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のじゃーさんと僕の怪奇譚  作者: 鹿角フェフ
ふノ巻【以津真天】
16/31

第弐話

 振り返った少女がゆっくりとこちらへと歩いてくる。

 その容姿はどう見てもギャルと呼ばれる部類の物で、文化と歴史を感じさせる神社の建物との組み合わせが酷く違和感を感じさせる。


(おおとり) 琴里(ことり)……さんですか」


 新妻さんが確かめるように名を呟いた。

 珍しい名前だ、多分のじゃーさんと一緒で外向けの名前なんだろう。

 通常、のじゃーさんや彼女の様に霊的な存在はみだりに本当の名前を言いふらすことはしない。名前を悪用して攻撃を行う方法もあるからだ。

 その為、彼ら・彼女らは一様に外向けの名前を使っている。鴻 琴里と言う名前もそういった類の物なのだろう。

 僕がそんな事を考えながら彼女の奇抜な格好を観察し、その異様な出で立ちに戸惑っていると、琴里と言う名の少女は両手でピースを作りながら新妻さんの質問に答える。


「その通りです。私の名前は 鴻 琴里 今は小さな鳥だけど、いつか鷲の様にでっかく、ぐろーばるな世界へと羽ばたきたいなと思っている大国主命(おおくにぬしのみこと)に仕えし木菟(みみずく)の神使です」

「大きいのか小さいのか分からない名前なのじゃー」


 少女は両手のピースをチョキチョキさせながら、相変わらず眠たそうな瞳でそう答える。

 行動に不可解な点が多い、だがしかしギャルなのだからそれも当然であろう。

 もう少しこの少女を観察する必要があると判断した僕は、返事を返すのじゃーさん達を他所に彼女の様子を伺う。


「あ、はじめまして、新妻さとみです、木菟って言うと、(ふくろう)の仲間ですよね」

「梟ではありません、木菟です。梟はかわいらしさアピールですが、木菟はかっこ良さアピールなのです。どちらがよりぐろーばるかは一目瞭然ですよね」


 両手をクロスさせ、バッテンを作りながら少女がどこか自慢気に答える。

 よく分からない答えに新妻さんも困惑したのだろう、彼女はどこか困った様子で話の続きを告げる。


「えっと、いや。どっちもそんなに違いはないと思うんですけど……その、琴里さん」

「む! その呼び方はぐろーばるではありません。もっとふれんどりーにいきましょう! 世界はすでにぐろーばるです、ぜひお気軽に”ことりちゃん”とお呼びください。 ことりも貴方の事をニイヅマーと呼びます!」

