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のじゃーさんと僕の怪奇譚  作者: 鹿角フェフ
ふノ巻【以津真天】
22/31

エピローグ

 あの事件より暫く経ったある日、僕は事件の疲れを癒やすために自室にてゴロゴロしていた。

 本日は皆そろって特にする事も無く暇を潰している、今はジャンケンで負けてしまった新妻さんとのじゃーさんがアイスを買いに行っているのでことりちゃんと二人で悠々自適にお留守番だ。

 僕がクーラーのよく効いた快適な部屋で機嫌よく雑誌を読んでいると、先ほどまでポコモンを必死に遊んでいたことりちゃんがふと思い立った様に質問してくる。


「そう言えばパネ田さん、あの工場跡に居た人達はどうなったのですか?」


 事件の当日発見した死体。彼らに関しては流石に僕がそのまま通報してしまうといろいろと疑われ面倒になってしまう為、師匠を通じて通報してもらった。

 僕が所属する結社は、何故かそっち方面のツテがある訳で、そこはうまい具合に対処してくれたと先ほどあらましを記したメールがあった。

 まったく、普段はまったく助けてくれないのに、こういった時だけは仕事がはやいんだから……。

 僕は放任主義な結社に少しだけ憤慨しながらことりちゃんへと答える。


「うん、結社の師匠が上手くやってくれてね。無事……と言っていいのかどうか分からないけど、荼毘に付される事になったよ」

「それは良かったです、ことりも安心しました。けど……あの人達に何があったのでしょうか?」


 ことりちゃんには珍しく、少しだけ悲しそうな表情をしながら、彼女は彼らについて問うてきた。

 その件についておおよその事情は連絡されている。

 僕はことりちゃんにももちろん知る権利があると、自分が知り得た情報を全て答える。


「まだ詳しくは捜査中らしいけど、どうやらあの人達は工場を経営していた会社の社長一家らしくて、肝いりで建てたはずの工場が景気の悪化で閉鎖、それに伴って会社も倒産しちゃって将来に悲観して……って感じらしいよ」


 ありきたり……と言ってしまえばそれまでだが、それが彼らが死んだ全てだ。

 まるでドラマの様だ、だがドラマと違うのは彼らはもう戻ってこなくて、そしてそれは何処まで行ってもフィクションではなく現実であると言うことである。


「そうですか……ことりはあまりよく分からないのですが、残念でしたね」

「そう、残念な事件だったよ」


 魔術師なんて事をやっていると、少なからずこういった霊現象にぶち当たる、そしてその原因はいつだって悲惨で理不尽な物だ。

 僕は今までの人生で何度目かになる、言いようのない無力感に苛まれながら、ことりちゃんに力なく答えた。


「でもことりは今回の事件で大活躍したので、パネ田さんに沢山アイスを買ってもらえるのです、ことりは頑張りましたね。グローバルです」


 ことりちゃんはいつだって元気だ。彼女のお馬鹿ですぐに物事を忘れてしまうミニマム脳みそは、それはそれはデメリットであるけれども、その変わり彼女の持つ明るさと前向きさはそれにも増すメリットでは無いのだろうか?

 その様に僕は思いながら彼女の突拍子の無い行動を懐かしむように思い出すと――。

 いや、まて。思い出したぞ、ちょっとこの小鳥ちゃんには説教をしなければいけないと思っていたんだ!


