なキャラ設定だから、ここで帰されると、うちらのキャラが立ちませーん。ここはひとつ、お側に居させてくださーい」
「キャラ立ちしないとか言っちゃった!」
思わずツッコんでしまった。日本語ペラペラだな。
「ナイスツッコミ!やきとりクンッ!」
黒人のお付きの方がサムズアップをオレに向けた。それなりにオレのツッコミに理解があるらしい。
つか、お付きの方々までオレはその通り名で通ってんのかよ!しかもクンが片仮名だから、からあげクンみたくなってるじゃないか!
「…そうね。キャラ立ちは大事だものね。だったらいいわ。それじゃしっかり護りなさい。あとお風呂と食事の用意をお願い」
「かしこまりました」
護衛の方、全員でそう答えた。
「でもどこで用意すんの?」
「そこにあるじゃない」
良くみると森林用迷彩色テントらしきものが、すぐそこの木々にまぎれてた。つか、こんな大きな設営テント初めてみたかも。デカすぎて逆に気づかなかった。
あれ?ここで野宿的な?
彦一は叫ぶ。
「オレの超豪華料亭の宿的な宿泊プランは?芸者やコンパニオンの舞い躍りは!フカフカベッドは!」
「あるわけないでしょ。目的と関係ないんだから。何を考えてるの。やきとりくん、あなた、息するだけ酸素の無駄遣いだわ」
「息もしちゃいけない存在かよ!」
オレの考えどころか、存在自体全否定かよ!
……でもご指名で罵られると、ちょっと胸が高鳴るのは何故だろう。
「しばらく、やきとりくんがやる事はないわ。やきとりくん用にあっちにテント用意してあるから、そこで休んでなさい。食事の用意できたら、私の護衛が呼びにくるわ。それまで自由時間ということで」
「アヤメと一緒じゃないの!?」
「いきなり一緒じゃ、つまらないでしょ。色々な弊害があった方がより萌えるというものよ?」
「なるほど!」
無駄に納得したオレは、颯爽とオレ用に用意してくれたテントに入った。しかし、モノの数分でやることは特になく、メシまでまだ時間がありそうだったので、横になってゴロゴロしていた。そのうちつい、ウトウトと寝てしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「…やきとりクン。やきとりクン。食事の用意、出来たね!食べれるねー」
歩いた疲れもあったのかぐっすり熟睡してたらしい。いつのまにやら、オレのテントに入って来ていた、キャラ立ち気にしていた先ほどの黒人の男に起こされていた。当然、色気もなんもない。ここは、アヤメが起こしてくれる展開なんじゃねーの?
「カレーここにおいとくよ。食べたら、声かけてね。そしたら、食器さげに来るからー」
テント内は、カレーの香りが充満していた。
寝起きにカレーかよ。食事も豪華でもなんでもなくフツーにカレーかよ!
「やっぱアウトドアといったらカレーね!美味しいよ!」
聞いてないのに黒人の男はそう言ってニカッと笑った。
「……カレーか。ありがとうございます。では、食べ終わったら、また声かけますんで」
寝ぼけ調子でそう答え、カレーに近寄ったオレは、なんとなくその黒人の男に聞いてみた。
「そういや、アヤメは?」
「なかなか、いいとこつくね、やきとりクン!」
何が?
「アヤメお嬢様なら、今、お風呂タイムよ。ポロリもあるよ」
「ポロリどころか風呂なら全裸じゃねーか!つか、お風呂タイム?お風呂タイムだとーーっ!」
「そう、丁度アヤメお嬢様は、お風呂タイムねー!んじゃ、そのカレー食べたら教えてねー」
黒人の男はそう言って彦一のテントから去っていった。
ぐおー!アヤメがお風呂に入ってるだとーっ!色んなところ拭き拭きしてるだとーっ!覗きてーー!
でも、間違いなくバレたら即死は確実だろうな。いや、仮にオレがフェニックスであるところの不死身な体ならば、死にはしないか。
……多分。死ななくても死ぬぐらい痛い思いは確実にするだろう。
しかし!ここは覗くしか選択がないといっても過言ではない!覗きフラグ立ちまくりだよな!でもどうやって?死ぬぐらい痛い思いは嫌だし。そんな初体験はしたくない。どうする?どうする?どうする?
ここは、まず冷静に妄想……いや、シミュレーションして万全な体制で臨むのが無事生還する確立が高くなるというもの!よし、まずはシミュレーションだ!来い来い来ーい!イマジンの神よ降りて来ーい!