「そんなアダ名初めてだよ!!」


 新妻さんの突っ込みが冴え渡る。流石にニイヅマー呼びは承服しかねるらしい。

 なんだか新妻さんってば最近突っ込みキレが鋭くなっていて怖いなぁ。

 僕はそんな余計な事を考えつつも、会話に混ざらず引き続き皆の様子を観察する。


「ことりちゃんめ! 年貢の納めどきなのじゃ! 妾の主が来てくれたからには形勢逆転なのじゃ!」

「年貢? ことりは市民税を納めていませんよ。ちょっぴりワルですね、ぐろーばるです」


 成る程分かったぞ。ことりちゃんはどうやら不思議ちゃんだったようだ。

 その予想通りに、ことりちゃんはのじゃーさんの啖呵に不思議そうな顔をしながら質問を返している。

 これはやりにくいタイプの人だなぁ。と言うか、ぐろーばるの意味が分からない。


「何を訳のわからない事を言ってるのじゃ! 妾の語尾の話なのじゃ! その素晴らしさを主にこれでもかと教え込まれるが良いのじゃー」


 のじゃーさんが自信満々の様子でことりちゃんへと詰め寄って行く。

 その様子は自らの勝利、ひいては僕の勝利を疑っていない事がありありと表れており、僕に向けられるその絶大な信頼に思わず目頭が熱くなってくる。

 だが、そんなのじゃーさんの宣戦布告を裏切るかのように、眠た(まなこ)のことりちゃんは変わらず不思議そうにしている。


「語尾……? 何の話でしょうか? 最近砂漠化が進行しつつあるモンゴルの砂漠でしょうか?」

「うんうん、ゴビ砂漠だよねー。って! 何で妾がそんな細かいボケを拾わなくちゃいけないのじゃ! いいから早く主の話を聞くのじゃ!」


 細かいボケでも拾える所は拾わないといけないと常日頃から僕に教えこまれているのじゃーさんはそれはそれは元気よくノリツッコミをした。

 けどちょっと恥ずかしかったのだろう、頬を微かに朱に染めているのが愛らしい。

 僕はそんなのじゃーさんの朱色の頬と、先程から騒いでしまったせいではだけてあらわになってしまったうなじに無言で視線を這わせる。すると新妻さんがのじゃーさんのフォローに回ってくれる。


「えーっと。ほら、ことりちゃん? のじゃーさんの言葉の最後にのじゃーってついてるでしょ? その事で何かあったんじゃない?」

「おお! 思い出しました、ニイヅマーは物知りですね。そうなのです、のじゃのじゃ喋るのはぐろーばるではありません。時代は標準語、のじゃーさんにはニュースアナウンサーの様な綺麗な日本語を使う事をことりはお奨めしたのです」


 どうやら不思議系のことりちゃんは新妻さんの説明でようやくのじゃーさんへの暴挙を思い出したらしい。

 まったく、なんたる事だ! ことりちゃんにとってはのじゃーさんへの暴言など記憶にも残らぬ大したことのない出来事だと言うのだ。

 僕は沸々と怒りが湧いてくるのを感じながらも、特に何かをするでもなくそのまま様子を見る。


「ふーん! 使うわけ無いのじゃ! その理由を今から主が言ってくれるのじゃ! ことりちゃんなんてギャフンと言わせてしまうのじゃ!」

「それは凄い。とてもぐろーばっていますね! それではそちらの人のお話を聞きましょう。なぜならことりはぐろーばるなので」


 やばい! 話を振られた!

 ことりちゃんは僕の方をじぃーと見ている。眠たげながらも鋭く刺す視線は猛禽類のそれだ、完全に僕をロックオンしている。


「主! 言ってやるのじゃ! 妾の敵をうって!」

(かたき)って訳じゃないと思うけどねー、そういえば羽田君どうしたの? さっきから黙っているけど」


 新妻さんが僕の顔を覗き込みながら尋ねてくる。 僕の様子がおかしいことに気づいたらしい、心配そうな顔をしている。

 僕はそんな新妻さんに曖昧な笑みを返すと、勇気を振り絞ってことりちゃんに向き直る。


「そういえば、そちらの方には挨拶していませんね。こんにちは鴻 琴里です、 今は小さいですがやがて大きくな――」

「わかった、わかったのじゃ! それより聞くのじゃ! こちらにおわす方こそ妾の主、羽田 悟なるぞ! ひかえいひかえい! なのじゃー!」


 のじゃーさんが僕に話を振る。

 くそぅ、のじゃーさんめ! こういう時は僕の気持ちを汲み取ってそっとしておいてくれないといけないじゃないか!

 僕はまったくもって空気を読めない子狐ちゃんに心底失望しながら、ジリジリと後ずさる。


「ほう、パネ田さんですか。パネェ名前ですね、ことりはしっかりと覚えました。」

「覚えれてないよ! ってかどうしたの羽田君、様子おかしいよ?」


 ついに痺れを切らしたのだろうか? 新妻さんが直接質問をぶつけてくる。

 仕方ない、皆には知られたくなかったんだけど……。こうなれば正直に言うしか無いか。

 そう、実はことりちゃんに会った時からそうだったのだ、僕はことりちゃんが……。


「いや……なんて言うか……」

「「「……?」」」


 ぶっちゃけ……。


「ギャル怖い……」

「主よわっ!!」

「えー……」


 ギャルなのでとっても怖かったのである。

 のじゃーさんが間髪入れずに突っ込んでくる。新妻さんは呆れ顔だ。

 だって仕方ないじゃないか! ギャルだよギャル! 怖いじゃないか! 今回は一人だったから良かったものの、これが複数人だったら僕確実に逃げ出しているよ!