「む! そう言えばことりちゃん! 君なんてあの時あんな無謀な行動を取ったんだい!? 皆に迷惑をかけたばかりかことりちゃんも危ない所だったんだよ!」


 そう、あの時とは以津真天に特攻した時の事である。

 無謀な行いは時として命によってその代価を支払わされる、場合によってはことりちゃんに最悪が待ち受けていた可能性もあるのだ。

 僕はその事を十分に理解しながら、いつもとは違う真剣な表情で彼女を見つめると強く咎める口調で彼女を問いただす。


「あう……えと、その……、ことりはグローバルなので……」


 どうやら彼女も自分がやった事がいけない事であると言う事は分かっているようだ。

 僕が指摘した途端、しまったと言った表情を見せると、途端に歯切れが悪くなりボソボソとうつむき加減になりながら答える。

 もちろん、そんな誤魔化しで許す僕ではない。


「ハッキリしなさい!」

「ひゃうっ!」


 机を強く叩く、ドンと強い音がなり、その音にびっくりしたことりちゃんが驚いた表情で声を上げる。

 よくよく見ると彼女の瞳には涙が溜まっている、普段では見ることのない珍しい表情ではあるが僕だってこういった事をしたい訳ではない。ただ、次同じことがあった場合、同じく無事であると言う保証は何処にもないのだ、それを彼女に理解して欲しいだけだ。

 僕はことりちゃんの瞳をしっかりと見つめ逸らさない。

 その様子にことりちゃんも観念したのか、泣きそうな声色でオズオズと語りだす。


「うう……ことりはパネ田さん達にご迷惑を掛けたくなかったのです。これは本来ことりに命じられた務めなので、パネ田さんやのじゃーさん、ニイヅマーを危険な目に合わせるのは申し訳ないと思って……」


 上目遣いで、どこか僕の機嫌を伺う様子で語られる言葉。

 その内容に思わず勢いをそがれる。


「皆ことりの話しをちゃんと聞いてくれて優しくしてくれるので、お友達がいなくなるのは嫌だったのです……」


 俯きながらそう語ることりちゃん、畳にポタリと水滴がこぼれ落ちた。

 強く言ってしまった事を反省する、なんだか僕が悪いみたいだ。けど……、ちゃんと叱っておかないといつ不幸が起こるか分からない。

 僕は心を鬼にして彼女の注意しようとするが……。


「ごめんなさい……」


 小さく泣きながら謝る彼女に負けてしまった。


「むぅ、そんな言い方されたらこれ以上怒れないじゃないか……」

「お、怒ってもいいですよ? ことりはパネ田さんになら抵抗せずに怒られますので」


 泣いているせいか、ひゃっくりをしながらそう答えることりちゃん。

 いくらしっかり注意しなければいけないとは言え、僕にはこれ以上ことりちゃんを悲しませる事なんて出来ない。

 僕は今だに涙をポロポロとこぼすことりちゃんに心底困りながら、努めて優しい表情と声色で最後に一言、お願いする。


「もう、仕方ない子だなぁ。じゃあ今度から決して一人で突っ走ったりしないって約束してくれる? ことりちゃんは僕の大切な友達なんだよ? ことりちゃんがそんなだと僕も、それに皆も心配しちゃうからね」

「……っ! はい! ことり約束します! 絶対約束破りません!」


 ことりちゃんの手を取り、そう慰めるように伝える。

 どうやら彼女も僕のお願いを理解してくれたのか、その表情をいつもの様に輝かせると、元気よく返事をしてくれた。

 よかった、やっぱり女の子は泣いているより笑っていう方がいい、僕はことりちゃんを悲しませてしまった事を反省しながら、彼女をより元気づける為に声をかける。


「そっか、ならOK! この話は終了! さ、そろそろのじゃーさんと新妻さんがアイスを沢山買ってきてくれる頃合いだよ!」

「楽しみですね、ことりはカロピス味が食べたいのです!」

「そうだね、好きなのを選ぶといいよ」


 今泣いた烏がもう笑う。ことりちゃんの場合は木菟(みみずく)かな? どちらにしろ喜ばしい事には変わりない。

 彼女は僕に許してもらえた事がとても嬉しかったらしく、ゴキゲンでその可愛らしい頭を左右にフリフリ、鼻歌を歌っている。

 僕もその様子に満足しながら、再度雑誌に目を通すのであった。


 ……それから十数分が過ぎた。

 相変わらずことりちゃんはご機嫌だ、鼻歌の内容がどんどんアップテンポになってくる。

 しかもだ、どうやら彼女は僕に叱られて許してもらった事もそうであるが何より大切な友達であると言われた事が大層うれしかったらしく、ひっきりなしに僕の袖を引っ張ったりツンツンしたり、ニコニコとチョッカイをかけてくる。