あ、その前にお風呂がある場所を確認せねば。
彦一は、テントの外に出て、辺りを見回す。湯気が出ているテントを発見する。周りからは、見えないようテントが囲ってあるので、あのテントで間違いないだろうとターゲットのテントを確認した。
まずは、風呂が設置してあるあのテント迄をどう攻略するかだな。窓がないからなー。ここはあえて、冷静かつ大胆になにくわぬ顔で、サラッと入り口の手前まで通過。テントに入り、脱衣して、オレも風呂に入る体制万全で何も知らず、風呂入りに来ましたーモードで浴室の中へ。そこで全裸のアヤメと遭遇。一瞬お互いの時が止まる。
その瞬間、ほんの数秒のめくりめく情景を眼に焼き付けろ!眼から煙が出るぐらい焼き付けろ!その後、全裸のアヤメに蹴飛ばされ、踏みにじられても、オレがよけー萌えるだけだぜ!これなら死ねる価値がある!よっしゃ!完璧やで自分。
……ってんなわけねぇー!
第一、お風呂テントの前の護衛の方々をそんなんでクリアできるわけねーし。仮に入ったとしても、アヤメの着衣があるわけだからそこで気づけよって話だよな。アヤメの着衣、アヤメの着衣……。
それが拝めただけでもよしとしよう!それで満足。むしろそれが目的。
あれ?目的入れ替わってない?
つか、その前に護衛どうクリアしよう?あー!どこでもドア欲しい!スケスケの実でもかまわない!でもそんものはないし。現実とは時としてなんと残酷なことだろう。
そんな感傷に浸っている場合ではない!現実と向き合え!そして、攻略するのだ!このフラグを!でもどうすれば?どうする?どうする?どうする?
護衛の方々に賄賂を差し出すにも何も持ってないし、武器もないから戦うこともできない。
いや、待て。解らないときは、小学生の先生もこう言っていた。解らないときは相談するのよ、と。ここは、護衛といっても男同士!腹を割って話し合えば、必ず解ってくれる!この男のロマンを!
よしっ!ここは男らしく、正直に悩みを打ち明け、語り合い、解ってもらった上で通してもらうのが筋だろう。ならば、思い立ったが吉日、行動あるのみ!即、実行だ!
あ、その前にカレー食おう。まず体力回復だ!
「美味っ!なにこれ美味っ!」
オレはやたら美味いカレーをかきこみ、いざ、未開拓の領域、トレジャーワールドにいざ出発だ!
彦一は、お風呂セットを抱え、自分テントを飛び出す。お風呂テントは、彦一のテントから3つ奥のテントらしいことは、先ほど確認した。コソコソせず、堂々とそこまで歩きたどり着く。
お風呂テントを目の前に、彦一は宣言する。
「あえて言おう!覗きに来たとっ!」
男らしく、犯罪じみたことを言ってみた!いや、確実軽犯罪発言。そこには、さっきカレー運びに来た黒人の黒スーツの護衛が立っていた。
つか、お風呂場の護衛お前かよ!さっきオレを起こし、カレー渡してたときの間の護衛はよかったんかい!
「おお!今時なんと勇敢で正直者な少年だ!感動した!ここは通っていいぞ!」
黒人の黒スーツの護衛がそう言い放った。
「いいんかいっ!お風呂の護衛じゃないの自分!」
「それならば、その男らしい発言とまっすぐな瞳に完敗さ、友よ」
……意外と理解のある男だった。こ、こんなあっさりと通るとは。
つか、男らしさってなんだろ?
「ならば話が早い。ここを通してもらうぞ!ありがとう!恩に着る。せめて名前を聞いておこう!」
「私の名前はボブね。よろしくね、やきとりクン!無事、生還を祈る!Good luck!」
「Tanks! I’ll be back!」
男の分かり合えた瞬間だった。これからは、ボブのことは、心の友と呼ぼう!
他の遠くにいた護衛の方々も手出ししないようだ。むしろサムズアップをこちらに向けているぐらいだった。大丈夫かここの護衛役達?
うおー!未知なる地を塞ぐ扉よ、我にその地の景色を与えたまえ!いざ開かん!
意気揚々とお風呂テントの入口を開けようとする彦一。その未知なる道を塞ぐ扉を開こうと瞬間、勝手にあちらから開いた。
歓迎されたのか!?