「だってギャルだよ! きっとすんごいビッチなんだ! しかもすんごい悪女なんだ!」

「羽田くん、別にギャルだからってそういうのは違うと思うんだけど……」


 新妻さんは控えめに僕の言葉を否定してくる。

 待ってくれ新妻さん! 君はギャルに騙されているんだ! ギャルはそれはもう凄いんだ! とんでもないビッチなんだ!

 僕がギャルの恐ろしさを新妻さんに伝えんとしている最中、ことりちゃんが手を挙げて話を遮ってくる。

 うんうん、行儀よくて宜しいね、なんだいことりちゃん?


「ことりはぐろーばるですが、性関係までぐろーばるではありません。むしろ絶賛鎖国中です、素敵な旦那様と言う名の黒船によって文明開化する日を夢見ているのです、イケていますね」

「いや、違う! きっとそうなんだ! 影では僕の事を笑っているんだ。キッモーい! キャハハ! 童貞だー、みたいな感じになってるんだ!」


 行儀のよろしいことりちゃんではあるが、当然彼女もギャルなので僕の事を童貞だと馬鹿にしているに違いない。

 そうして、いろんな人に僕が童貞である事を言いふらし、気がつけばクラスでのアダ名が童貞になっているんだ! そうしていつの間にか童貞の友達が沢山できているんだ。

 僕はその恐ろしい未来に震えながら、どうやってこの場から逃げ出そうかと考えを巡らす。


「ど!? 変なこと言わないでよ! それに羽田君はギャルになんの恨みがあるの!?」

「主は基本的に偏見と決めつけで物を語るのじゃ! ギャルに対しても別になんの恨みもないけど取り敢えずビッチっぽいからビッチって言ってみてるだけなのじゃ!」


 のじゃーさんが核心をついた言葉を投げかけてくる。

 なんて言い草なんだのじゃーさん! 偏見と決め付けなんてとんでもない! 僕が今まで見てきた雑誌とかDVDとかではギャルは皆ビッチだったんだよ!

 僕は慌ててその誤解を解こうと口を開くが、新妻さんの突っ込みに遮られてしまう。


「迷惑すぎるよ羽田君!」

「ちなみに、あんな事言ってるけど本当は仲良くなるタイミングを虎視眈々と狙っているのじゃ。さとみん、気を抜くでないぞ!」

「うん、分かったよのじゃーさん!」


 もちろん、仲良くなりたいか? と聞かれると答えはもちろん仲良くなりたい。

 だってことりちゃんってばとっても可愛い、……この場合は美人さんかな? 美人さんだし、不思議ちゃんでとっても面白そうなんだよ! ビッチじゃなかったらどれほど良かったか!

 僕は心中を悲しみで満たしながら、どれだけギャルビッチが恐ろしいかを皆に語る。


「誤解だよ! 僕は本当にギャルが怖いんだ! きっとことりちゃんも黒色のパンツとかはいてるんだ! きっとそうなんだ!」

「えー、ことりちゃんは話しやすくて良い子じゃない? 見た目で決めつけるなんて酷いよ」

「ことりはお友達絶賛募集中ですよ、一緒にクレープを食べるのです」

「妾もクレープ食べたいのじゃ! 主! クレープ!」

「ほら! やっぱり良い子じゃない。安心してね二人共! 私が後で特製クレープ作ってあげる! 隠し味もたっぷりだよ!」

「あ、さとみんごめん。それはちょっと遠慮しておくのじゃ……」

「なんで!?」


 むむむ、本当にビッチじゃないのかな……?

 ことりちゃんの話を聞いているととっても良い子に思えてきた。

 でもまぁいいや、吐いた言葉は戻せない。取り敢えず流れに身を任せつつ皆と仲良くなる方法を模索するかな!

 僕はそんな心境の変化をおくびにも出さずに変わらず偏見に満ちた言葉を投げつける、ただし今度は釣り針入りだ!


