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坊主にした理由

作者: ぷく

「おお、思いきったな」

 私の頭を見ていわれた。

「目線が頭に集中してるよ」照れと苛立ちから言ってやった。

「……うるせぇな。坊主にして、仕事に影響ないのか?それに、何で坊主にしたんだ?」

 なぜか眉をひそめ、そして、鋭い目つきだ。

「仕事の方は、大丈夫だった。小言をいわれるのを予想していたんだけどね。……昔より緩くなったのかな?」

「と、いうより、髪型として認知されてきたってことじゃないか? それにお前、営業じゃないだろ。ま、とりあえず行こうぜ」と、いって歩き出したので、私もついて行く。

「うん。それは感じる。古株の人はどう思っているのか解らないけど、若い人の反応はお前と似たようなものだったよ。さすがに頭、撫でてはこなかったけどね」

「そりゃそうだろ。あ、そうだ。ちょっとコンビニに寄ろうぜ。寒いしな。……んで、何で坊主?」

「あぁ。おもしろいからだよ。それにおもしろくなるように、だ。ま、坊主じゃなくてもよかったんだけどね」

「なるほどね、お前らしい」と、いって彼は笑った。解ってくれたようだ。さて、目的地は彼の家なのだが、その前にちょっと寄り道だ。


 彼の家に行くのは久しぶりだ。彼が結婚をしてからは行っていないので、五、六年ぶりになる。道を忘れてしまったため、駅で待ち合わせをした。道は、駅から三方向に伸びており、右が西で、左が東。私たちは南へ向かった。ちょうど『⊥』の形だ。

 彼の提案をうけ、コンビニへと向かっている。駅から南への道は、商店街になっているのだが、あまり活気がない。いくつかの十字路を通った。『+』の形だ。そして、T字路になったため、右へ向かう。『T』の形。私はこのようにして道を覚えるのだ。人にいわせると変な覚え方らしく、また、そんな人はいないともいわれたことがある。だが、あまり気にしていない。ただ、この覚えかたには弱点がある。工事などがあると、道が解らなくなるのだ。とても困るのだが、今はGPS機能付きの携帯があるので問題ない。


 今は、西へ向かっている。この道は左へ緩やかにカーブしていて先が解らないのだが、途中、右手側にセブンイレブンの看板が見えるのでそこへ向かう。寄り道だ。私は店の方へ向かったのだが、なぜか彼は店へ向かわず通り過ぎた。『Y』のような流れだ。

「寄らないの?」後ろから声をかけてあげた。

「ああ」と、頭をかきながら振り向き、

「この先のローソンに行く」といって、前を向き歩き出した。百メートル先くらいに小さく看板が見えた。


 寒いので、あったかい缶コーヒーと中華まんを買った。彼も店を出てきた。ちょっと行儀が悪いが、彼の家へ歩きながら食べる。歩きながら食べるとおいしく感じるのはなぜだろう。そういえば、もう一つなぞがあるので、そろそろ聞いてみる。

「なぁ。なんでローソン?」彼は、またしても頭をかきながら、

「いや。まぁ、なんだ。その、実はな……」と、はぎれが悪い。

「奥様が、な。パンの袋に付いてるシールを集めててな。シールを貯めて送りつけると、皿が貰えるとか。俺は皿なんか欲しくないんだが、協力させられて、だな……」


 けなげである。袋を見ると、色々な種類のパンを買ったようだ。彼の飲んでいるお茶にもシールが付いているが、関係はないだろう。

 協力をしないと彼の奥様に、機嫌が悪くなる、冷たくなる、会話が続かなくなる、などの症状が現れるらしい。

「見てないから解らないけど、勘違いじゃない?」

「いや。そんなことはない」断言された。


 寄り道もすみ、彼の話ではコンビニから近いらしく、いよいよ本命に近づいてきた。そういえば、見たことあるような景色だが、どこも似たようなものだろう。道なりに三百メートルくらい歩いたかな。

「ここだ。」

 見ると外装は白だが、月日がたっているためかくすんでいる。

戸数がどれだけあるのか、まだ解らないが気にしない。

「あ。マンションの左隣、空き地になっているだろ」

 と、指でさした方向をみると、『空き地』と書かれた看板がたっている。そこの敷地には建物は建っていない。

「ああ。それが?」

「そこは、薬局だったんだけど、三ヶ月くらい前につぶれてな。」と、いってマンションへ入っていく。オートロックを鍵で開け、通路を奥へと進んでいく。

「それで?」

 エレベーター前で止まった。『上』のボタンを彼は押した。

「いや、まぁ、ここに引っ越してきた時には、薬局は建っていたんだが、それがなくなった訳だ。で、さっき空き地を見たら……お前の頭みたいだなー、って思った。それだけ」と、奴はニヤ気顔でいった。

