#4
「何がどうなってるんだ?」
逃げ着いた倉庫の中で相田は頭を抱えながら言った。
「先生は一体どうなっちゃったんだ…亞奴田は…奴等は…」
「天使になっちゃったのね。」
瑠田はぼそりと言う。相田は言った。
「どういう事…人が天使になるってわけが分からない…」
「亞奴田くんの言う人類の解放、肉体からの自由が天使化…にしても、あの短剣は何かしら。」
「わからんが…まさかあの短剣を得るために旅してたんじゃないだろうな。」
「まさか…いや、そうかもしれない。」
その時、「諸君!」という叫びが聞こえ、二人は震えた。亞奴田の声だ。学校の方からだ。
「諸君、私は以前より、人類の願いを叶える者としてこの世に存在してきた。」
亞奴田は光に包まれた教室で十人程の人々に演説していた。
「しかしながら私は亞奴田辰彦という人間として産まれて来た。この世の人間らは表面上の性格性質でしか物事を判断しない。私が亞奴田辰彦として生きている限りは、私は人が求めている亞奴田辰彦というキャラクターを演じなければならなかった。何故なら私は人類の願いを叶える存在。この肉に産まれた以上は、この肉に掛けられた願いを果たさねばならない。
「従って、私という肉体では人類を救えない事を察した。私は苦しんだ。いかなる真実を訴えようと私の肉にはその資格はない。だから伝わらない。
「そんな中、私は、この剣の存在を知った。私をその肉の資格から解き放ってくれる存在。人間の本来の偉大性を取り戻す存在を。この学校で知った私は、運命を深く感じた。そう、偉大な剣、封印の鍵を!」
歓声。相田と瑠田はそれを聞きしばらく黙っていた。ふと、瑠田は言った。
「そう言えば亞奴田くんが先生刺す前に言ってた言葉覚えてる?」
「さあ。」
瑠田は亞奴田の厳かな言い方を物真似するかのように言った。
「『死をもって償うべし』…て。」
「言ってたね。」
「あの教室で天使になった人達は肉体は死んでるのかな。」
「分からない。でもヤツの言い方からすれば、肉体とか死ぬとかそういうのを超えてるんじゃないかな。」
「そう…」
「それよりもちょっと気になったのは、」
「何?」
「さっき亞奴田が、この学校で封印の鍵とかいう剣の存在を知ったとか言ってたよね。」
「…図書館…?」
「だろうね。ちょっと見に行く?」
「…私ちょっと怖い…」
「なんでだよ。一人の方が怖いよ。」
「天使には会いたくないわ。」
「こっちにだって来るかもしれないよ。」
「でも怖いの。」
「…そうか…じゃあすぐ戻るから倉庫にいてね。」
「分かった。」
相田は倉庫を出た。