「だとしても! おっぱいとか凄く大きくて素敵じゃないか! きっとあのおっぱいで多くの男を誘惑しているに違いない! ハリウッドばりのベッドシーンを演じた挙句、鼻で笑われるんだ! おっぱい怖い!」


 そう、ことりちゃんはとっても大きな大きな2つのメロンを持っていらっしゃるのだ。

 彼女がビッチじゃないとしても、その柔らかくあふれんばかりの母性を感じさせる2つのエベレストで僕を誘惑しようとしているに違いない。

 僕はその憎きおっぱいを凝視しながら、決して誘惑には負けまいと決意を新たにする。


「むむ! 確かにおっぱいは大きいけど! なにそれ! そんなの関係ないじゃない!」

「絶望的な戦力差で悲しくなってくるのじゃー……」


 僕がおっぱいと言うなの強大な敵をこれでもかと見つめている事に気がついたのか、新妻さんは途端にぷりぷりと怒り出し、のじゃーさんは落ち込んでしまった。

 だってしかたないじゃないか! 僕みたいなピュアボーイはおっぱいにどうしても拒絶反応を示してしまうんだ! だからこれはそれを克服しようとする当然の反応なんだよ!


「いやだ、おっぱい怖い……おっぱい怖いよぉ……」

「ふっふっふ、がおー」


 僕の呟きに何を思ったのか、ことりちゃんは嬉しそうにそのエベレストを両手で持ち上げると、ゆさゆさと振りながら威嚇してきた。

 僕はその様子に怯えの表情を見せつつ、内心では最大級の賛辞を送る。


「羽田君? おっぱいは噛み付かないよ? なんでそんなにおっぱいに恐怖心を抱いているの?」


 新妻さんがどこかドン引きした様子でそう語りかけてくる。

 ふむふむ、良い感じに騙されているようだ、僕は新妻さんが向けてくる態度に一定の成果を感じつつ変わらぬ怯えた表情を見せる。


「あー、分かったのじゃ。多分恐怖を克服するために触らせろとか言うつもりなのじゃ。 相変わらずえっちな事ばっかり考えてるのじゃ!」


 が、しかしだ。僕の事を知り尽くしている子狐ちゃんが余計な口を挟む。

 まったく、失礼しちゃうな! そんな事これっぽっちしか思っていないって言うのになんて言い草だい?

 僕は咎めるような視線を素知らぬふりをするのじゃーさんに向けながら、そろそろ攻めに転じるかと話を切り替える。


「そんな訳ないじゃないか! でも触らせてくれるというなら否は無いよ、新妻さん?」

「触らせません!」


 新妻さんは、両腕で胸を隠しながら大声で拒否する。

 その様子もなかなか扇情的で素晴らしい、押しつぶされた果実がこれでもかとその存在感をアピールしている。

 ふふふ、素晴らしいね! けどまだまだ、僕の攻めは終わっていませんよ!


「そんな! 僕がおっぱい恐怖症のままでいてもいいというのかい! ああ! 新妻さんのおっぱいが怖い! ことりちゃんのおっぱいが怖い! のじゃーさんのは……あんまり怖くないや」

「あれ? なんで妾ごく自然にディスられたの?」


 のじゃーさんはぺったんこだからね! もっとも、だからと言って魅力が無いわけではないんだよ!

 そう、大きい胸には大きい胸の、小さい胸には小さい胸の、それぞれ素晴らしい所があるのだ。

 そんなおっぱいへの熱い思いを心中で再度確認しながら、最近ちょっぴり主への裏切りが激しいのじゃーさんへお仕置き代わりのディスを投げつけた僕は、おっぱいへの恐怖をこれでもかと繰り返しアピールする。

