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フェニックス始めました。  作者: シオアジ
〜第1章〜 出会いからの保食神 編
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第2話(旧1話) 出逢い始めました。



初めて見る顔だな。


そりゃ、そうか。女の子がこの家に来ること自体初めてなんだし。

 その同い年ぐらいの女の子とチラッと眼があったのですれ違いざまにオレは「どうも」程度にさりげないお辞儀したが、お辞儀し終えて、もう一度その子を見たときにはこちらには興味もないのか、すでにそっぽ向かれていた。


 清楚な感じの端整な顔立ち。可愛いというよりは綺麗といった感じで全体的にどこか大人びた雰囲気を醸し出していた。髪は胸のあたりまで長さでストレート。スレンダーな体型で、あの胸のふくらみ具合はCカップというところか。

 こういう雰囲気の女の子をクールビューティというのだろうか。


 うん。ぴったりだなその表現。


 などと眼が合って、お辞儀するまでの刹那な時間に、オレの脳内スカウターはそう分析していた。


 いや、今度はホント。ホントだよ?


 ホントうちの玄関先にいたんだよ。特にメイド服やら、猫耳やら、羽が生えてたり、アンドロイドチックな萌え要素はまったく身に着けてなかったのは残念だけど。


 ただその彼女が同い年ぐらいだと認識したのは、ロイヤルミルクティー色のブレザーに赤地に黒と黄色のチェックが入ったスカートのどっかの名門学校の制服らしいものを着てたからだ。制服コス好きでなければ、同い年だろう。

 でも実際、19歳や二十歳ぐらいが制服コスしても解らないっちゃ解らないけどね。


 ブレザーの中の白のブラウスの胸元には赤いリボンをつけている。でもどちらかと言うとまだセーラー服の方がオレ的には萌えるんだが。


 あとメガネな!メガネ!


 でもメガネっ子って顔がカワイイ前提の上でのメガネ装着だからこそ萌えるんだよ!

 メガネ掛けてりゃなんでも良い訳じゃないってことだよね?



 そんな脳内分析と妄想をしていたオレを他所にその女の子は玄関先に出てきたうちの親父に挨拶していた。その女の子を出迎えてたうちの親父はオレを見かけて声を掛ける。


「おう。彦一お帰りー。今日も学園生活満喫したか?その顔じゃ相変わらず、してなさそうだな。あ、おやつならせんべいそこの居間にあるぞ」


「ただいま」


 と一言だけ親父に返答する。

 相変わらず、今日も白タオルを頭に巻いて、紺色の作務衣を着ている。家では年中だいたいこの格好だ。



 先に話しとくとオレはこの親父と二人暮らし。どうやら、母親がオレが生まれた後すぐに亡くなったらしい。そう親父に聞かされている。

 物心とやらがついた時にはすでに母親はいなかったのでオレにはそれが当たり前だからなんとも思わないけど。

 母親がいなくて近所の大人達からはよく不憫に思われるけど、それが馴れてて当たり前の生活をしてきた訳だから当の本人は意外となんとも思ってなかったりして。

 いや、そう思ってられたのは、実際のとこ、うちの親父が母親代わり分も色々とカバーしてオレを育ててくれてたんだろうけど。素直に認めたくないけど、それには感謝せねばなるまい。ちきしょう。


 

「つか、それを知ってるってことは、お嬢ちゃんは高天原たかまがはら家の方かな?」


「はい。私は高天原アヤメといいます」


「やっぱりそうかぁ。どことなくそんな雰囲気持ってると思ったよ。よくこんな辺鄙なところまで来てくれたね。歓迎するよ」


「お遣いで来ただけなんで歓迎してもしてくれなくても構いませんが。とりあえずさっさと例のものご用意していただけます?」


「なかなか淡白に言うねー。ま、払うもの払えば、此方もすぐにでも用意するけど。でもいつもは、若い兄ちゃんがそれ買いに来てくれてたんだけどなぁ。そういや最近来ないけど、その兄ちゃんは元気してる?」


