第5話(旧2話) 外泊し始めました。
ヘリから降りたアヤメは、ヘリの風がうざそうに髪を掻き揚げてる。そのアヤメの前に一緒に乗っていた黒スーツの男が近寄って来た。
「お嬢様これを」
「そうね」
そういって黒スーツ姿の男から古めかしい長細い和柄の布袋と複数ホルダー付の革ベルトをアヤメは受け取った。
リコーダーかなんかか?それにしてはちと長いか。フルートぐらいはあるぞ、その長さ。
アヤメはその布袋の紐を解き、おもむろにその中身を取り出した。
中から出てきたのは短刀?だった。日本刀の鞘がある刀だ。脇差し又は小太刀とも言うのだろうか。アヤメはそれらを受け取る腰にベルトを巻き、その装着されたベルトにその刀らしきものを差した。
間違いなく銃刀法違反だ。なぜか様になっているのは、アヤメがかもし出す凛とした雰囲気のせいだろうか。
「それではご武運を」
黒スーツの男は、かしこまってお辞儀をする。
「ええ。ご苦労様」
挨拶を交わした黒スーツの男は、またヘリに乗り込み、そしてヘリとともに去っていった。
到着した場所は、これまたオレの住んでいた村といい勝負のド田舎というのが相応しい、山間部の村らしきところだ。そんな中、彼女と二人っきり。ヘリが降り立ったのに、野次馬一人周りには、いない。誰もいない。
彦一は思う。
まさかの二人きり。これは思わぬアレな展開フラグが来るのか!どういうタイミング、シチュエーションでくるのか、今のうちに妄想して予習だ!
「やきとりくん。あなた今一瞬、私をオカズにして卑猥な妄想しようとしなかった?」
んぐっ。妄想する前に釘さされた!恐ろしい。
「んな、んなことするわけないじゃん?オレこう見えて紳士よ紳士。ジェントルマンだぜ?」
なんとか乗り切ろうと適当にごまかした。
「次、私をオカズに妄想しようとしたら、命、絶つわよ。あなたの」
そういって、アヤメはそっと刀の柄に手を掛けていた。
「妄想しようとしただけで殺されるのかよ!つか、してないしてない!するわけないじゃん」
「ならいいけど」
この女こえー。今、心底震えたわ!ガクブルだぜ。
とりあえず、彦一とアヤメは、周辺探索をすることにした。
しかし、この村、うちより田舎チックなところだ。ガチでド田舎だな。いちよう街らしきものもあるがマックもケンタもなさそうだ。ファストフードあっても全然人入らなそうだもの。というかなんとなく活気がないというか……。ぶっちゃけ街全体が辛気くさい陰気な印象をなんとなくするなぁ。なんて言うか……なんだか終わってる。
その印象はどんどん歩くにつれ、さらに色濃いものとなった。
外には人どころか、犬や猫すらいない。駅もあるけど駅員が見当たらない。無人駅だろうか。
ほぼほぼゴーストタウンに近いと言ってもいい。よくよく見ると人が居ない訳でもない。店らしい建物の奥に主人らしき人達はチラチラ見えるけど、客がいなのでその店にも活気は全くない。つか、この街全体がやはり活気がない。
「街が活気を失ってるわね。ま、あんな後じゃ仕方ないわね。」
アヤメも彦一と同意見らしい。
「あんな後?」
「ここはつい3ヶ月前から、穀物から感染する謎のウィルスが蔓延して、何十人もの死者がでたそうよ。ニュースで見たことあるでしょ?」
確かにそんなニュースがあった。そのニュースをぼんやり見てた彦一は、ぼんやりと思いだす。
そーいや、ニュースメディアも当時その話題で持ちきりだったっけ。それが日常茶飯事になると当たり前のニュースになって、あまり最近じゃ、とりだたされなくなってきたな。オレも正直、大変だなーって他人事のように流し見してたな。当たり前になると人間ってそれに慣れてマヒしてくるもんだよね。ホント人間って残酷だよなぁ。
未だに当事者は苦しんでるのにメディアは話題性がなくなれば取り上げなくなるし、ニュースを見た人間も他人事にはそのうち関心がなくなる。しかもオレもそのうちの一人。これは当事者の方々に謝り倒しても詫びきれない。
なんか、そう思うとすごい罪悪感が生まれてきた。当事者の皆さんは、まだまだ苦しんているだろうに。
自分の嫌な部分を嫌でも知ってしまった彦一。
何に懺悔すれば許してもらえるんだろう。ホント申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた!どんな事言っても陳腐な言い訳にしかならない。自分で自分にガッカリだ。
「そんなに、反省してるならあるわよ。少しでもそんな自分の気持ちが軽くなる方法」
「どんな方法なん?つか、また心読まれた?!」
テレパシストか!