 ぶっちゃけ鬱陶しい。だが流石にこんな楽しそうなことりちゃんを咎める訳にもいかず、ほっぺたをウリウリされながら、仏の心で雑誌に目を通す。


「パネ田さん、ことりのおっぱいを触らせてあげましょう!」

「……んん!?」


 発言は唐突だった。

 相変わらずウリウリと僕にチョッカイを出していたことりちゃんであったが、何を思ったのか僕の真正面に座ると、勢い良く手を挙げて謎の宣言をする。

 僕はこのアホの子が何を考えているか、まったく予想が付かなかった。


「ことりは考えたのです。優しいパネ田さんになんとか恩返しをしないといけないと! そこで思い出しました、ことりはパネ田さんのおっぱいを触りましたがパネ田さんはまだことりのおっぱいを触っていませんでした。不公平です!」


 テンションは両極端だ、片や天を衝かんばかりに、片や地を穿たんばかりに。

 もちろん前者がことりちゃんで後者が僕だ、温度差が激しすぎる。

 僕はとても良いことを思いついたとばかりにその豊満な二つのチョモランマを押し出してふんぞり返ることりちゃんに冷静にツッコミを入れる。


「いや……あれは冗談で言っただけで、別に触らせないといけないものじゃないんだけど」

「おっぱいは怖くありませんパネ田さん!!」

「え?」

「おっぱいは怖くありません、逃げていては駄目です! 克服しましょう!」


 ことりちゃんの中ではまだ僕はおっぱい恐怖症らしい。

 僕はこの人を疑うと言う事を知らない純粋な子に眩しい物を感じながら、さてどうしたものかとゆっくり誤解が解けるように答える。


「うん、別におっぱいは怖くないんだけどね……」

「ささ、ことりのおっぱいを触るのです! するとどうでしょう、パネ田さんのおっぱい嫌いが治ります!」

「いやー、本当は大好きなんだけどね! ってか流石にことりちゃんのおっぱいをこんな感じで触るのは気が引けるんだけど?」

「早くするのですパネ田さん! おっぱいが逃げてもいいのですか! このヘタレパネ田さん!」


 僕は煽られた。

 本当はおっぱいが怖いんだけど、ヘタれて怖くないフリをしているダメ野郎と言うことらしい。

 ことりちゃんはご機嫌だ、おっぱいを両手で揺らしながら、ヘタレヘタレと僕を煽ってくる。

 むむむ、流石にそこまで煽られて黙っている僕ではない、これはことりちゃんにオイたの罰を与えないとね。


「そこまで言うのかい? じゃあ……」


 ニコニコと笑顔のことりちゃんの肩に両手をかけ、彼女が不思議そうな表情を見せるその瞬間。


「あっ……」

「押し倒されても文句は言えないよね?」


 優しく彼女をその場に押し倒す!

 ふふふ、どうだいことりちゃん! 流石にびっくりしただろう? これに懲りたらちゃんと僕の話を聞くんだよ。

 僕は彼女がどんな言い訳を慌ててしてくるだろうかと内心ほくそ笑みながら、彼女の表情をよく観察する、だがしかし。


「……ことりちゃん?」


 何故かことりちゃんは僕の予想とは裏腹に、目をぎゅっと瞑りながらフルフルと震えていた。


「あの、あの、これはパネ田さんだから許しているのであってことりは普段は鎖国中なのです……」


 なんと! ことりちゃんからOKサイン来ました!