 そんな僕に喰らいついてくれたのはことりちゃんだ。


「パネ田さんはおっぱいが怖いのですか? 女の人とお付き合いできませんね」

「うん、だからおっぱいを触って女の子とお付き合い出来るようにならないと駄目なんだ! ことりちゃんも良かったら協力してね!」

「でもことりのおっぱいはこの中で一番大きいですよ? 恐怖に耐えられますか? がおー、たべちゃうぞー」


 ことりちゃんはノリノリだ。相変わらず大きなその2つのメロンをゆさゆさと揺らしながら僕を威嚇してくる。

 うーん、面白い子だなぁ、なんだか僕この子の事気に入っちゃったよ。

 もちろん、僕はそんな様子を少しも出さずに、のじゃーさん相手に今までさんざん培ってきた自慢の演技で新妻さんにすがりつく。


「うわーっ! 新妻さん! 助けて! おっぱいが、おっぱいが襲ってくる! 新妻さん! 僕におっぱいを触る勇気を授けてちょうだい! 僕には新妻さんしかいないんだ!」

「ディスられてからのこの空気感。こ、これが格差社会……」

「おっぱいの大きさと一緒ですねのじゃーさん、存在もおっぱいも全然ありません」

「おんどりゃー! ことりちゃんめ! 戦争なのじゃー!」

「ほう、ではことりのぐろーばる拳法をお見せしましょう!」


 なぜかことりちゃんにまで胸の大きさをディスられたのじゃーさんは怒り心頭の様子でことりちゃんへと飛びかかる。

 そうして、二人でジタバタとじゃれ合いながらその場より離れていってしまう。

 ありがとう、のじゃーさん。僕は君からのメッセージを受け取りました。このタイミングで新妻さんのおっぱいをゲットしろと言うことですね!

 僕は自らの使い魔の自己犠牲とも言える健気な奉仕に心底感動しながらこのチャンスを決してふいにはしまいと新妻さんへと向き直る。


「ことりちゃんがのじゃーさんとじゃれあっている! 今がチャンスだよ新妻さん! さぁ、僕に勇気を授けてくれ!」


 さぁ、新妻さん! チャンスですよ! 今なら誰も見てない! ぜひぜひ、僕におっぱいを触らせておくれ!

 僕は勢い良く新妻さんにお願いをする。だがしかし、勢いで流されるかなと思っていた新妻さんはそれはそれは冷えた瞳を返してきた。


「そんな事言っても騙されませんよーだ! 羽田君にはもっと私の師匠としてちゃんとした人間になってもらいます、甘やかされると思ったら大間違いだよ!」


 むぅ、流石に駄目だったか。

 最近の新妻さんはチョロ度が上がっているから勢いに乗せられて触らせてくれるかなと思ったけど、甘い考えだったらしい。

 僕は、がっかりしながらもなんとかならないかと粘ってみる。


「えー、責任は取るよ? 結婚するよ?」

「駄目! 全然まったく一切信用できません! おっぱいは禁止です!」


 新妻さんそう高らかに宣言する。

 なんという事だ、おっぱい禁止令。新妻さんはおっぱいを求めんとする僕の要求を一笑に付し、さらには恐ろしい暴挙にまででたのだ。

 あまりの対応に流石の僕も驚きを隠せない、しかしながらここで終わる僕ではない、こうなれば僕も最終手段を使うしか無い……。


「じゃあ僕も新妻さんに僕のおっぱい触らせてあげないー!」

「別に触りたくないよ!」


 間髪入れずに返ってくる突っ込み。

 ふふふ、だがしかし新妻さん? 本当にそう思っていますか!?


「あれ? いいの? 一生触れないよ。もう二度と触ること出来ないよ?」

「む!? いや……べ、別に」


 一生触る事が出来ない……。

 そう、ここで僕の要求を断ってしまえば、新妻さんは二度と僕のおっぱいを触ることは叶わないのだ!

 その事実に新妻さんも戸惑いを見せる、先ほどの威勢はどこに言ったのやら、途端に歯切りが悪くなると困った顔で悩み始める。

 うーん、効果てきめん! ってか本当新妻さんチョロイな……。

 そんなチョロイ新妻さん、通称チョロ妻さんであるが、僕もここで追撃の手を休めるわけにはいかない。

 彼女に追い打ちをかけるために自信たっぷりの顔で人差し指を高らかに掲げ宣言する。


「僕のおっぱい触りたい人、この指止ーまれ!」


 声が神域に響き渡る。

 それはどこまでも届くものであり、もちろん先程から離れた場所でじゃれあっている二人にも届くものであった。


「はーいっ! 妾は主のおっぱい触りたいのじゃ!」

「ほう、ではことりも興味本位で指をキャッチします」

「え……?」


 その言葉を聞き取ったのか、無邪気な子狐ちゃんと小鳥ちゃんが脱兎の如く駆けてきて胸の高さまでおろした人差し指を握りこむ。

 やぁ、二人ともナイスフォローだよ!