「元を絶ちにいくのよ」
「元って?」
「神よ。いえ、元神?ううん、邪心に堕ちた神?堕ち神?いや元から悪い神もいるから、この場合……。まぁ、いいわ。堕ち神で。面倒だし」
「面倒って言っちゃった!」
最後適当に折り合いつけちゃったよこのアヤメ『様』は。
「とりあえず、その神を倒しに行くのよ」
「神様倒しちゃうの?!つか、神様って本当にいるのかよ!」
いたら、なおさら倒しちゃマズイような。バチ当たるっしょ。
するとアヤメは右手の親指だけ立て、それを自分の胸に向け、威風堂々言い切った。
「いるわよ。ここに」
「ある意味、神発言キター!」
どんだけ自信家だよ。自分中心に世界が回ってる発言に等しいよ?
「そこまでの驕りはないわ。やきとりくん知ってる?日本には古来から八百万の神が存在するのよ。さしずめ、私もその中の一人ってとこね」
でもやはり神と同格なんだ、このアヤメ『様』は。
「役目を忘れて私利私欲に走った神を正すのが私達の仕事よ。私が神なんだから、神が神の悪事を征してなにが悪いの?人が人を裁くように神は神が裁くものよ?」
たしかに正論だ。彼女が神であることが前提ならばの話だが。
「そんな神様達のいざこざに巻き込まれようとしてるオレは何をすることができるんでしょうか?」
とアヤメが神前提であるという事で下手に聞いてみる彦一。
「そうね。せいぜいやきとりくんはこの私の使い魔ね。特に期待してないけど、頑張りなさい」
もうなにこの宗教妄想不思議少女は。話が壮大過ぎて着いてけないわ!つか、神様の使いなのに使い魔ってどうなの?
「まだ話が上手く飲み込めてないんだけど。つか、期待してないんかい!いや、されない方が幸せか?」
「ま、そのうち解るようになるわ。慣れでしょ。慣れ」
軽くあしらわれた。慣れるのか?なんか慣れたくない気分。こんな話に慣れるのって……。
「とりあえず、もうここの調査レポートは読んだし、粗方目標の『堕ち神』の場所のメドも着いてるし。一度、休憩できるとこで休憩しましょう。今日の泊り場所でね」
「お泊まりキター!待ってました!今日の為にわざわざお泊まりセット一式買い揃えたぜ!どこの豪華旅館?」
「豪華旅館より、いいところよ」
「なんと!さすがアヤメ様!交通手段もヘリだし、さすが金持ちは違うな!なんかワクワクしてきた!オラ、ワクワクしてきたぞ!」
しかもこの展開はアヤメと二人っきり的な!?お付きの人もヘリで帰っちゃったし。旅館が豪華だろうとそうでなかろうと思春期全開なオレにとってはこのうえなくラッキーなシュチュエーションでしょ!
ありがとう神様!アヤメ様!
ちょっとこのあとのシチュエーションを妄想……いやいや、シミュレーションしてなるべく粗相せず、全てのフラグ総立てだ!ヒャッホー!目標は一夜限りの!一夜限りのだー!
「もう妄想終わったかしら?」
「……はい」
途中でバッサリオレの妄想、いやシミュレーションはアヤメ『様』の言葉で打ち切りされた。ま、でたとこ勝負もありだよね!
「じゃ、宿にむかいましょ」
「でしっでしっ!」
アヤメは、スマートフォンのナビゲーターを見ながらスタスタ軽快に歩き始めた。
――そっからほどよくあるいて1時間半。おおよそ民家は周りに見当たらない。
つか、1時間半歩きっぱなしはありえないっしょ!
最初の楽しい妄想は時間とともにそぎ落とされ、最後の方には「まだ?まだなの?」の繰り返しだった。アヤメにキレられるとちと期待(?)したが、意外とそのたび「もうすぐよ」と冷静かつアバウトに返された。そして。
「ついたわよ」
そう言われて周りを見渡せば、ちょっと開けた場所ってだけでなんもない、大きくも小さくもない山の麓だった。
「今日はここでお泊まりよ」
「や、野外プレイ?!」
ちょっといきなり野外とは!想定外だぜ!ハードル上げ過ぎじゃない?でもまだ真っ昼間だよ?しかもなんもねーし。全て丸見えだよ!
「大丈夫、事前に準備はしてあるわ」
なにー!そんなお心遣いまで!さすがアヤメ様!年上は違うなー!
その発言から数分、遠くの上空からバラバラと音が近づいた。
聞き覚えがある。なんなら数時間前に。こっちに来る時に乗ってきたヘリが再びオレの目の前にやって来た。
「お付きの方々再び!?」
そして予想通り、轟音と共にヘリ到着。
オレの初野外プレイの夢を返せーーー!
……心の中で叫ぶ彦一だった。
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