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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

堕ち逝くこの身、神の怒りに触れど

作者: マレ・シルワ

【登場人物】

サンドル  通称『灰かぶり』。

ソロル   上の姉。

サール   下の姉。

ペリステリ 鳩の長。

王子    国の泣き虫王子。

父     セリフすらない。

母     実母。

継母    頭と性格が悪い。



 その昔、純白の紳士が。


 自由気儘な鳩にとって神とは如何程の価値の存在なのか。きっと彼らの脳には神などという概念そのものが存在しないに違いない。


 〓


 ある貴族の娘は悲しみに明け暮れ榛の樹の下で泣いていた。彼女の母が今朝、神の所へと逝ってしまったからだ。誰よりも母になついていた彼女にとってそれは非常にショックで、支えを無くしたようなものだった。

 彼女はしかし、母の「いつでも正しく、清く生きていれば、祈りを捧げて善良でいれば神様は助けて下さいます。しかし、善良でいなければひどい罰が下されます……それを忘れないで、サンドル」という遺言通り常に正しく、毎日のように祈りを捧げて、そして泣いていた榛の樹を墓に植え、その世話をしながら過ごした。


 〓


 一年程経ち、父が新しい、美しい妻とその娘二人を迎えた。しかし美しいのはうわべばかり、根性もひねくれていて心はとても醜いものだった。ソロルとサール――という名前だったが、娘、サンドルからその綺麗な服を剥ぎ取ると汚れたぼろ着を着せ「あんたは今日から小間使いよ」とこき使った。

 父は基本的に家に居ない。そのため父に追い出させることも出来ず、ただひたすらこき使われ、我慢せざるを得なかった。

 サンドルが一日にやることは、家事全てに(それだけでも家は広い為大変なのだ)靴磨き、姉のぶちまけた豆を一粒残らず壷に戻す……色々あった。余りに忙しく神に祈りを捧げることなんて出来ずに一日が終わる。だからといって彼女の部屋はすでに奪われており、暖炉の近くで灰まみれになりながら眠らなければならなかった。そのせいで姉や継母からは『灰かぶり』とか『アッシェンブッテル』とか『灰まみれ』とか『灰』の付く名前で呼ばれた。


 〓


 ある晩、暖炉の近くで眠っていると夢に母が現れ「どうしても困った時は鳥に助けを求めなさい」とだけ言って消えてしまった。

 しかし夢の中、少しでも母に会えたおかげで彼女は少し楽になった。


 〓


 ある晩、国の王子が妃を決めるということで舞踏会を三日間開いていた。

「灰かぶり!早く支度をして頂戴!」

「サンドルです」

「うるっさいわね!あんたなんか名前なんてなくったっていいの!早く支度をして頂戴!」

 姉達は例のごとくサンドルをこき使い身支度をしていた。

「お継母さん、私も舞踏会に連れていって下さい」

「お前はそんなこきたない格好で舞踏会にでるのかい?」

「部屋に行けば……」

「あんたの部屋?いつそんなものが出来たのさ!」

 人の部屋を盗んでおいて偉そうにガミガミ言ってくる。

 変わりに姉が豆の袋を持って現れる。

「今から豆を撒くからそれを帰るまでに全部分けておきなさい。出来ないなら出ていってもらうわ。せいぜい灰と舞踏してなさい」


 〓


「もう嫌だ……何で私が……」

 もう何もかも嫌になり、彼女は榛の樹の下の闇で泣いた。第一、この家はサンドルとその両親のものなのだ。なぜ継母が主の様に振る舞う。

「……」

 少し、頭に違和感を感じた。彼女が涙も拭かず見上げると人影が立っていた。この木下闇でも解る白い髪と服。濁ったような赤い目。自分の頭を撫でてくれていたのは彼か彼女なのだ、と漸く気付いた。