「……ああ。兄のことですか。兄は仕事上でトラブりまして、こちらには来れなくなったので、代わりに今回は私が来ました。ご理解して頂いたなら、さっさと例のものよこして下さい。お支払いはいつも通り致しますので」

 

 

どうやら商売の話を二人でしているらしい。二人の会話は帰ったあとすぐに居間でくつろいだオレにも聞こえてくる。

 オレはいつも帰宅後、何もなければ着替えず制服のまま、特に必要もないのにテレビをつけ、居間に寝そべるのが習慣づいている。学生じゃなきゃニートだな確実に。


 その会話を聞きながら(ま、聞きたくなくても聞こえてくるし。)、親父が言ってたせんべいを口にした。


「なんだこれシケってんじゃん」


 ま、オレの好きなサラダ味だし、我慢して食べてやろう。つか、サラダ味って野菜的な味要素一個もないんですけど。なんでサラダ味って言うんだろ。後でググってウィキあたりで調べよう。



 あ、そうそう。


 うちの親父の商売とは、自称漢方医で自称薬剤師という怪しい親父が作る怪しい薬を主に販売して生業としてる。

 どーでもいいけど、昔はその怪しい薬を売りによく親父と遠出をしたり、薬の材料を取りに色んな土地に連れまわされたものだ。オレが中学の頃、親父はものすごい設備投資をして、ネット販売を手がけた。それがまた残念ながら大当たり。大ヒット御礼、ネット売上全国ナンバー1。

 おかげで楽天なんぞ2年連続ドラッグ売上ランキング1位!お客様満足度まで1位だよ!

 つか、なにやっての楽天!賞を上げてる場合じゃないよ!軽く薬事法にひっかかってるよこの親父!早く通報して取り締まって貰っちゃって!


 そんな感じでその商売のお陰でうちの親父は小金持ち。こんな寂れた田舎町には似つかわしくない、サイバーテロでも仕掛けられそうなパソコンやらサーバーやらの良く解らんIT設備と怪しい薬の在庫で家の中はいっぱいだ。

 ま、オレもその恩恵を受けて最新パソコン3台ぐらいあるけど。

 パソコンを駆使したエロサイト見放題なのは、このオレにとってかなりのメリットだ!

 お陰で友達そっちのけで(いないけど。)速攻で家帰って検索するぜ!プチ引きこもりと言っても過言ではない!甘んじてその称号受けよう。

 そのパソコンに関してだけ言えば、感謝しよう。褒めて遣わすぞ。


 ありがとう!エロサイトを立ち上げた先人達!

 って感謝するのそっちかよ!


 仕切りなおすと、今来てる彼女もその薬の取引の関係で来てるんだろう。たまにそういった人達が直接うちに訪問しに来るのを度々見るし。

 ただ、女子高生が家に訪問しに来るのは今回初めてだな。

 

 玄関先では未だに親父と女子高生の会話が続いてるようだ。



「へぇ、そうなんだぁ。そんで、お嬢ちゃんが代わりにねぇ。つーことは、仕事の方もだよねぇ?」


「そういうことになります。兄とは、仕事のやり方が違うのですが、結果的にはやる事は一緒ですから」


 その年でもう仕事してるのかよ?大変だねー。お疲れさん。とオレは寝そべり、なんの内容かよくわからん特に感心もないテレビを見ながら心の中で彼女に敬意を表す。


「そりゃ大変だねぇ」


「いえ、家の仕事ですから」


 なんだ。家の仕事か。家事手伝い的な?