「あら。あなたも入るの?どうぞ。意外といい湯加減よ。…それともこの私の裸体を覗こうとしたのかしら。やきとりくんの割にはいい度胸してるわね」
アヤメにガッツリ冷たい視線を送られた!こ、ここはなにか良い言い訳を考えなければ!
「てへっ。間違えちゃった」
何も考えずに言ってしまった。
「遺言はそれでいいのね?」
そのアヤメの台詞を最後にしばしの記憶がない。
人間、思い出したくないような残酷な記憶はぽっかり抜けるよう作られているようだ。
感心する…。
◆◇◆◇◆◇◆◇
どれぐらい時間が経過したんだろうか。気づいたらテントの中で横たわっていたようだ。
ぼんやりした意識で眼はテントの天上を見上げようとゆっくり開く…。
はずだったが、ただならぬ物凄い殺気を感知したオレ。
「うおっ!」
と、わけも解らず叫びながら、無我夢中で体をねじり転がり起きた!さっきまでオレが横たわっていたと思われる位置に振り返って見ると、そこには見とれて吸い込まれそうな妖しく光る刃物の煌きがそこにあった。アヤメ『様』御所持の刀の切っ先がそこに。
「そろそろ出掛ける時間になっちゃうよぅ、もう。いい加減起きてってばー」
とその刀を持ち主は、おっせかいな幼馴染の女の子が言いそうなセリフを無表情で言う。そして、再度機械的に刀を振り上げる。彦一という目標を定めながら。
「ねぇ、起きてってばー。起きなよー」
その刀の持ち主こと、アヤメは声をかけても起きない相手にちょっと困り顔の幼馴染の女の子がいいそうなセリフを再度無表情で言い放ちつつ、手に持った刀で閃光を迸りながら、もの凄い速度で彦一目掛けて振り落とす!
「そんじょそこらのホラー映画よりこえーわっ!」
彦一は、間一髪寸でのとこで難を逃れた。危うく、起き掛けに命を落とす彦一だった。
つか、もうガッツリ起きてるし!
「いや、やきとりくん。仕留められてるわよ。私に」
「仕留められてたんかいっ!」
…起きがけに命を落としていたオレだった。
END
「…ってんなことあるかーーっ!」
「おはよ、やきとりくん。こんなに劇的可愛い美少女の私にやさしくソフトに起こされてかなりご満悦のようね」
「自分で劇的可愛い美少女と言っちゃった!」
「そりゃもう、魔法少女であるところのメインキャラ的な劇的可愛い美少女よ」
「だったら寝起きドッキリは、魔法少女の方でお願いしたいわ!しかもあの猟奇的な恐怖の寝起きドッキリで、やさしくソフトなら、ハードだったらどうなってたんだ!」
「遠距離射撃用SPR Mk12ライフルであなたの心臓を狙い撃ちよ」
「近くですら起こしてくれないと!しかもそんな遠距離精密射撃を目的とされる銃器で心臓をガッチリ標的にされるのか!」
めちゃ恐えーよっ!この魔法少女であるところのメインキャラ的な劇的可愛い美少女(自称)が。
「さて。スッキリ起きたとこで、そろそろお出かけするわよやきとりくん。行く準備でもしなさい」
そう言われて彦一の腕時計をみる。時計の針達は丑三つ時をさしている。
真夜中だ。
「こんな夜中にどこ行くんだよ」
といいながらもでかける準備をするオレ。付き合いいいなぁ、オレ。ま、準備って言ってもテントから出て靴を履くぐらいだけど。
「真夜中ハイキングよ。ついでに神退治もよ」
「ついでかよ!神退治」
神退治が今回の目的であるところのメインではないんかい!つか、今回はと言うと次回もありそう。
……え?!あるの?
「次回があるかはどうかは売れ行き次第ね」
「…そりゃまたシビアだね」
つか、なんの?
「世の中思った以上シビアなのよ。それだけ世の中甘くないのよ。やきとりくんがこれからの成長の過程で世間の荒波に揉まれる前に、私がやきとりくんの骨が微塵になるまでを揉んであげるわ」
「世間の荒波の方がやさしく揉んでくれそうだ!」
「それじゃ、やきとりくんのこれからの将来の方向性も決まったところで出発しましょ」
こうして、山頂の目的地まで真夜中のハイキングが決行されることとなった。
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