「貴方は誰?」

「……」

 答えなかった。変わりによく通る、透き通った声で「貴女は何故泣くのですか」としゃがみながら色々おかしい訛りのある話方ど訊いた。

「姉に、暖炉に撒かれた豆を悪いものといいものを分けろと……一粒残らず……」

 彼はそこまで聞くと「お望みはそれかね?」と無表情に訊いた。

「え……えぇ……」

 その回答を聞くと彼は立ち上がり叫んだ。

「貴君!暖炉の中の豆を拾い上げ良いものと悪いものとを振り分けるんだ。悪いものは食べてもよいからな」

 彼が叫び終わるなり何処に居たのか雪のように綺麗な白鳩が十匹程サンドルの目の前に飛んできて、鳩が消えた時には彼の姿は消えていた。

「……?」

 彼女が恐る恐る家に戻ると暖炉の回りに鳩が群がり、豆を啄んでいた。あるものは飲み込み、あるものは鍋に豆を戻して、また豆を啄む。

 『鳥に助けを求めなさい』。その言葉の意味を漸く理解した。

 そして考えている間に鳩達は豆を分け終えていた。

「貴君、よくやった!好きに帰りたまえ」

 またいつの間にか彼は立っていた。鳩達はそれを聞くと羽も落とさず帰って行った。

「感謝しなくてはだな。貴女は舞踏会に行かないのですか」

 何故か彼は手袋をした手を取り(やはり無表情なのだが)満足気にいった。

「服が……無くて」

 サンドルはこの服しか無い。他の服は全部姉達が破いてしまったから。

「きたまえ」

 彼は手を引き、教会へ連れていった。

「体を洗ってきたまえ。なに、見たりなどするものか」

 彼はそう言い、裏の墓地へと消えた。


 〓


 彼女が戻ると金や銀のあしらわれたドレスが置いてあった。

「それを着ていきたまえ」

 彼はそれだけ言いまたも消えてしまった。

 サンドルは言う通りにし、教会を出ると馬車が用意されていた。

「早かったじゃないか」馬の操り手は、彼。


 〓


 美しくなったサンドルが入ると回りがざわめいた。『どこの国の姫だろう』と口々に騒ぐ。

「踊ってくれませんか」

 彼女の前に立った金の髪が綺麗な王子がひざま付いて訊いた。

「よろこんで」


 二人はずっと踊っていた。しかし、12時の鐘が鳴り始めると彼女は『失礼』と言い、消えてしまい、王子が止めても彼女は止まらず出ていってしまうのだ。さらに追いかけるにも他の女が押し掛け、身動きが取れなくなってしまい、結局、見失った。