 単に僕にじゃれついているだけかと思っていたのだが、どうやら男前すぎる僕はいつの間にかことりちゃんのフラグをこれでもかと立てていたらしい。

 もちろんここで僕が引くという選択肢はない、添え膳食わぬはなんとやらとも言うし、なによりことりちゃんの決意を無碍にする事はできない。

 僕はそう決心すると、彼女の頬を優しく撫でやりながら囁くように答える。


「じゃあ僕がことりちゃんのペリーになってみせるよ……」

「ああ、ことりはパネ田さんの黒船で開国してしまいます……」


 ことりちゃんは既に開国の準備が出来ている様だ。

 歴史的瞬間がやって来る。この日、古い時代は終わりを告げ、新しい時代が幕開けるのだ。

 そして、僕はことりちゃんの二つにたわわに実った出島に、両手と言う名の黒船で砲艦外交をしようとしたまさにその瞬間……。


「たっだいまなのじゃ――ぎゃわーーー!!」

「どうしたの、のじゃーさ――きゃああああ!!」


 勢い良く子猫ちゃんと子狐ちゃんが帰宅した。

 ……えらいこっちゃ。

 今、僕はことりちゃんを押し倒しながら、フルフルと震える彼女の出島に手を這わせようとしている。

 完全にアウトだ、どう見ても言い訳はできない、事実のじゃーさんと新妻さんは、僕らの様子を見てそれはそれは驚いた様子で騒ぎ始める。


「ね、寝取られたのじゃ! 妾の主がことりちゃんのおっぱいでたらしこまれたのじゃー!」

「はははは、羽田君!? 何やってるの!? 私のおっぱいで克服するんじゃないの!?」


 ワタワタと喚きながら大声で騒ぐ二人。

 僕は内心滝の様な汗をかきながら、それでもその動揺を悟られまいとゆっくりとことりちゃんから身を離して座り込み、しばし無言でここから抜け出す策を思案する。


「あ、ニイヅマーにのじゃーさん、おかえりなさい。アイスのカロピス味はありましたか?」

「それどころじゃないのじゃ! この泥棒ね……泥棒木菟!」

「何で!? 何で!? 何がいけなかったの!? どこで選択をミスったの! やっぱりあの時ちょっとだけでも触らせてあげれば良かったの!?」


 ことりちゃんは相変わらずマイペースだ、先ほどの出来事よりもアイスが気になるらしくごく自然な様子で二人に訪ねている……いや、頬が少しばかり紅いな。

 僕はそんなことりちゃんの様子を冷静に観察しながら、取り上げず開口一番自らの保身に走る。


「ふぅ、落ち着いて二人共。これは誤解なんだ」

「ギルティなのじゃ! 完全無欠の現行犯なのじゃ!」

「弁明を要求します羽田君! 今日という今日は許しません! 私達が納得するまで説明してもらうよ!」


 だが効果なし! 全くもって二人は聞く耳を持ってくれない。

 僕は普段からの行動がここ一番で彼女達の不信を買っている事を酷く理解しながら、それでもなお自らが悪くないと声を上げる。


「まぁ、なんていうかね。一言で言うなら僕は悪くない」


 必殺開き直り。僕は状況証拠だのなんだのを一切投げ捨てて、只々己の無実を訴える手法に出たのだ。


「「有罪!!」」


 一瞬で判決が下った、出来れば弁護人を用意する時間を与えて欲しい。

 次に取る手は必殺知らないふり、僕は怒れる二人の女の子が、その怒りをある程度収めるまで窓の外から見える景色を楽しむことにする。


「ことりちゃんもことりちゃんだよ! どうしてそんな事になったの!? どうせ羽田君に誑かされたんだろうけどちゃんと断らないといけないじゃない!」

「そうなのじゃ! 主は隙あらば女の子にお触りしようとする変態だから気をしっかりもたないと駄目なのじゃ!」


 いつまで経っても話を聞かない僕に業を煮やしのか、新妻さんとのじゃーさんは今度はことりちゃんへとその怒りの矛先を向ける。

 だがどうした事か、マイペースことりちゃんは平然と炎に油を投げ込む。


「でもことりからおっぱい触るように誘いましたよ?」

「どえらい事になってるのじゃ!」

「そんな! ことりちゃんも羽田君の事が好きになっちゃったの!?」

