ネモフィラ
朝から降り続けるごく浅い雨は
少しだけ春の吐息を連れていた
冷たくもなく温かくもなく
ただやわらかい雨だった
春はいつもすんなりは来ないけれど
梅の花が咲き
やがて桜の花が開き
チューリップが揺れて
卒業やさよならや初めましてを
彩ってくれる
寒い日も暖かい日も共にしながら
春はうまれる
花に興味はあまりない
花の名前もよく知らない
母は小さな庭で我が子のように
小花を愛でていたけれど
私には出来なかった
小さい頃お気に入りの長靴を履いて
レンゲ畑を駆け抜けた
白詰草で首飾りや王冠を作った
タンポポの綿毛をふぅーと吹いた
空は青かった
きっと私は笑った
一人ぼっちで居た堪れないとき
近所のおばさんがお花見に行こうと
私の手を引っ張った
桜並木の土手に着いたら
そこは桜吹雪が舞っていた
もう散ってゆくだけなのに
それが美しくて
さみしさは花びらと散っていった
花はいつも近くにあったのに
それを忘れていた
青空をぎゅっと固めたような花
道端に咲いていたあの花の名前を
知りたくなった
ネモフィラ<瑠璃唐草>
春になったら
私はあなたを見つけたい
道端に咲く青空を……
愛でてみたいな
ネモフィラの花言葉は「成功」「愛国心」「可憐」「私はあなたを許す」などだそうです。