 〓


「……貴方はなんていうの?」

 サンドルが帰り道、彼に聞いても彼はまるで聞こえていないかのように無反応だった。

「名前なんていうの?」

 もう一度訊いた。

「名前?」

「そう名前」

「……名前……名前?」

 彼は梟の様に首を捻る。

「……名前とは何だ?」

 彼は冷静な声に疑問の色を滲ませる。

「なんて呼ばれてるの?」

「鳩」

 彼はことも無げに言う。鳩の群の中で消えた時にそうは感じていたが。

「他には?」

「鳩の長、長、ペリステリ」

「『ペリステリ』……ってやっぱり『鳩』か……」

 ペリステリはギリシャ語で『鳩』の意味だ。

「……まぁいっか。ペリステリ、ありがとうね。ドレス何処に返せばいいの?」

「……榛の鳥達に」

 サンドルが教会で降りて再び礼を言おうと振り返った時、ペリステリと馬車の姿は無かった。

「……あれ?」


 〓


 ぼろ着に着替え、ドレスを榛の樹に掛けると、真っ白な鳩がそれを片付けてくれた。

 胸の高鳴りを押さえ、彼女は暖炉の元で横になった。


 二日目も、同じようにペリステリと鳩に舞踏会に連れていってもらった。


 〓


 三日目、王子は美しい娘を今度こそ逃がすまいと召し使い達に、階段にタールを塗らせた。

 そんなこと知らず、サンドルは昨日よりも美しくなって現れた。 そして時間になると王子の腕からするりと抜けるとタールの塗られた階段を急いで駆け降りていった。

「!」

 足が靴からタールで脱げてしまった。しかし引き返す暇がない。サンドルは何度も振り返っては急いで家へと帰っていった。


 〓


「ごめんなさい!靴を片方置いてきました!」

 教会の墓地の榛の樹の下。サンドルはペリステリを見つけると頭を下げて謝罪した。

「……」

 怒っているのか、そうでないのか判別に苦しむ視線が注がれる。

「……置いてきた方が好都合だったかもしれない」

 特に怒った様子も無く、ペリステリはそれだけ言うと彼女が頭を下げている間に羽音だけ残して消えてしまった。


 〓


 次の日。王子から「この靴を履ける者を花嫁とする」という御触れを出された。ここで漸くペリステリの言葉の意味を理解した。

 しかしその御触れを聞いて喜んだのは彼女以上に、二人の姉だった。二人は小さく美しい足を持っていたから。

 そしてサンドルの家にも一行が来た。まずは一番上の姉ソロルが試す。しかし爪先が入らない。

「王妃になれば歩かなくていいんだ。包丁で爪先なんか切ってしまいな」

 一番上の姉はその通りにし、痛いのを堪え、王子の前に立った。

「貴女こそあの時の姫だ!」

 王子は一番上の姉を馬に乗せ、城へ帰ろうとし、墓地の榛の樹の下を通ると鳩達が歌っている。

「クルックークルッポー。見てごらん」

「クルックークルッポー、何が見えるんだい?」

「クルックークルッポー。見てごらん、靴に血が溜まってる」

 そこまできくと石を投げて鳩達を追い払ってしまった。

 そして教会から出てきた白髪の背の小さな紳士に呼び止められた。

「どうしてこの娘さんは足から血を流しているのかね?」

「え?」

 王子が見ると確かに爪先から血が流れ出ていた。しかもよくみると爪先そのものが刃物で削られたかの様に無い。

「貴方の探す姫はまだ屋敷に居ますよ」

 王子はそれを聞くと屋敷へ急いで引き返した。

 真っ白な紳士は自分を睨み付ける娘に手を振り、眺めていた。


「次は私の番よ」

 二番目の姉が張り切るがこちらは踵が入らない。

「妃になれば歩かなくていいんだ。切ってしまいな」

 二番目の姉サールも同じ様に痛みに耐えて、教会の墓地の前までその幸せを感じた。

 墓地の榛の樹の下を通ると鳩達が歌っている。

「クルックークルッポー。見てごらん」

「クルックークルッポー、何が見えるんだい?」

「クルックークルッポー。見てごらん、靴に血が溜まってる」

 そこまできくと石を投げて鳩達を追い払ってしまった。

 教会の前に来ると教会から出てきた白髪の老婆が訊いた。

「おや、お城よりもここで包帯なり巻いたらどうですか?」

「包帯?」

「その娘さんの足から血が出てるじゃないですか。止血くらいならできますよ」

 王子はまた騙された、と思い、「貴方の探す姫はまた屋敷に居ますよ」と聞き覚えのあるフレーズを耳に受け止めながら引き返した。


「他に女性は居ませんか?」

「……一人、サンドルという小汚い娘がおります」

 継母はばつが悪そうにごもらせながらいう。

「彼女を連れてきて下さい」

「そんな……みせられるような」

「これは私からの命令です。連れてきて下さい」

 王子の冷たい視線が刺さり、渋々サンドルをつれてきた。

「……履いてみて下さい」

「……はい」

 サンドルは差し出された靴をすっぽり履くと「貴女があの時の姫だ!」と王子に抱えられ、馬に載せられた。

 教会の墓地の榛の樹の下を通るとやはり鳩達が歌っている。

「クルックークルッポー。見てごらん」

「クルックークルッポー、何が見えるんだい?」

「クルックークルッポー。見てごらん、靴に血なんか溜まってないよ」

「クルックークルッポー、本当だ、王子様が本当の花嫁を連れていくよ!」

 教会の前に行くと、白髪の紳士と白髪の老婆が居た。

「王子様おめでとう」「本当の花嫁を見つけたねですね」

「貴方方のお陰で嘘つきを花嫁にしなくて済みました」


 〓


 サンドルと王子の結婚式が始まると、ソロルとサールはおべっかを使って取り入ろうとした。 婚礼の入場の際、サンドルの右側ソロルが、左側にサールがついた。

 かつっ、

 するとどこからか真っ白な鳩が現れた。


「その者に天罰を!」


 新郎新婦が、観客が、神父がその透き通った声の主の方向を見る。

「ぺ……」

 それは紛れもないペリステリの声で、窓によじ登り其処からバランスよく窓枠に立ち、そう叫んでいたのだ。



 バサバサバサッッッ!