「パネ田さんはことりのペリー提督なので今まさに開国されようとしていたのです」

「意味がわからないよ!」


 ことりちゃんは何故かドヤ顔だ、自信満々に答えている。

 その様子に新妻さんとのじゃーさんが驚愕の表情を見せる、もちろん僕もだ、この発言で僕の無期懲役刑は確定した様な物だからだ。

 もうシャバとはお別れですね。僕は心のなかで血の涙を流しながら、これから怒れる二人をどうやって落ち着かせるか頭を痛める。


「主! 主! なんとか言ったらどうなのじゃ! さっきから黙ってどういうつもりなのじゃ!」

「そうだよ! なんなの開国って!? 二人で日米和親条約でも締結する気だったの!?」


 ついに僕に矛先が戻ってきた、どうやらことりちゃんでは埒があかないと判断したらしい、全くもって正しい判断だ。

 だが方針は既に決定している、僕は逸らしていた顔を彼女達へと向けると何食わぬ顔で平然と答える。


「落ち着き給え、ハニーちゃん達」

「落ち着け無いよ!!」

「そうなのじゃ!!」


 激おこだ。もしかしたらプンプン丸かもしれない。

 もちろんそうであっても問題無い、僕は早速自らの作戦を実行に移すため、とてもとても困った表情を作りながら、ぼんやりと呟く。


「うーん、困ったなー。僕はこんなガミガミ怒っちゃう女の子は苦手だなー」

「「えっ!?」」


 ふっふっふ、いい感じに慌てている! やぁ、子猫ちゃんと子狐ちゃんは本当に素直な子ですね!

 僕の呟きに慌てた表情を見せる二人、多分今頃自分の発言を思い出して慌てているはずだ、もちろん全面的に非難されるのは僕で間違いないはずなんだけれども、僕の言葉がショックだったのかその事に気がついていない。

 うん、この調子だね!


「パネ田さん、ことりは落ち着いたグローバルな女ですよ?」

「ああ! そうだねことりちゃん! 君はなんて魅力的な女の子なんだ! 控えめでお淑やかで、怒らなくて、何より僕の言うことをちゃんと聞いてくれる!」

「えっへん! ことりは凄いでしょう、もっと褒め給えー」


 ことりちゃんも知ってか知らずか、ナイスなフォローを放ってくれる。

 僕はその言葉に満足しながらことりちゃんだけを見つめ言葉を返す。


「あ、あの……羽田君?」

「ちょ、ちょーっと妾達も話を聞く前に言い過ぎたかなーって」

「え? 何? 何か用ですか? 唯の知り合いの新妻さんとのじゃーさん?」

「「うっ!」」


 くっくっく、餌に魚が喰らいついてますよ!

 僕は途端に青い表情をしながら慌て出す二人をチラリと見ながら、勝負の天秤が急速に僕の方へと傾いている様を感じとる。


「お? ことりは何でしょう? お友達でいいんですよね?」

「もちろん、大切な大切な。友達だよ……」

「やっぱりパネ田さんはことりのペリーでしたね。グローバルです」

「ふふふ、そうだね、グローバルだね」


 ことりちゃんとイチャイチャする。これ見よがし、これ見よがしにだ。

 よく分かっていないであろうことりちゃんは先ほどと同じように僕にツンツンしたりペシペシしたりとご機嫌だ。素晴らしいよことりちゃん! 君がそうやって僕にスキンシップをする度に僕の勝利が確実になるんだよ!

 そして、ようやくその瞬間がやって来たのだろう、のじゃーさんと新妻さんは、僕とことりちゃんの間を割くように割って入るとわぁっと声を上げる。


「私は全然怒ってないよ! さっきのは冗談なんだよ!」

「あっ! さとみんずるい! 妾も一緒なのじゃ! 怒ってなんていないのじゃ!」


 大勝利! やはり正義は勝つのだ! 僕はその事を確信しながら、さらに自らに都合の良い展開に持って行こうと言葉を紡ぐ。


「えー、でも信じられないなー」

「「信じて!!」」

「じゃあおっぱい触らせてくれるかい?」


 さり気なく語る変態的要求、でも今ならば、今ならば成功する予感がするんだ!

 僕はすこしばかりドキドキしながら、二人の返答を待つ、もし怒られたらこれどうしようかな?