「なるほどねぇ。あ、そうそう。そういやあ、その兄ちゃんにホントは今回から依頼しようと思って話は通してたんだけど代わりにお嬢ちゃん引き受けてくれないかな?」


「それは……仕事依頼ということでしょうか?」


「まぁ、そうなるかな。そしたら今回分はタダでプレゼントしてあげるよ!」


 うちの親父が逆に仕事依頼とは珍しい。



 と、そんなことを思っていたらその彼女に背を向けた親父はオレがいる居間にズカズカとやって来た。

 居間にいたオレは父親にグィッっと服をつかまれズルズルと引きずられ玄関にいる彼女の前に差し出された。

 なんだなんだ?あっけにとられているオレを余所目に親父は


「んじゃ、ハイ!これがその依頼。うんうん、取引成立ってことでいいかな!はいこれ、コイツの取説ねー。なんかわかんないことがあったら、一番下にオレの連絡先書いてあっから連絡ちょーだい。んじゃよろしくぅ。あ、あとこれ今回分ねー。」


 と言い、一枚の紙と取引依頼だった小包を彼女に手渡す。オレも彼女も一瞬キョトンだ。


 そして親父のこの突飛な行動に対してオレの残念な思考はフル回転する。


「んあっ!?つか、オレの取説ってあるんかい!しかも薄っ!これペッラペラですよ!お父様!」


 とりあえず、理解できた箇所にツッコミを入れたオレ。もっと他ツッコむとこあったよ!


「はぁ……」


 彼女はそんなため息混じりの疑問符を発し、未だに理解が出来ない様子のまま、もしくは理解はしたけど呆れたまま、オレの父親に渡された取説と称した紙を読んだ。



 2秒程で。


 なんかそれはそれでガッカリな気分になる。オレの人生の取説は、2秒で読み終える程度なんだ…。


 しかも読み終わった彼女、無表情だよ!なんの感情も感想もないの!

 質問とかないの?なんなら作るよ質問コーナー!もっとこうそれ読んでガンガン喰いついて!もっと欲しがって!

 じゃないとオレ、心折れそうなんだけど!


「えーっと、つまり私の仕事にこれを連れてくってことでしょうか?」


 彼女は一瞬、オレに冷たい眼差しを向け、心の中で叫び喘いでいるオレを無視する形で親父に視線を戻し質問した。どうやら、オレよりもこの状況を理解したらしい。


 つか、これ扱いかよ!感じ悪いな、この女子高生。人をモノ扱いするとは。


「飲み込み早くて助かるわ!つまりそーゆーこと。お嬢ちゃん、頭脳明晰だねぇ。これなら安心だ。良かった良かった!うははっ」


 親父の言葉を聞いた彼女はやや冷めた口調でキッパリと


「失礼ですけど、ただの荷物になるだけなんで、お断りします」


 と言い放った。


「まぁまぁ、そう言わずにぃ。使いどころによっては、コイツ役立つんだよ。ちゃんともっかい取説見てみてよ。それに元々、あんたの兄ちゃんとは話はついてて、今度来たときにはって約束してたんだから。あの兄ちゃんは快諾してくれてたよ。今度は必ずって。今更その約束事を来た人が違うからって破るのは常識からはちと考えられないなぁ。こっちはちゃんと約束してるんだからさぁ」


さらにうちの親父が捲したてる。


「それとも何?お嬢ちゃんは、そんな常識は知ったこっちゃない。兄の約束は兄のしたことで、今この場にいない人の話を私にされても困る。私には関係ないとでも?それでもお嬢ちゃんはあの義理堅い律儀なご家族の一員なのかねぇ。兄ちゃんが聞いたら悲しむぜぇホント」


 彼女の断りに対し、後半は完全にヤクザな手口で捲し立てる父親だった……。



 そんなセリフを吹っかけられた彼女は、怒りの表情も困惑ぎみな表情もみせるわけでもなく何か思慮深く、父親が取説と言い放った紙ペラ一枚を再度じっと眺めた。

 しかし、その後やっぱり興味がなくなったのか制服のポケットから白いスマホを取り出し、やたらといじりだした。

 いちよう親父の連絡先でも登録してんのか?


 つか、そんなことよりもだ!