 二羽の雪のような鳩が向かったのは、二人の姉だった。

「その者に天罰を!」

 サールとソロルの肩に留まるとクルックーと喉を鳴らし、躊躇い無く二人の片目をつつき出したのだ。

「ぎゃぁぁあぁぁああぁァァァぁぁァァァァ――――ッッッ!!」

 二人の断末魔が教会で響く。

「鳩はエロスの母、アフロディアの化身とされている」

 その小さく周りの悲鳴や騒ぎで消えてしまいそうなのによく通る声は静かな怒りに満ちている。

 サンドルは彼がこんなに恐ろしい存在と初めて思い知った。

「貴女達は私の大切な友人達を傷付けました」

 赤い目には怒りのマグマが煮えたぎっている。

「アフロディアの化身とされている私が彼女を助けるのは必然で、鳩である私が仲間を引き連れ仇を討つのは当然でしょう」

 ペリステリはそれだけ言うと逆さまに窓から落ち、そしてやはり羽音だけを残して消えてしまった。

「……え……えー結婚式を再開します」

 腰を抜かしていた神父がそう仕切り直し、結婚式は再開された。


 〓


 婚礼の最中、彼は現れなかった。サンドルは恐ろしながら彼に一番自らの花嫁姿をみて欲しかったのだ。

 そして婚礼が終わり、退場の際、サールとソロルは反対の位置につき、退場の一歩を踏み出した刹那、二匹分の羽音がした。それは真っ白な紳士が描かれたステンドグラスと樹で鳥達が囀ずる絵の描かれたステンドグラスの間からで、やはり迷う事無く肩に留まり、躊躇いなく目をつつき出した。