「も、もちろんだよ羽田君! どうぞ私で克服してね!」

「そうなのじゃ! その位お安い御用なのじゃ! もっと早く言ってくれればいいのに主ったら水くさいのじゃ!」

「おっぱい祭りですね、おっぱいがいっぱいー」


 完全勝利! やぁ、本当に、本当に皆チョロイ女の子だね!

 僕のテンションは最高潮だ、本来なら怒られる場面からいつの間にか逆転する手腕、もしかしたら僕は詐欺師の才能があるのではないだろうか?

 ついついニヤけそうになる顔、それを必死で押しとどめながら僕は彼女達へと答える。


「ふふふ、やっぱり皆僕の大好きな女の子だよ! さぁおいで! 皆一緒に明治維新だ!」


 頬を赤らめながら、皆が僕の方へとやって来る。ああ、文明開化の音がする。そうして、手を伸ばせば直ぐにでも手が届きそうな場所まで皆がやってきて、ついに僕は……。


「おう、変態野郎。いいご身分だな、何プレイなんだよそれ、上級者すぎるだろ」


 唐突に頭を掴まれる。万力で締められるかの様な痛みと共に背後より聞こえるのはごくごく最近聞いた、非常に覚えのある声だ。


「ご、ごごごごごっさん」


 アイアンクロー。

 先ほどまで絶頂にいた僕は今まさに地に突き落とされんとしている。

 ごっさんはそれはそれは恐ろしい声色で僕の頭を潰さんばかりに締めている、僕もあまりの痛みに上手く言葉が出ない、なんとか振り解こうと藻掻くがごっさんの力には叶わず徒労虚しく終わる。


「なんかあるだろうと思ってたが案の定だな。うちの客人であってもお構いなしに手を出そうとするたぁ。遠見で観察してたジジィ達がカムチャッカなんだけど、どうするよ?」

「ど、同意あっての事だから……。日米和親条約は双方の政府の合意に基づいて締結された正式な条約だから。ペリー悪くナーイデスヨー」


 ギリギリと締められる頭の痛みを必死でこらえながら、なんとか反論を絞りだす。

 僕は暴力には屈しないぞ! 国際常識を無視した横槍はきっと後悔する事になるぞ!


「教えてやれよ、なんて思ってたかよ」

「うげぇ!?」


 思わず無様な声を漏らす。

 あかん、これおじぃ達に考えてる事見透かされている。

 伏見稲荷大社にて宇迦様に仕える最古の狐達、彼らは僕なんかと比較するほどおこがましいほどの力を持っている、きっとそれを用いて僕の素敵作戦を見抜いたに違いない。

 あまりにも卑怯なその仕業に僕もカッとなるが、如何せん頭をキリキリと痛めつけられている為、なかなかうまい方法が浮かばない。

 や、やばいぞ……、これは早急になんとかしなければ、ハニーズにどんな仕打ちを受けるか分かったものではないぞ!


「ん? どうした、さっさと言えよ。大声でな」

「あいだだだだだだ!」

「ほら、言えよ」

「こ、こんな簡単に開国するなんて……、ちょ、チョロイ女の子だなっておぼっでばじだ……」


 僕、痛さのあまり陥落!

 チラリと見た愛しのハニー達は、先ほどまで見せていた困惑の表情から一瞬だけ驚いた表情を見せたかと思うと、今度はその可愛らしい顔に各々特徴的な怒りの表情を浮かべると、僕の事を睨みつける。ことりちゃんですら不機嫌な様子だ。

 あかん、四面楚歌やこれ! バッドエンドですよ皆さん!


「ジジィ共が呼んでるわ。さ、今から逝くか」


 ずるずると引っ張られる。ああ、お説教ですね分かります。

 今度はいつ帰ってこれるかなぁ。僕は諦めにも似た心持ちで、それでいて本当になんとかならないかと、最後の助けを自らの愛しい愛しい女の子たちへと向ける。


「皆、僕を助けて!」

「「「知らない!」」」


 愛しい女の子に理不尽に裏切られ捨てられる僕。

 こうして、ごっさんによってドナドナの如く連れ去られた僕は、伏見稲荷大社にておじぃ達にそれはそれは気が遠くなるような時間ありがたい説教を受けるのであった。

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