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思春期のシリアス

作者: きりん

 ある日突然、僕は超能力に目覚めた。

 夢でよくわからない女の人が言っていた。

「悪イ人、倒スデース!」

 白いローブを着た金髪のその人は、僕の手を取るとブンブンと振りわざとらしいカタコトでそんなことを言っていた。

 そして目が覚めたら僕は超能力に目覚めていた。

 何の冗談だ。

 そんなことを、もう百回くらい思った。

 だけど事実として、僕が右手をかざせばビルくらい簡単に地面から引っこ抜けたし、左手をかざせば山だって爆発四散した。

 本当に、何かの冗談だったら良かったのに。

 超能力を手に入れて数日後、それはやってきてしまった。

「げへへへ、人間滅ぼすなり~」

 急に空が曇ったかと思うと、黒い雲を割っていかにも悪魔と言った見た目の奴が僕の目の前に下りて来たのだ。

「げへへへ、聞いてるぞ。お前が超能力者だな~? 滅ぼすなり~」

 そして、ポカンと間抜けな顔をした僕へ向けて、その手に持った三叉の槍を突き出してきた。当然避けられるわけもなく、僕の肩にそれは刺さった。チクッとして、血が少し滲んだ。まあ、それなりに痛いに決まっている。

「はあ……」

 僕はため息をついて、右手をその悪魔へと向けた。途端に悪魔は「ふぎっ!?」と変な声を出して動けなくなる。次は左手。ちょっと力を込めると、悪魔は悲鳴を上げる間もなく爆発音とともに雲散霧消した。

 そんなことが、数週間も続いた。

 空から下りて来るのはいつもあの間抜けな悪魔だった。美少女のひとりやふたり、降ってきてもいいのに。いい加減にしてほしい。

 しかし悪魔は後から後からわいてきた。残機はいくつだ。無限1UPか。それとも一匹見たら百匹はいると思え、というやつか。確かにゴキブリにも似ている。

 その内、毎回毎回僕に瞬殺されて学習したのか、彼らは一匹ずつ来るのをやめて、群れで襲って来るようになった。最初は二匹、次は三匹と少しずつ少しずつその数を増やし、とうとう百匹で襲いかかってきた。んなバカな。

 いちいち動きを止めるのももどかしく、僕は片っ端から左手で爆発させた。しかし流石に百匹は多い。一匹爆発させている間に三匹くらいに槍で突かれた。痛い。すごく痛い。彼らは卑怯にも弁慶の泣き所ばかりを集中狙いし、僕はついに膝をついてしまった。

「げっへっへ~、チャンスなりよ~」

 悪魔達は勢いづいて、うつ伏せに倒れてしまった僕のお尻をみだれづき。チクチクチクチク、こんなにお尻を痛めつけられて、明日僕は椅子に座れるのだろうか。

 そんなことをぼんやり心配していると、いつの間にか目の前にいつかの女の人がいた。

「立ツノデース、少年。アナタニハ両腕以外ニモ使エル武器ガアルデショー?」

 それを聞いて僕は閃いた。そして立ち上がると同時に、近くにいた一匹を右足で蹴り上げた。

「ちょらー!」

 同時に、右足がスイッチになっていた超能力が発動。僕を取り囲んでいた数十匹の悪魔達は一瞬にして地面に落ちた。どうやら重力か何かにひどく引っ張られているようだ。高いところを飛んでいた奴はそれだけで死んでしまったらしい。低いところを飛んでいた奴は何とか重力に逆らおうとピクピク動いていたけれど、左足で踏み潰すとベチャっとゲル状になって溶けた。

 顔を上げると女の人はまだそこに立っていた。

「オ見事デス少年。コレデマタ平和ガ戻リマシター」

 そして、そんなセリフを残して光とともに消えてしまった。

 よくわからないけれど、どうやら僕は世界の平和を守ったらしい。そいつは良かった。僕は凝ってしまった肩をグルグルと回しながら、早く寝ようと家路を急いだ。

 しかし、世界を救った代償はそれなりに大きかった……。

「それが、こんな座布団を学校に持って来た理由というわけか?」

「そうなんです先生。悪魔達に突かれたお尻が痛くて痛くて、座布団なしではとても座っていられないのです」

「いやしかしそんな話が信じられるわけがないだろう。だいたいそれ、そんなに柔らかくないしドーナツ型だし痔座布団じゃ」

「僕は痔なんかではありません」

「いやしかし」

「痔じゃないです」

「……ふむ、まあわかった。特別に許可しよう」

「ありがとうございます」

 先生はどこか同情したような目で僕を見ると、「よし教科書開けー」と授業を始めた。

 こうして今日も、僕はお尻の平和を守ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきましたので、感想を置いて行こうと思います。 最初の六行で、二行、 ある日突然、僕は超能力に目覚めた。 そして目が覚めたら僕は超能力に目覚めていた。 同じような言葉が続くのが…
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