 そして更に甲高い断末魔が教会の鐘さえも揺るがし、サンドルの純白のドレスに二人の眼窩からどろりと溢れた血が数滴分、滲みを作り上げた。


 〓


「ペリステリ!」

 ドレスから着替えたサンドルが教会の墓地へ、城を抜け出して来た。

 バサバサと羽音を立てペリステリが現れる。

「ペリステリは本当にただの鳩なの?あのステンドグラスの白い紳士は貴方なんじゃないの?」

「……」

 赤い目が彼女を見上げる。

「……」

 彼は答えない。

「……」

 只々沈黙だけが増していく。

「……」

「……」

「……繰返し」

 漸く彼はぽつりと、しかし通る声で呟いた。「へ……?」

「……罪」

「罪?」

「……業火」

「ごうか……?」

 頭が混乱していく。『繰返し』『罪』『業火』。それが何を意味するのか。

 鳩が飛んできた。それも数十匹の大群で。あぁ、またペリステリは消えてしまう。そんな残念な感情が漠然と頭に浮かぶ。

「……さらばだ」


 〓


 サンドルが教会へ戻って見ると神父が慌てていた。

「どうしたのですか?」

「鳩が一体何処から入ってたのかってみたらステンドグラスが一枚、全壊してるんだよ。鳩も恐ろしくなったなぁ……」

 改めてステンドグラスを眺める。

 一枚目はあるぼろを纏う少女が姉母にいじめられている。

 二枚目は三枚目と続いていて、姉母は城へ、少女は暖炉で何かをしていた。

 四枚目は白い、純白と紳士と鳥が描かれ――――

「これ……」

 息が詰まって苦しい。

 これは紛れなく、自分の辿った人生だ。

「神父様……これ……」

「あぁ、この地方の実話が描かれているのですよ」

 実話には違い無い。自分の辿った人生なのだから。

「いつ頃のですか」

「……比較的……新しい教会だから二百年位は前の話ですね……」

「二百……」

 この描かれている『純白の紳士』がペリステリとするとつまり、彼は二百年この姿を、いや、そもそも二百年も彼は生きていることになる。

「……その、全壊したステンドグラスにはどんな絵が描かれてたのですか」

「……あまり趣味のいい絵では無かったのですが……。……その純白の紳士が業火で焼き殺される絵が……描かれてました」

 何故?まず先に疑問が浮かび、次に引っ掛かったのは『業火』という単語だった。

「な……なんで……?」

 額に汗が浮かぶ。

「二人の目をつつき出された姉の母親が仇と……確か『罪を償え』と台詞が――――」

 彼女はそれを全て聞く前に教会を飛び出していた。

 向かうは、漆黒の煙が庭からあがる、我が屋敷。


 〓


「サンドル……サンドル!何処に居るのですかー……?」

 一人城に置いていかれ半ばベソをかきつつ馬に乗り、王子は花嫁の姿を探した。

 教会へ行くと神父に訊いた。

「神父様、私の花嫁を見ませんでしたか?」

「あぁ、姫様ならさっきステンドグラスのことを訊いて飛び出していきましたよ」

 彼もそれを聞くと教会から飛び出し、一本道でサンドルの庭から漆黒の煙があがる、屋敷へと向かった。


 〓



「あらお姫様、どんな御用で?」


 相変わらずの皮肉たっぷりの継母の物言いに腹が立ったが、今はそれどころでは無かった。

「その紳士をどうするつもりですかお継母さん」

「どうするって焼き殺すだけよ。大事な娘達の真珠のような美しい眼を奪ったんですもの。罪を償ってもらわなくちゃ」

 このナルシストめ!とでも叫んでやりたくなる。しかしその沸き上がる怒りを押さえ、睨みつける。視界の端に頭から血を流し紅白のグラデーションを作り上げてるペリステリが見えた。

