#7
そういえば私の小説は結構名前を使いまわしていますw
窓が割れた。琉田は屋内に連れ込まれ、床に下ろされた。
「いたっ」
「おめでとう琉田くん、君は僕の友人として、素敵な天使になれるように選ばれた。」
亞奴田がそう冷ややかに言った。ここは教室。
「嫌!」
「あの光の矢は封印の鍵のイミテーションだ。だが所詮偽物。人間過ぎたり光として散ったり均衡を保てない有り様だ。」
亞奴田は短剣を取り出した。
「ただし、この封印の鍵だけは完璧だ。現実と魂を丁度良いバランスで解放する。それによって完全になる。」
亞奴田は琉田を見ながら言った。
「君を完全な者にしてあげよう。」
琉田はもがき暴れたが周りの天使達に押さえつけられた。
「君も察しているだろうが、この他クラスの連中は体育館倉庫で“解放”してあげた人たちだ。君はその仲間入り、いや、それよりも高い存在にしてあげよう。」
そして、秋中先生を刺した時と同じ、あの演説をした。
「聴きたまえ!我々人間は根本的な欠陥をはらんでいる。完全な魂を持ちながら不完全な肉体を有するためだ。」
廊下。息切れと足音が響く。
「怒り、不満、我欲、創造と破壊の衝動、恐怖、それらは肉体と魂の葛藤によって産み出された結果である。」
その言葉のありかを求めるように、走り、手に黒い板を持つ。
「肉体から魂が解放されるには、ただ一つ、この封印の鍵でその肉体の、」
教室でまた斉唱が行われた。
「死をもって償うべし。」
「やめろぉぉ!」
相田が教室に現れ、吸射鏡を天使らにかざした。
「ぎゃああぁ」
天使らは絶叫し、一気に逃げ出した。そんなに苦痛なのかこれは。
吸射鏡をポケットに入れ、相田は琉田に駆け寄った。琉田の胸に傷跡が。
「あっ」
「相田くん…私…天使になっちゃうみたい…あっ」
琉田がそう呻いた途端、琉田の背中から翼が勢いよく生えた。頭にうっすらと光の輪が浮かんできた。琉田は泣きながら言った。
「どうしよう!?」
「落ち着いて。人間の姿を保つんだ。今に君の意思が解き放たれて、人の姿を失う。爆発的な力を押さえて、人間であるよう努力するんだ!」
「でも、でも…」
琉田のエンゲージリングが輝き出した。
「どう、す…れ……ば……い………い…」
教室は爆発し、学校が倒壊した。相田は空高く吹き飛ばされた。琉田は自由への解放の喜びに何もかも忘れて飛び上がっていた。だが落ちようとする相田を見た。最初は何か分からなかったが、それが大切な親友だと気づき、落ちたら死ぬという事実を思い出した時、琉田はまっすぐ相田に向かい、そのまま掬いだした。そして遠く遠くに飛んでいった。
相田が気がつくと、どこかの孤島にいた。なぜここにいるのか相田には理解できなかった。傍に倉庫にあった食糧や、すこし焼け焦げた「ジクフリント」の歴史書があった。
「琉田…?」
相田が呼ぶと返事が来た。
「相田くん?」
「琉田は無事?」
「ある意味では無事じゃないわ。」
「あぁそうか、天使になっちゃったもんな…」
相田は琉田がどこにいるかは見当がついていた。右の後ろだ。だがあまりに強い光で直視できなかった。
「私に、ポケットに入ってるその鏡を向けないでね。」
吸射鏡の事だ。
「分かってる。琉田、人の姿に保てるのか?」
「できないわ。人間の姿になる事がどうしても辛いの。」
「なんで?」
「形という枠を自ら作って押し込められる…そのストレスがわかる?すごい神経の使う作業なの。私には神経はもう無いけれど、そんな感じ。」
「でも…亞奴田だって人の姿を保ってるじゃないか。努力すればなんとかなるよ。」
「そう…」
徐々に光が収まったので相田は振り返った。天使の姿の琉田は自分を抑えて人間になろうとしていた。だが琉田はもがき苦しみ、また光となって広がり、軽く相田は吹き飛ばされされた。
「うわぁ!」
「ごめん…」
「いいよ。」
「亞奴田はずいぶん努力したに違いないわ。そして先生を含む手下達が早いうちに人間に保つ事ができたのは亞奴田の指導力のおかげね。彼に従えばなんとかなるんだわ。」
「え、琉田は…」
「私は彼には従わない。でも貴方には迷惑をかけたくない。お別れね。」
「え…」
「私は自由になりすぎたの。だから一緒にいると貴方が辛い目にあう。これから私は旅に出るわ。なんとか人を保てるようになった時お会いしましょう。」
「え、でも…」
「この島はしばらく安全だわ。半月に一度、私たちの町からフェリーが来るから、出たくなったらそれに乗って。」
「え…琉田…」
「じゃあ。」
琉田は空へと飛び上がった。相田はその空を途方もなく眺め続けたが、空は相変わらず青いままだった。