「つか、待て待て待てぇーい!なんの話かサッパリなんだけど!なになに?どういうこと?この女の子とオレは一緒に同行してその『仕事』とやらをオレが手伝わないといけないわけ?つかそこにオレの意志意向は関係ないのかーっ!そんな話今まで聞いたことねーし!それにまさか、まさかだよ?さっきチラッとツッコミしてサラッと流されたようだからもう一度言うけど、その女の子に今さっき渡した紙ペラ1枚がオレの取説ってわけじゃないだろーなー!」


「そうだよ?何か不満でも?」


「不満だらけじゃーっ!てめっ!このボケ倒し親父!オレの15年間とちょっとの淡くて切ない甘酸っぱい思い出一杯の人生を紙ぺら1枚で簡潔に完結してんじゃねー!」


「まぁまぁ、そんな怒るなって。どんな人にもオマエを扱えるように分かり易く、かつ丁寧に書き綴ってあるんだって。それが取説ってもんだろ」


「ゲーム機の取説だって何ページかはあるわ!携帯なんて何百ページあんのよ!分厚すぎて読む気すらしないわ!携帯会社ももうちょっと取説を読むこっちの立場を考えて取説作れ!お客様は不満ですよ!クレームですよ!この分厚さは!今じゃサイトで説明書PDFをダウンロードすりゃ、いいんだろうけど!つーか、あの紙ぺら1枚が、仮にオレの取り扱いについての説明が記載されてる取説だとすると、オレはなんかの商品扱いか!オレは商品なのか!どっかで売ってるのか!どこのどーいう店で売ってるんだ!オレも欲しいぞ!もう一人自分が欲しいぞー!ぜひ教えろー!」


「私はいらないわ」


「いらないのっ!?」


 彼女のサラッとした一言に声にならない憤りと切なさが同時に込み上げてた。

 他人に気持ちよく拒否られるって、めっちゃ傷つくよね……。


 ホント、ショックやわー。


「まぁ、でも兄が約束したのなら仕方ないわ。かなり気が乗らないけど引き受けましょう」


 え?引き受けちゃうの?


「そーこなくちゃ。さすがお嬢ちゃん、気風がよくて割り切り速いねぇ。そーいう、迅速な決断力はこれからの人生、必要だよ。うんうん」


「つか、なになに?この急展開?急すぎて訳わかんねーし、納得いかねーよ。そこにオレの意志はないのか!まず、仕事したくないぞオレは!むしろこれからも仕事しないぞ!ニートを希望するぞー!仕事に就いたら負けだと思うんですよね。ってネトゲ世界での賢者な方々が言ってたし!」


「諦めろ、彦一。これはお前が生まれた時からの決定事項だったんだ。昔々の伝説の勇者様の始まりのように。それはある少年が16歳の誕生日の日の朝に母親にこう言われたところから始まるんだ――

『きょうは とても たいせつなひ。このひのために おまえを ゆうかんな おとこのこ として そだてたつもりです おしろ いって おうさまに あいさつ するのですよ。』とね」


「それって、エニックス、現・スクエアエニックスであるところの普及の超名作、ドラクエ3~そして伝説へ~のオープニングじゃねーか!」


 オレの的確なツッコミも無視して親父の話は続く。


「そしてお城につくと王様はこう告げるのさ。『てきは まおうバラモスじゃ! 打倒バラモス!倒せ!蹴散らせ!虐げろ!虐殺だ!そしてワシの目の前で跪かせ、ひれ伏させるのじゃー!その日からワシが新生魔王としてこの世の中を牛耳るのじゃ!刃向うものは全て処刑じゃ!うは、ウハ、ウハハハハハハーッ!』ってね。そんな感じで彦一も決まってる運命ってことで」


「後半、完全にその王様が悪だよね!つか、その王様完全に病んでるよね?そんなんでアリアハン治められるの!アリアハンの行く末が心配でたまりません!」



 そんな感じで訳のわからんまま言いくるめられて、彼女、高天原アヤメの仕事を手伝う羽目になってしまった。

 なんの仕事なのかまだその時点ではさっぱりだったけど。



 結果的に、この彼女の仕事とやらを手伝ったお陰で知りもしなくていいことも知ってしまった。

 この世界のとりまいている出来事や彼女のこと。


そしてオレが知らなかったオレ自身のことも。







閲覧して下さりありがとうございます!

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