「何故?先に罪を犯したのは姉さん達よ」

「何馬鹿な事を」

「鳩は仲間意識がとても強い。一匹に石を投げつけて怪我をさせれば数倍になって返される」

 サンドルは榛の樹の下を通った時に、何かが当たった様な傷から血を流している二匹の白い鳩を見た。聞くとそれは姉が投げた石だったと言う。

「目とたかが石?何億倍返しさ」

「そうね、主観が違うからそう思うかもね。でも貴女の前に暖炉みたいな大きさの石が飛んできたら怖がらずにいられるかしら」

 サンドルはペリステリの紐を解くと、背負って(ペリステリは驚く程に軽かった)城へと向かった。

「クルックー……クルックー……お嬢さんは…………だれ……ですか……?」

「私は貴方に助けて頂いたサンドルという娘です」

「クルックー…クルックー…」

 そこでペリステリは気を失った。「ペリステリ!」

「サンドルぅ……!サンドル!」

 そのタイミングで来たのはベソをかいた王子だった。

「泣かないで下さいよ……。それより彼をお願いします」

「え?誰?うわぁっ!血!」

「私の継母がやらかしました。もう『繰返し』とは言わせません」


 〓


 ペリステリが目を醒ますと見覚えのない場所の謎の物体の上で寝ていた。

「……?」

 立ち上がろうとし、右手を突いてバランスを崩す。

「――!」

 そして落ちるように謎の物体、ベッドから降りた。半回転し、体の左側が痛い。

「……っ」

 腕も捻ったのか、痛い。何より頭がズキズキする。

 飛べるかを確認しているとドアがノックされ「大丈夫ですか?」と聞かれた。「失礼します」

 入ってきたのはサンドルだった。

「ベッドから落ちたのですか?」

「……ベッド?」

「これですよベッド。まだ傷も治ってないし、ゆっくりしていって下さい」

 傷。

 暫く考え、漸く朦朧とした意識の中からソロルとサールの母親に煉瓦で頭を殴られた事を思い出した。

「継母さんは今日の十時に処刑されます」

 現在の時間は八時を少し回った頃合い。

「……リーインカーネーション」

 ペリステリがよろつきながら窓越しに空を眺める。

「……はい?」

「『輪廻』……」

 彼がくるりと此方を向く。その表情にはしっかりと喜びが含まれていた。

「私は輪廻から抜け出せた……」

 その赤い目で何を見透かし、何を見てきたのか。

「ありがとうございます」

 彼はそう、微笑んだ。

「もう二度と火で焼かれることも羽を全てもがれることもないのです」

「火で焼かれる?羽を全てもがれる?」

「あぁ!ありがとうございます!」

 彼は目を輝かせ言った。「私は自由なのです!」


 〓


 五十年生きた鳩の長は人の言葉を理解した。

 さらに五十年生きて人の言葉を話すようになった。

 百五十年生きた鳩の長は純白の紳士の姿をとる様になった。

 二百年生きて、人の望みを叶えるようになり、そして輪廻に束縛された。

 気味悪がられた自分を認めて欲しかった。

 受け入れて欲しかった。

 数十年、数百年、姿の変わることの無い赤目の純白の紳士を皆が疎遠した。

 時は巡った。

 彼が樹で羽を休めていると、ある少女が泣いているのが見えた。そのぼろ着に似合わない綺麗な娘だった。彼は彼女に問いた。なにが悲しいのかね?と。彼女は答えた。母が死んでしまい、継母と二人の姉が来たのだが、美しいのは顔ばかり、性根は最悪で朝から晩まで少女は働きづめで神に祈りを捧げる間が無いのだと言う。

 神様は祈りを捧げる者しか助けないというならば、本当に救われるべき者が救われることは永遠にないではないか!そもそも、『カミサマ』とはそんな酷い存在なのか?まず救ってから話は始まるのではないか?

 ――お嬢さん、任せなさい。私も力を貸しましょう。

 ――変わりに何時までも姿の変わることの無い私を気味悪がらないで下さい。

 彼女は屈託なく微笑み答える。「えぇ、とても可愛いですもの」

 淋しかったのだ。自分の周りの仲間が傷付き、死んで逝くのを見ているしかない自分が、悲しかった。

 城で舞踏会が行われ、その時もサンドルと同じようにしてやった。

 そして姉達の目も同じようにつつき出した。

 彼は自分との関わりのある人がそんな目で見られるのが嫌だったのだ。

 そして二人の母親に捕まり、抵抗する間もなく縛られ、そして「罪を償え」と火に投じられた。

 熱かった。

 痛かった。

 苦しい。痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い……!

 しかし彼は本当に『罰』なのだと思った。いや、理不尽なことを『罰』としたかった。

 仲間を使って復讐をした罰。

 カミサマに背いた。カミサマは善良な者しか救わない。だったら――――私は善良な者などではないから救われない。

『鳩よ、鳩。貴方は間違った事をした。しかし貴方は今、とても反省している』

 私が反省している?後悔ではなく?罪を着せた仲間達へ懺悔でもなく?謝罪でもなく?

 彼は悟った。


 カミサマなんてハナからデマカセじゃないか!


 ならばあの少女は何故苦しんだ!何故すがった!?あまりにそんなの残酷じゃないか!

 すがっていたものが崩れ落ち消えていく恐怖も悲しみも絶望も虚無感も彼は知っていた。

 彼は燃え盛る赤い業火の中、鳩に戻り、勢いよく火から飛び出し、途中で何かに当たった。

 彼は体が生暖かい事に気付いた。顔から血を浴びていたのだ。何故?彼が当たったのは継母の頬の辺り、そこを火を半ば纏い爪と嘴で削り、血が出ていたのだ。


 彼はそんな茶飯事を幾度も繰り返した。


 〓


「此からどうするのですか」

「……東へ、旅に出ます」

「ここにいませんか?」

「仲間がいるので」

「……」

「……ここに留まり続けることは出来ませんが、ここを出到着点にしてもいいですか……」

「……。もちろん」

「ではそうさせていただきます」










「東へ、命の限り進もう!」










.


 久しぶりの投稿です。

 最近は水彩色鉛筆がなんか来てて、あまり書いてませんでした。


 さて、前書きでの通り、エブリスタのイベントキャラ、サンドルとペリステリのお話です。タイトルの意味は、読めばわかりますよね……?

 ペリステリは別なペリステリでもよくね!?と思うほど私らしくなってしまいました。彼が暴走したら誰も(マジで)止められない。彼は鳩の長で、鳩一匹は強くありませんが厄介なのはその数です。糞まみれにされるわ、羽を散らかすわでかなり厄介です。彼が怒ることは中々ありませんが、そのトリガーは(精神構造が違うから当たり前だが)あっさり間違えて引いたりとかやりかねません。目をつつき出されるのは覚悟しておきましょう。

 サンドルは、王子がヘタレなので恐らく男勝りな人になっていくでしょう。


 そんな訳で、

 空腹に耐えながら

        鑿屋

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