 僕は最高のタイミングで最高の一撃が放たれた事を確信すると、新妻さんにドヤ顔を向けながら、ワクワクとした視線を向ける子狐ちゃんと小鳥ちゃんに胸を突き出す。


「さぁ、じゃあ二人共思う存分触ってくれたまえ!」

「わーいなのじゃー!」

「どきどきしますね、楽しそうです」


 そうして、興味津々と言った様子で僕の目の前まで来た二人は、突然の事に唖然とする新妻さんを他所に僕の胸を触りだす。

 のじゃーさんは元気よく両手でモミモミと、ことりちゃんは軽く叩くようにペシペシと言った感じだ、二人共シャツの上から遠慮なしに胸を触ってくる。


「あ、えっと……」

「どうしたのかい、新妻さん。僕のおっぱい、引いては僕に興味がない新妻さん」


 何か言いたげにソワソワとする新妻さんに満面の笑みで答える。

 新妻さんはすでにまな板の上の鯉だ。僕に調理されてしまうその瞬間を待つばかりでしかない。


「ま、またそうやって私を騙そうとしてるんだ」

「やん、のじゃーさん、あんまり激しくしちゃ駄目だよ……あ、新妻さん何か言った? 聞こえなかったよ」


 新妻さんの突っ込みをわざと無視する、途端に悲しそうな表情をする彼女に少しだけ心が痛むが、これも全て必要な事なのだ。新妻さんを落とすには無くてはならない演出だ。

 僕は心を鬼にして、相変わらず僕の胸を揉みまくる二人だけを見つめる。


「えーのかー、えーのかーなのじゃー」

「おお、これが男の人のおっぱいですか。意外と筋肉がありますね、ぐろーばるです」

「結構鍛えてるからね、見た目よりはあるでしょ?」

「むー……」


 ふっふっふ、新妻さんはいい感じにむくれている。

 これは陥落まであと一歩の所に来ていますよ!

 僕は新妻さんの変化に満足感を感じながら、ラストスパートをかけるためのじゃーさん達へと声をかける。


「やめて! 優しく、優しくじゃないと嫌! あ、新妻さん。ちょっとそこで待っててね、僕二人とイチャイチャするのに忙しいから」

「嫌がってても身体は正直なのじゃー! うりうりー!」

「パネ田さん、胸の筋肉ぴくぴくさせてください。 ぴくぴ……おぉ! ぐろーばる」


 子狐ちゃんと小鳥ちゃんはノリノリだ。何が楽しいのか、物凄いテンションで僕のおっぱいを触りまくってる。

 と言うか、のじゃーさんはともかくどことなく眠たげな表情を見せていたことりちゃんまでもが今や歓喜の様相だ、ぺかーとした表情でピクピク動かす胸筋を楽しんでいる。

 うーん、ことりちゃんみたいな綺麗な子に胸を揉まれるってのも乙なものだね、僕新しい扉を開きそうだよ!


「うう……」


 僕が新しい世界との出会いを楽しんでいる時の事だ、新妻さんより唸るような、いじけるような声が聞こえてくる。

 ふふふ、これは……ついに子猫ちゃんが陥落しましたか。

 僕は顔を真赤にしながら目尻に少しだけ涙を貯めている新妻さんに視線を向けると、彼女の告白にいつでも答えれる様にその時を待つ。

 そうして――。


「羽田君! 私もおっぱい触りたいよ!!」

「どうぞ思う存分揉みしだいて下さい!!」


 大声で叫ばれる新妻さんのおっぱい揉みたい宣言。

 もう、本当になんて言うかチョロ妻さんになってしまったなぁ。

 僕の返事によって照れた笑みを浮かべなからこちらに近づいてくる新妻さんを見ながら、僕はそんな事を考えるのであった。

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