 エレベーターが到着。奴は乗り込んだ。

「……」

「……」

「……」

「乗ってくれよ」

 けなげである。


 六階で降りた。部屋は六0三号室らしい。私は、年賀状などというものは送らないので住所を覚えていない。メールでよい。

 部屋の前に着くと、カレーの香りがした。彼の住まいからかどうか解らないが、確率は高い。彼はチャイムを押した。数秒後、ドアが開いた。

「はーい。あっ、おかえり。あら? こんにちは」

 彼の奥様だろう。主観だが綺麗な方だ。それにしても、私がお邪魔することを彼女に話していなかったようだ。

「こんにちは」と、彼女に挨拶を返した。

「ま、入ってくれよ。あ、パン買ってきたぜ」なぜか、自慢げだ。


 玄関からリビングへ案内された。一言でいうなら、おもしろい部屋、だろう。整理整頓されているのだが、何しろ物が多い。CDやDVD、小説、おもちゃ各種が並べられている。普通の人が持っている量の三、四倍ぐらいはあると思う。ここで言う普通とは、一般的にとしておこう。それにしても、やはりおもしろい。

 彼の奥様とは、結婚式いらいあっていなかったので、自己紹介をした。彼女も自己紹介をしてくれた。名前は『まこ』という。漢字が解らない、というと『真子』と教えてくれた。その間、奴はニヤ気顔をしていたが、あまり気にならなかった。

 じゃあ、といって、真子さんはキッチンの方へ向かっていった。残った私と彼で、主に情報交換をした。映画や音楽、小説の話だ。とても楽しい。


「夕飯はどうします? 食べていきます?」と、真子さんが聞いてきた。どうやら、結構、時間がたっていたみたいだ。時計を見ると三時間くらいたっていた。楽しい時は時間が早く過ぎるような気がする。

「あれ? もうそんな時間か。そうだな、食べていけよ」と、彼も誘ってくれたので、食べさせてもらうことにした。

「そうする。因みに、メニューはカレーですか?」

「あれ? やっぱり解りました?」

「ええ。カレーは大好物なんですよ」

「じゃあ、がんばらないと。さっそく、支度してきますね」

 ホホホホホという感じで、彼女はキッチンへ向かった。なかなかチャーミングであるが、今からがんばっても料理は変わらない気がした。料理以外のことにがんばる、ということかもしれない。


 リビングのテーブルの上には、サラダやほうれん草のおひたし、福神漬けなどがならんだ。和風の皿が使われていてよい感じだ。そこへ、真子さんが、カレーを運んできた。よい香りがして、見た目もよくおいしそうだ。

「お口にあうかどうか……」

「いえいえ。そんな偉そうな口じゃないですよ」といって食べる。おいしい。

「おいしいです」

「ありがとうごさいます。」笑顔になった。彼女も食べ始めた。と、ニヤ気ているであろう奴を見てみると、カレーに夢中だ。奴もカレー好きなようだ。

 真子さんがテレビを付けた。丁度、ニュースの時間だ。私はテレビを見なくなったので久しぶりに見る。おもしろくないのとそんな時間がなくなった為だ。ニュースは相変わらずだ。これなら見なくても、ネットでよいと感じた。


 ニュースの趣旨が変わり、今日の出来事などというものに変わった。『今日、二月四日は、立春です』と、ニュースキャスターがいった。どうでもよい。

「ほー。立春か」しかし、奴は反応した。

「立春ってことは、暦の上では立夏の前日までが、春ということだ」

 私も奴もカレーを食べ終わった。まったりとする時間だ。

「だから何? 知識自慢?」

「違う。春ってことは、これから暖かくなり、花が咲くいい季節だ。違うか?」彼は、何がいいたのだろうか?ただ、嫌な予感がするので軽く流し、話題を変えようと思う。

「まぁ、そうだね。それよりも違う番組みよ……」

「よかったな。これから、お前の頭にも春がくるぞ」いい終わらない内に、かぶせてきた。

「……無関係。相変わらず、くだらないね。……ただ一言いわせてもらえば、これで三回目だぞ。いい加減にしてくれ」

「お前は、仏か?」どうやら、奴は喧嘩を売ってきているらしい。

「ちょっと。あなた三回もこんな失礼なこといったの?」カレーを食べ終えた真子さんが、突っ込んできた。

「え? あ、いや。お前余計なこというなよ」なぜか私に文句を付けてきた。文句をいいたいのは私のほうである。

「どうなの?」

「どうって……まぁ、いいじゃない」奴は少し、押され気味だ。

「ごまかさない。よくはない」ふむ。真子さんに任せることにする。

「……うるさいな」

「そう。それは、失礼。でも、あなたが悪いのよ」

 これは、よいシステムを発見したようだ。真子さんがいると奴は大人しくなるみたいだ。覚えておこう。しかし、真子さん。少し怒りすぎなのではないだろうか?

「おい。何がおかしいんだよ」どうやら顔に出ていたらしい。彼を見ると、バツの悪そうな顔をしている。気の毒に。


 楽しい日だ。これからも楽しくなるよう努力をすべきだ。これは、蓋を開けてみて、やはりそうだ、と思える。……ふと。テレビ番組は、バラエティーに変わっていた。仕事とは解っているが、うるさい、と感じる。だから気になったのかも知れない。それにしてもだ。そこまでおもしろくはなく、方向を間違えていると思える。……いや。そこまで言い切れないか。もしかすると、こうだという答えは無く、グレーなのかも知れない。もう少し考えてみよう。

「おい、何『我、関せず』みたいなおとぼけ顔してんだよ」

「えっ? あ、いや。そんなことないよ」

「そうですよ! ひどいことをいわれたんですよ? もっと怒ったほうがいいんじゃないですか?」

 えっ? なぜ、私が怒られる? それに真子さん、怒りすぎ。

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